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天上人  作者: 鬼木 有葉
第三章 帰郷
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五.隠密行動 ①

荒野(あれの)の空を大きなハゲワシが旋回(せんかい)している。

スラウは空を(あお)いだ。

ミレーの村がまだあった頃の空と今の空。

フィリップはあれから10年()ったと言っていた。

だが……

地上がどんなに変わり果てても、空が変わることはない。


「スー。行くぞ」


フィリップが小声で(つつ)いてきた。

スラウは我に返ると彼に続いて岩陰(いわかげ)から()()た。

ゾルダークのいる要塞(ようさい)までは今まで潜伏隊(せんぷくたい)(ひき)いていたトニーに案内してもらうことになっていた。

曇天(どんてん)でも太陽が高く(のぼ)っている間は明るく感じる。

そのおかげか、闇狼(あんろう)も、咆烏(ほうう)も今は見当たらなかった。



肩に乗っていたラナンが急にスラウのローブを引っ張った。


「あそこに何かがいる」


目を()らして、草の間に隠れる小さな影をようやく見つけた。

背の曲がった小さな身体に、ぎょろついた黄色い瞳。

数本欠けているが、(とが)った歯と頭の先まで()びた耳が特徴的(とくちょうてき)だ。


「ゴブリン?」


「いや、屍食鬼(ししょくき)だな」


首を(かし)げるスラウにライオネルが説明してくれた。


「身体はゴブリンよりも小さいが、(するど)い爪と歯で獲物を()()き、その肉を()らう。(しかばね)を主食とするが、空腹時には(やみ)に乗じて狩もする非常に危険な種族だ。昼間のうちからここに居るとはな……」


「みんな! こっち!」


フォセが隊員たちを手招(てまね)いた。

隣にはトニーが落ち着かなげに立っている。


「あの岩の下に(とびら)があるの。分かる?」


目を()らし、スラウは(うなず)いた。

最初は岩の一部に見えて、なかなか見つけられなかったが、その(かげ)に留め金の外れかけた(さび)だらけの鉄の(とびら)が見えた。


「トニーさんが見つけてくれたんだって」


トニーは照れくさそうに頭を()いた。


「い、いや、偶々(たまたま)見つけたんですよ」


グロリオは微笑(ほろえ)むと彼の肩に手を置いた。


「それじゃ、行きましょうか」


***


(とびら)(きし)みながら開き、パラパラと足元の小石が暗闇(くらやみ)に吸い込まれていった。

グロリオは(とびら)の奥に顔を()()むと、皆に待つように指示を出し、(くず)れた階段をひょいと飛び降りた。


指を軽く振って指先に火を灯して(かか)げる。

坑道(こうどう)が続いているようだ。

古びたシャベルやバケツが散らばっている。

もう1度左右を確認すると、上で待機している隊員たちに合図(あいず)した。


「よし、全員(そろ)ったな」


グロリオはそう言うと全員の顔を見回した。


突入(とつにゅう)する前に、ある程度(ていど)の位置関係を把握(はあく)しておいた方が良いだろう。ハイド、チニ、フォセ、アイリスとランジア。悪いが、この先の通路の下見をしてきてくれ。無茶だけはするなよ。ある程度(ていど)分かったらここに戻ってきてくれ。俺たちはここで待っているから。侵入は慎重(しんちょう)に、隠密(おんみつ)にしないとな」


「当たり前だ。お前ほど馬鹿(ばか)ではない」


「なっ?! 人が心配してやったのに!」


ハイドは唖然(あぜん)としているグロリオに背を向けて去っていった。

フォセたちはニヤリと笑って手を()げると彼に続いて通路に消えた。


「さて! むっつりバカもいなくなったことだし、俺たちも行動しようかっ!」


グロリオがふてくされ気味(ぎみ)に言った。


「ここは坑道(こうどう)だ、ランタンくらいはあるだろう。まずはそれを探して……それからここを調べよう」


グロリオの言葉で残った者たちは一斉(いっせい)に散らばった。


ひしゃげたバケツをひっくり返したライオネルは首を振ってそれをガラクタの山に(もど)した。


「おい」


突然(とつぜん)声をかけられて振り向くと、フィリップが立っていた。


「お前ら、何者だ?」


「……何が言いたい?」


()()()()狼に(おそ)われた仲間が瀕死(ひんし)にならずに済んだ。()()()()突風が()()れ、狼の群れが吹き飛ばされた。何が起こっている? お前たちは、スラウは……何者なんだ?」


ライオネルはしばらく沈黙(ちんもく)していたが、(おもむ)ろに口を開いた。


「俺たちは人間だよ」


「は?」


「君たちを地上界(ちじょうかい)に住む人間、地上人(ちじょうびと)とするなら、俺たちは天上界(てんじょうかい)に住んでいる人間、天上人(てんじょうびと)だ」


天上(てんじょう)……(びと)……?」


「あぁ。ただ、俺たちは、半分は天使の血を()いでいる。君の周りで起こった偶然(ぐうぜん)はその力によるものだ」


「じゃあ、スラウもその……『天上人(てんじょうびと)』ってやつなのか?」


フィリップは、まるで初めてスラウを見るかのようにまじまじと彼女を見つめた。


唐突(とうとつ)なことで驚くのも無理はない。だが、彼女もその資質(ししつ)を持っている」


フィリップはそうか、と(つぶや)いたきり(だま)()んでしまった。


「スラウ?」


アキレアは首を(かし)げた。

スラウが大きな木の箱に片足を()()んだまま固まっていた。


「どうしたの? ぼうっとして」


「あ、いや、な、なんでもないよ……」


スラウは(あわ)てて首を振った。


「ねぇ、もしかして……」


アキレアがぐいと顔を寄せてきた。


()に気があるんでしょ?」


目線の先には話をしているフィリップとライオネルがいた。

スラウの顔がみるみる赤くなっていくのがこの小さな明かりでも分かる。

アキレアは彼女の肩を小突(こづ)いた。


「べ、べつに、そ、そ、そういうのじゃない……よ」


次第(しだい)に消え入りそうになっていくスラウにラナンが思わず振り向いた。


「え?! まじ?!」


「そ、そんなんじゃないってば!」


スラウは(あわ)てて否定した。


「でも……」


「でもぉ?」


思わず口をついて出てきた言葉に、2人がにやにやしながら聞き返してきた。


「でも! ひ、(ひさ)しぶりに会ったら……背も伸びてるし凛々(りり)しくなったなぁって思ってさ……私なんて全然変わらないのに」


スラウは自分の身体を見下ろした。


あの日、天上界(てんじょうかい)に来た日から自分の身体は少しも成長していない。

でも同じ年のフィリップは見違えるように変わっていて、ずっと育ってきた故郷(ふるさと)も変わっていて……


「何か、私だけ置いてかれちゃったみたいだなって」


ラナンとアキレアは気まずそうに目を合わせた。

天上人(てんじょうびと)地上界(ちじょうかい)に住む人間よりも(なが)く生きる。

理由は諸説(しょせつ)あるが、彼らの身体的な成長は非常に(おそ)い。

力が開花したスラウの成長が止まってしまったように感じるのも無理はない。

天上界(てんじょうかい)に居る間は時間の流れというものはあまりにも遅く、それを意識することはない。

だが、地上界(こちら)では……

アキレアはふと微笑(ほほえ)んだ。


「時をどれほど()ても彼は彼だし、スラウはスラウでしょう?」


「そう……だよね……」


スラウは何気(なにげ)なくフィリップの方を見た。

その時、彼もこちらを見て2人の視線がかち合った。


「……っ!」


(みょう)に意識してしまい、勢いよく顔を(そむ)けた瞬間、バランスを(くず)してしまった。

思わずアキレアの(そで)を引っ張った為、2人で箱の中に(たお)()んだ。


「いたたた……」


頭をさすって起き上がった時、ガタンと箱が大きく(かたむ)き、2人は再び尻餅(しりもち)をついた。

次の瞬間、箱は勢いよく通路に飛び出した。


「きゃぁぁぁぁぁっ!」


「あ! おい!」


ラナンが(あわ)てて追いかけて転がり込んできた。


「何?! 何が起きているの?!」


アキレアが身を乗り出して後ろを振り返った。


「トロッコだったんだ!」


ラナンはガタガタという音に負けじと(さけ)んだ。


「地面を見てみろよ! レールが()かれているだろ?」


(もど)れないの?!」


「分かんねぇよ! こんなの初めてだ! スラウ、何とか言えよ!」


スラウは真っ青な顔をして(だま)っていた。


「大丈夫か? そんなに気にしなくて良いぞ? (もど)れるだろうし……」


「違うの……」


消え入りそうな声に2人は耳を近づけた。


「気持ち悪い……」


「マジかよ! ちょっと待て! 今、スペース作ってやるから!」


ラナンはそう言うと(あわ)てて動物の姿になった。


「うぉっ……! この姿だと感覚が敏感(びんかん)になりすぎて……目を回しそう……だ……」


「ラナンまで?! しっかりしてよ!」


アキレアは気を失った2人を()(うご)かした。


「どうしよう?!」


「アキレア!」


声に振り向くと別のトロッコが追いかけてきていた。


「グロリオ!」


「大丈夫か?!」


「えぇ、私はね。でも、この2人が目を回しちゃって……」


「分かった! ライ、頼む!」


ライオネルが印を結ぶと木の枝が()びてきて、アキレアたちの乗るトロッコと(つな)いだ。


「待ってろ! 今行くから!」


グロリオはトロッコの前部分に付いている金属を(つか)んだ。

手から炎が()()し、鉄が赤い光を放った。

2つのトロッコがぶつかり、熱された金属がくっついた。


「トウッ!」


グロリオは(さけ)ぶとアキレアのいるトロッコに飛び移り、彼女の()んだ瞳を(のぞ)()んだ。


「君が窮地(きゅうち)(おちい)っている時、例えそれが世界の果てだろうと飛んで行くさ。もう俺から離れるなよ」


「グロリオ……」


「アキレア……」


手を取り合い、良い雰囲気(ふんいき)になっている2人にライオネルが声を掛けた。


「これ、どうやったら止まるんだ?」


「いや、分からん」


「レバーだ!」


ライオネルの後ろからフィリップが顔を出した。


「前を探ってみろ! 細長い金属がついているはずだ! それで方向転換もできる!」


「これか! 随分(ずいぶん)()びついているな……どう動かすんだ?」


「グロリオ! 前! 前!」


アキレアがグロリオの(そで)を引っ張った。

壁が(せま)ってきている。


「横に(たお)せ!」


フィリップの声にグロリオは(あわ)ててレバーを引っ張った。

ガガガッ――

トロッコの側面が壁に(こす)りつけられながら勢いよく曲がった。


「よ、よし! 何とか乗り切ったぞ……」


「待ってグロリオ! 前見て!」


「アギャァァッ!」


グロリオの(さけ)びが薄暗(うすぐら)坑道(こうどう)に響いた。

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