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天上人  作者: 鬼木 有葉
第三章 帰郷
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六. 2人のリーダー①

ごつごつとした岩山から切り出されたようにそびえる要塞(ようさい)頑丈(がんじょう)(へい)が囲っていた。

中からこぼれる光が付近を徘徊(はいかい)する(いく)つもの影をくっきりと浮かび上がらせている。


顔の横に生えている大きな(するど)い耳が細かく動き、飛び出した黄色い目玉が暗がりに光っている。

手足を動かす(たび)(するど)(とが)った(つめ)が冷たい岩肌(いわはだ)()()いて音を立てた。

不意に高く風を切る音がしたかと思うと、1匹がゆっくりと(かし)いで(たお)れた。

緑色の粘液(ねんえき)が床に広がっていく。

胸元には銀色に(にぶ)く光る矢が刺さっていた。

異変に気づいたゴブリンが(たお)れた同族(どうぞく)に近づいた瞬間、その頭が床に転がった。


フィリップは(へい)の上によじ登ると、魔物(まもの)の血のついた剣を壁に(こす)りつけた。

ヒュン――

矢が顔を(かす)めていった。

見上げると、壁に開いた穴から矢が飛んできていた。


「ちっ……! 気づかれたか……!」


フィリップは雨のように降る矢を(かわ)してひたすらに走った。


そのうちに攻撃が()んだ。

振り返ると矢倉(やぐら)からグロリオとハイドが飛び降りたところだった。

顔を()()わせて何やらもめている。


「だぁから! 俺が16匹で、お前は15匹だろ?!」


ハイドはグロリオを(だま)って見下ろすと、大きく()(いき)()いた。


「だって! あれはお前が()るより前に俺が……」


言いかけたグロリオはフィリップが近づいてきたのに気づいて口を(つぐ)んだ。


「ありがとな、引きつけてくれて……見張りは全滅(ぜんめつ)だ」


表情をコロリと変えて(さわ)やかに微笑(ほほえ)むグロリオにフィリップは思わず顔を引きつらせた。


自分が見張りの気を引いている間に他の隊員たちが侵入する。

こっちの気も知らずに悠長(ゆうちょう)喧嘩(けんか)とは、いい御身分(ごみぶん)だな。

思わず出かけた言葉を()()む。


「行くぞ」


フィリップは2人に声を()けると中へ向かった。


3人が走り去った後、離れた所からその様子をずっと見ていた小さな影が壁を(つた)って降りてきた。

そして、動かなくなったゴブリンに近づくとその(つめ)肉片(にくへん)()()いた。


「ううぅっ……」


「何よ、チニ」


フォセは隣でうずくまるチニを小声で(つつ)いた。


「フォセも見たでしょ? 今の……」


「見たけど、それが何? ただ、屍食鬼(ししょくき)がゴブリンの心臓を引きちぎって食べてただけじゃん」


「ううぅ……」


(さら)に小さくなるチニに、フォセはニヤリと笑うと彼の耳元で(ささや)いた。


「今からそんな気弱でだいじょーぶ? これから行く所、ああいうのがいっぱいいるんだよ? 他にも見たことないような魔物(まもの)がたくさんいたりして……」


「うぅ……もう止めてよ……」


チニの顔から()()が失せていく。

(ひざ)(つか)んで(ふる)える小さな頭をライオネルが優しく()でた。


「フォセ。怖がらせすぎだぞ」


フォセは悪戯(いたずら)っぽく片目を(つむ)ると舌を出した。


「こら! まぁたチニをいじめたなっ!」


フォセの頭をグロリオがくしゃくしゃに()いた。

水色のバンダナが大きくずれてフォセの目を(おお)った。

グロリオはバンダナを(もど)そうと躍起(やっき)になっている彼女に(かま)わず、チニの前に(ひざ)をついて真顔になった。


「良いか、チニ。心して聞け」


「……うん」


「もしアイツらが(おそ)ってきたら」


グロリオが言葉を切った。

チニの灰色の瞳が大きく(ふる)える。


「自分があいつらを食うつもりで戦え」


「……」


「良いな?」


「グロリオ……僕、どんなにお腹が()いていても屍食鬼(ししょくき)は食べたくないよ……」


「大丈夫。意外に美味(うま)いかもしれないぞ」


「何が、美味(うま)いかもしれない、よ!」


バンダナを巻き直したフォセがグロリオの(よこ)(ぱら)(こぶし)を入れた。


「なら、グロリオが食べなさいよねっ!」


「え、いや、それはちょっと……」


「えー?! 自分で言っておいて食べないのぉ?! ひっどーい!」


「チニとフォセはタンパク質とかカルシウムとか、たくさん()らなきゃいけないだろ?」


「ちょっと! 子ども扱いしないでよ!」


「うわっ! 止めろ、フォセ! 髪がっ!」


「いつもの仕返(しかえ)し!」


「いぃっ! いててて……俺、いつもこんなに強くやってねぇよ?!」


フォセに()みくちゃにされるグロリオを見てチニはクスクスと笑い声を上げた。


「ほら、みんな真面目(まじめ)にやって」


アキレアが手を(たた)いた。


「それじゃぁ、最後にもう1度確認するわよ」


彼女は胸元から手帳を取り出して読み上げた。


「フィリップ君、ハイド、グロリオの3人が先頭ね。ライ、フォセ、私がその援護(えんご)。アイリスとランジア、ラナン、トニーさんは攻撃の補佐を。チニとスラウは防御を専門にお願い」


「はい!」


返事をしたスラウは少し残念そうに自分の剣を見つめた。

剣もある程度(ていど)使えるし、本当は()()みや攻撃補佐(こうげきほさ)を任せて欲しかったが、何分(なにぶん)この隊での任務経験(にんむけいけん)は無いため後ろで見ている他無い。

そんな心情(しんじょう)(さっ)したのか、チニが声を()けてきた。


「スラウ、防御といっても防壁(ぼうへき)を張るだけが仕事じゃないんだ。皆の背中は全部守らなきゃならない。(ほこ)(たて)、両方の役割を果たすのが僕らの仕事だよ」


「うぅ……分かってるよ……」


スラウは(くちびる)(とが)らせると皆に続いた。

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