表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天上人  作者: 鬼木 有葉
第四章 人形の館
70/196

五. 紅い月③

「うわあぁぁぁっ!」


エリックが腕を大きく()(かぶ)った瞬間、軽い音を立てて短剣が彼の背後(はいご)に落ちた。


「……ハイド、そっちは任せた」


片膝(かたひざ)をついたスラウはそう(つぶや)くと、剣を(さや)に収めた。

イザベラを()っていた糸が()られ、スラウはゆっくり と(くず)れ落ちた彼女を()き留めた。


予想外の展開に、ポカンと口を開けていたグロリオはふと目の前にハイドが立っていることに気づいた。


「え、え?! おわっ!」


突然(とつぜん)、糸が切れてグロリオはあっけなく床に転がった。


「おい! ()るなら言えよ!」


グロリオの不満が聞こえたかと思うと、アイリスは自分を(くく)り付けていた糸が離れていくのを感じた。


「あ……!」


よろめいたが、しっかりと腕を(つか)まれて引き寄せられた。


「ハイド……ありがとう」


微笑(ほほえ)むアイリスに相変(あいか)わらず彼は(だま)ったままだった。


「ラナン!」


スラウの声に我に返ったラナンは、イザベラを背負(せお)ったエリックが走ってくるのに気づいた。

自由になった指で印を結ぶ。

指を鳴らすと、2人を包んだ薄青色(うすあおいろ)の箱は隊員たちの頭上を飛び越えて後ろへ転がって行った。


「チニ! あの2人を頼む!」


すかさずグロリオの声が飛び、チニは防壁(ぼうへき)を張った。

エリックはイザベラの身体をしっかりと()き寄せると、チニの後ろへ回り込んだ。


「ナ、ナンデ?!」


マリーラがこの場の(だれ)よりも驚いているようだった。


「あなたが(あやつ)ってくれたおかげ、かな」


スラウはそう言うと、自分の首をトントンと(たた)いた。


「あなたは私たちの()()いは見たがったけど、本当に死んで欲しいとは思っていなかったんでしょう? せっかく手に入れたおもちゃが減ってしまうから。だから、私たちがやり合う直前に、大事な部分は()らせまいとした」


マリーラはそれを(だま)って聞いていた。


「あなたにとって、もっとも大事な糸は、私たちの手足を動かす糸じゃない。(ここ)に針みたいに刺さっていた、私たちの身体に指令を伝える糸。逆に言えば、これさえ()ってしまえばあなたの支配からも()げられるってわけ」


アキレアは驚いてスラウを見つめた。


「じゃあ、2人とも最初から分かっていて、この話に乗ったってこと?」


「私は分かってなかったよ。()けだったもん」


スラウは隊員たちの後ろに立っているハイドをちらりと見やり、苦笑いを浮かべた。


「でも、ハイドには分かってたのかも。アレで伝わったし」


「お手柄(てがら)だったな、スラウ。おかげで助かったよ」


グロリオはにっこり笑うとスラウの肩を(たた)いた。


「さぁ、あと1人! 仲間を返してもらおうか!」


その瞬間、隊員たちを風が(おそ)った。

咄嗟(とっさ)防壁(ぼうへき)を張ったグロリオの耳にチニの声が飛び込んできた。


「早く止めないと! フォセが!」


改めてフォセを見ると、彼女の身体は小刻(こきざ)みに(ふる)えていた。


「マリーラ! もうやめろ!」


グロリオは部屋の中心で悠々(ゆうゆう)(ただよ)う少女に向かって走ったが、風に(あお)られて勢いよく吹き飛ばされた。


「グロリオ!」


アキレアがグロリオの腕を(つか)んで防壁(ぼうへき)の中へ引き入れた。


「くそっ……!」


グロリオは(こぶし)を床に(たた)きつけてフォセを見上げた。

部屋の中心を取り囲むように渦巻(うずま)く風は、さらに勢いをつけ、屋根を()き破るほどだった。

巨大な竜巻(たつまき)を見上げていたラナンはふと肩を(たた)かれて我に返った。


「ラナン、僕の代わりにここを頼んで良い?」


「何するつもりだ?」


「フォセを止めてくる」


「は……?」


ラナンの思考が追いつく前に、チニはそこから飛び出していた。


「やめろ、チニ! (もど)って来い!」


「鳥さん! おいで!」


ラナンが止めるのも(かま)わず、チニは鳥の式を呼び出し、竜巻(たつまき)に突っ込んでいった。


(あん)(じょう)、風に()まれた鳥はあっという間に()()かれて散っていった。


「うぐっ!」


(くず)れた屋根の瓦礫(がれき)にぶつかり、チニは竜巻(たつまき)から(はじ)き出された。

風の中心で(ただよ)うフォセに腕を()ばしてどうにかしがみつく。

彼女の身体(かはだ)(ぬく)もりを失い、(ろう)のように固くなっていた。


「フォセ! しっかりしてよ! 僕だよ!」


風が今度はチニを振り払おうと、メチャメチャに吹き荒れた。

その(たび)に服が破け、白い背中を赤い血が伝った。

それでもチニは彼女の背中に回した腕を離さなかった。


「これ以上はやめてよ! 死んじゃうよ!」


そう(さけ)ぶチニの背中に先の(とが)った枝が刺さった。


「うぅっ……!」


ずっと守られてばかりだったから、今度は僕が守らなきゃ……

遠いていく意識に過去の記憶が混ざってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ