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天上人  作者: 鬼木 有葉
第三章 帰郷
53/196

六. 2人のリーダー②

「……と意気込んで来たは良いものの」


グロリオは今しがた蹴破(けやぶ)った(とびら)の向こうを見据(みす)え、剣を(かつ)(なお)した。

部屋の中は雑然(ざつぜん)としているが、動くものの気配(けはい)が無い。


「何で何もいねぇんだ? 見張りは居たのにな」


「居ないと言えば、あの2人はどこに行ったんだ?」


ラナンの声にグロリオは廊下(ろうか)に顔を()()した。

フィリップとトニーの姿がどこにも見えない。


「あり? お前たちと一緒じゃねぇのか?」


「違うわよ」


ランジアは返すと黒髪を()()げた。


「トニーさんが話があるって。フィリップ君を連れて行ったわ」


***


「おい、トニー」


フィリップは辺りを見回した。

声が(ひび)くようになった。

どこか広い部屋に来たのだろう。


「話って何だ?」


(つか)()れる手に意識を集中させる。

どこに敵がいるかも分からない状況で、彼らから離れるのはあまり良い考えではない。


だが、松明(たいまつ)(かか)げて先を行くトニーは答えずにズンズンと行ってしまった。

フィリップは()(いき)()くと、その後を追った。


「フィリップさん」


突然(とつぜん)、トニーが立ち止まった。


「俺は……あなたに言わなきゃいけないことがあるんです」


「何をだ?」


フィリップは()えていつも通りの声で返した。


「お前が俺を裏切ろうとしていることか?」


「……っ!」


暗がりの中でも息を()む気配が伝わってくる。

疑いたくは無かったが……

フィリップは低い声で付け加えた。


「お前が手を組むとしたらここの(あるじ)以外に居ねえよな? 会いたがっているなら会ってやるさ。元々の計画はその首を取ることだったんだから」


「フィリップさん。あんたは俺が裏切ると知っていたわけですかい? でも、俺をわざわざ同行(どうこう)させたのは、ご親切に(だま)されたフリをしていたって訳だ」


「ちげぇよ」


フィリップの声が広い部屋に反響(はんきょう)する。


「俺は団長としてのケジメをつけたいだけだ。何がお前を裏切りに駆り立てた? いつからだ? いつからゾルダーク・エリオットと通じていた?」


「ふん……答えたからって何になるんですかい?」


「良いから答えろ」


「……」


フィリップはじっと彼の次の行動を待った。

突然(とつぜん)、トニーが振り返った。

口元が(ゆが)み、目には奇妙な光が宿(やど)っている。


「……恐らくあんたがここに来た理由と()()ですよ。残念ながらあんたの望みは(かな)わない。俺が何の為にあんたをここまで連れてきたんだと思うんです? ただ話す為? いいや、違う。あの方に会わせる為? いいや、違う! ここであんたに死んでもらう為ですよ!」


突然(とつぜん)天井(てんじょう)や壁からカサカサと音が聞こえてきた。


「この要塞(ようさい)魔界(まかい)とこの世界の狭間(はざま)にある。()()魔界(まかい)の生物に、あなた独りでどれだけ(たも)ちますかね?」


フィリップは急いで剣を引き抜いた。

今まで気配(けはい)を感じられなかったのは、彼らが直前まで別の時空に(ひそ)んでいたからだ。

今や、自分を見つめる無数の瞳が不気味(ぶきみ)な光を放っている。


「数が多すぎるな……」


「手伝ってあげよっか?」


頭上であどけない少女の声がしたかと思うと、正面の群勢(ぐんぜい)が吹き飛ばされていった。


「お前……!」


フィリップは思わず声を上げた。

金色の髪をなびかせたフォセはゆっくり両腕を下ろした。


「数が多すぎるんでしょ? なら私たちの出番だよね、ライ」


フォセはにっこり笑うと(となり)に立つライオネルを見上げた。


「な、何故(なぜ)お前らがいる?!」


トニーの驚愕した声が響く。


「悪いが後をつけさせてもらったよ。でも気づかなかったろ? 覚えておくといい。忘れられた天使。これが俺たちの名だ」


答えるライオネルの背後(はいご)にいつのまにか他の隊員たちが並んで立っていた。


「そんなに驚くことかしら?」


ランジアの声にトニーの表情がみるみる青ざめていった。

ライオネルはゆっくりとトニーに歩み寄った。


「今ならまだ(もど)れるぞ……ここから」


「化物がぁっ!」


トニーはライオネルを()()ばすと、(はじ)かれたように飛び出した。


「トニー!」


「フィリップ君!」


追いかけようとしたフィリップの肩をグロリオが(つか)んだ。

次の瞬間、巨大な(おの)が振り下ろされた。

巨大な(よろい)に身を包んだそれはギラついた瞳でこちらを(にら)んでいた。


「な、何だ、これ?」


「ゴブリンだ。このデカさ……親玉クラスだな。デカいくせに常軌(じょうき)(いっ)した速さで(おそ)ってくる。全く厄介(やっかい)なヤツだぜ」


グロリオはそう言うが早いか、跳躍(ちょうやく)して剣を振りかざした。


炎蛇(えんじゃ)!』


剣から炎が上がり、燃える2匹の(へび)が現れた。

蛇はゴブリンの身体に巻きついて動きを(ふう)じ、燃え上がる剣がその巨体(きょたい)()()いた。


「わ、わりぃ。助かった……」


「まだだ!」


グロリオは続いて(おそ)いかかってきたゴブリンと交戦しながら声を張った。


「君は行け! 背中は俺らに任せろ!」


「……あぁ、頼む」


フィリップは(すで)に小さくなっているトニーを追った。

その背中に闇狼(あんろう)が飛びかかった。


「……っ!」


思わず身構(みがま)えた瞬間、(けもの)が空中で動きを止めた。

よく見ると青い(おり)の中に狼が閉じ込められている。

(けもの)がもがくように手足を動かした瞬間、それは後方に吹き飛んでいった。


「任せとけ!」


ラナンが手を振った。

ヒュンーー

風を切る音と共に銀色の矢が飛んでいく。

ライオネルは矢をつがえ直すと壁を伝い下りてくる魔物を射落(いおと)していた。


「ここが魔界(まかい)と繋がっているということは、どこかに装置(そうち)があるはずだ」


「今、チニに探してもらっているわ」


背中を合わせるようにして立つアキレアが矢を放った。


「ランジア! そっちに行ったわよ!」


2人の矢の雨を(くぐ)()けたゴブリンたちがランジアに突進していった。


『我に宿(やど)りし氷の力よ。(なんじ)の冷たい息吹(いぶき)で彼らを包め……凍結(とうけつ)!』


ランジアが腕を振ると一気に気温が下がり、(こお)らされた魔物はゴトゴトと重い音を立てて地面に(くず)れた。


「……っ!」


咄嗟(とっさ)防壁(ぼうへき)を張った瞬間、目の前に(たお)れていた魔物(まもの)の軍団が竜巻(たつまき)に巻き込まれた。


「巻き込まないで」


ランジアは宙に浮いているフォセを(にら)んだ。


「あ、ランジア。そこにいたんだ……」


フォセは気まずそうに(つぶや)くと一目散(いちもくさん)()げていった。


「ふふふ……仕方(しかた)ないわよ」


防壁(ぼうへき)()いたランジアにアイリスが声を()けてきた。


「フォセのパワーはいつも私たちを元気づけてくれるでしょ?」


加減(かげん)を知らな過ぎるのよ」


ランジアは首を振った時、(いく)つもの小さな(かげ)が近づいてきた。


屍食鬼(ししょくき)……」


嫌悪(けんお)の気持ちを(あら)わにするランジアをよそにアイリスは天使のような笑みを浮かべた。


「あら、たくさん来たわ」


その瞬間、彼女の背後(はいご)から闇狼(あんろう)が飛びかかってきた。

振り返ったアイリスの(あわ)い青色の瞳が強い光を放った。

彼女に(にら)まれた狼は途端(とたん)に手足を投げ出して座り込んだ。


それに興味を持ったのか、屍食鬼(ししょくき)が1匹近づいてきた。

次の瞬間、(するど)(つめ)()()かれた小さな肉片(にくへん)()れに投げつけられた。


「グルルルッ……!」


牙を()いて威嚇(いかく)する狼に屍食鬼(ししょくき)はジリジリと引き下がった。

そして1匹が背を向けて走り出したのを皮切(かわき)りに、雲を散らすように()()した。


「あらダメよ。彼に背中を向けたら」


アイリスの顔には微笑(びしょう)が浮かんだままだ。


戦意(せんい)()せた獲物をとことん追うもの」


闇狼(あんろう)咆哮(ほうこう)に応えて数匹が()(まど)屍食鬼(ししょくき)(おそ)(はじ)めた。


「……さて、次は何が来るかしら?」


「アイリス、怖……」


その一部始終(いちぶしじゅう)を見ていたスラウは思わず(つぶや)いた。

アイリスには見た対象の行動を(あやつ)る能力がある。

それを使って彼女は闇狼(あんろう)手駒(てごま)魔物(まもの)()っていた。


自分たちに任された役目は、この広い空間に(かく)された魔界(まかい)との時空を(つな)いでいる装置(そうち)を探すことだった。

気配に敏感(びんかん)なチニの案内を頼りに隊員たちが装置(そうち)を破壊していた。


「グロリオ、次はその左の洞穴(どうくつ)の入り口を見てみて」


チニが(にぎ)りしめた通信機に話しかけている。


『おおっ! あったぞ!』


グロリオの上気(じょうき)した声が聞こえる。


「残りの2つは、さっき言った場所にあるよ」


少し安堵(あんど)した様子のチニの背中をスラウはじっと見つめた。


「……(すご)いね」


「ん?」


「いや、みんな(すご)いなぁって……それぞれ、自分たちの役割を持って戦ってる。きっとこの中の(だれ)かが欠けてもダメなんだよね」


チニは何も答えなかった。

この小さな背中が何を物語っていたのか、スラウにはまだ理解できなかった。


突然(とつぜん)、広間が轟音(ごうん)と共に()れた。

あちこちの天井が(くず)(はじ)めたのだ。


「そうか! 装置(そうち)を破壊したせいで、要塞全体(ようさいぜんたい)(くず)(はじ)めているんだ」


「フィルにも伝えないと!」


「分かった。ここは任せて!」


スラウはその言葉を聞くや否や、飛び出した。

それを(ねら)って異形(いぎょう)魔物(まもの)(おそ)いかかってくる。


「1匹1匹(かま)っている(ひま)は無いんだよね……」


近づくゴブリンを威圧(いあつ)して視線を走らせる。


「そういう事でっ!」


スラウは勢いよく飛び上がり、()れを飛び越えた。

それでも、ゴブリンたちは雄叫(おたけ)びをあげて辛抱強(しんぼうづよ)く追いかけてきた。

とうとうスラウは(すみ)に追い詰められた。


「まあまあかな」


瓦礫(がれき)の上に立つスラウをゴブリンの矢が(ねら)う。

(たく)みに(はら)いのけると剣を(かま)(なお)し、足元に広がる()れに()()んだ。


「……一丁上(いっちょうあ)がり」


(ひざ)をついていたスラウがゆっくりと剣を収めるとゴブリンはドサドサと身体を()()らせて(たお)れた。


「ランジア!?」


ぼうっとそれを見ていたランジアをアイリスが引き寄せた。

彼女に(こお)らされていたはずの闇狼(あんろう)の身体が(かす)かに(ふる)えている。


「大丈夫?」


顔を(のぞ)()んだアイリスは思わず目を見張った。


「どうしたの? すごい熱……! グロリオ!」


「どうした?!」


「分からないわ! 熱があるようなの!」


「こりゃ、まずいな。ハイド、残る2つの破壊(はかい)、任せて良いか?……ハイド?」


返事のないハイドにグロリオが振り返ると背中合わせで立っていたはずの彼は(ひざ)に手をついて荒い息をしていた。


「どうしたんだ、お前?!」


「体力が消耗(しょうもう)しているんだ」


ライオネルが近づいてきた。


「もっと早く気がつくべきだった。ここの気温は異常に高い。特性が氷と霧の2人にとっては最悪の環境だ」


「つまり、普段(ふだん)の攻撃の威力(いりょく)(たも)つ為に、いつも以上に力を使ってしまったのね」


アイリスが(つぶや)いた。


「そうか……わりぃな。こんなことにも気がつけなくて……」


グロリオが(こぶし)を固めた。


「ランジア、ハイド。2人は先に(もど)って休んでろ」


異を唱えようと2人が口を開きかけたが、グロリオが(さえぎ)った。


「良いから休め。分かるだろ……これ以上、戦力を失いたくない」


「これを」


ライオネルが小瓶(こびん)を差し出した。


「体力の回復を早める。(ただ)し、飲んだら数分は絶対安静にしなきゃダメだ」


「ちっ……!」


ハイドは舌打ちすると、近くをうろつく屍食鬼(ししょくき)腹立(はらだ)たし()()()てて去っていった。


「アイリス、悪いがランジアを連れて行ってくれ」


「任せて」


2人が去った後、グロリオは目の前に(むら)がる魔物(まもの)(にら)んだ。


「さて、どうすっかな……」


***


「フィル!」


スラウはフィリップを見つけて安堵(あんど)の息を()らした。


「大丈夫だったんだね!」


「あぁ。だけど、通路が……」


2人は(くず)れた通路に目を向けた。

余りにも多くの瓦礫(がれき)が転がっていて通り抜けられそうにない。


「スラウ!」


ラナンの(さけ)(ごえ)が聞こえた瞬間、顔の横を何が(かす)めた。

(ほほ)に熱が伝わり、血が一筋(ひとすじ)流れる。

反射的に剣を抜き、次の攻撃を受け止めた。

目の前には新たな魔物(まもの)群勢(ぐんぜい)が立っていた。

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