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天上人  作者: 鬼木 有葉
第三章 帰郷
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二. 再会

「何、ここ?!」


アキレアが思わず後退(あとずさ)りした。

()(くさ)()()けた先にあったのは、清流(せいりゅう)の流れる谷間(たにま)などではなかった。

草木も()れ、風も感じられない荒野(こうや)だった。

ところどころで黒い(けむり)が地面の穴から細く流れ、空には暗く重い灰色の雲が立ち込めている。


「何が起こった?」


ライオネルがグロリオに(たず)ねた。

グロリオは通信機を耳から(はず)し、(にぶ)く銀色に光るそれを(にら)みつけた。


「……分からない。連絡塔(むこう)困惑(こんわく)していた。出発時までは正常だった時空(じくう)が問題を起こしたらしい……俺たちはどうやら契約主(けいやくぬし)の居る時代、場所とは全く(ちが)うところへ飛ばされたようだ」


「それにしても僕、ここ嫌だな……何もない……まるで死に支配された場所だ……」


チニが小さな声で(つぶや)いた。


「帰れないの? 契約もあるんだし」


(たず)ねるフォセにグロリオは(けわ)しい表情を浮かべた。


「いいや。しばらくは無理だそうだ。俺たちの飛ばされたここは連絡塔(れんらくとう)にとっても完全に予想外のところ……時空(じくう)(つな)いでもらって俺らが天上界(てんじょうかい)へ帰るには数日かかる」


「それじゃ、契約の方はどうなるの?」


「それは心配ない、アイリス。契約の方は急遽(きゅうきょ)、別の隊に任せることにしたそうだ」


「とりあえず、しばらくはこの薄気味悪(うすきみわる)い所で過ごさなきゃいけないのね」


ランジアは長い黒髪を()()げた。


「そう言うことになるな……」


グロリオはそう言いかけて口を(つぐ)んだ。


「どうした、スラウ?」


スラウは(だま)って(がけ)に立ち、荒野(こうや)凝視(ぎょうし)していた。

ラナンも彼女の肩によじ登ったまま眉間(みけん)(しわ)を寄せている。


「ここ……私たちの故郷だよ……」


「動くな!」


次の瞬間、後ろの(しげ)みから数人が飛び出してきた。

使い古されたボロボロの布で顔を(おお)っている。


「ハイド!」


グロリオが(するど)い声を上げた。


「ちっ……!」


ハイドは(つか)に伸ばしかけた手を(はな)した。

麻袋(あさぶくろ)(かぶ)った男がくぐもった声で言った。


「武器を捨てて手を挙げろ!」


言われるままにグロリオが剣を地面に放り、隊員たちも続いた。


「スラウ、剣を捨てて」


アキレアが近づいてきて(ささや)いた。

スラウが(ほう)った剣が隊員たちの武器に当たって荒々(あらあら)しい音を立てた。


無抵抗の隊員たちはあっという間に拘束(こうそく)され、目元を(おお)われたまましばらく歩かされた。


「所持品を調べろ」


目隠(めかく)しの向こうで声がする。

火の()ぜる音も……

スラウは油断なく神経を(とが)らせた。


「待て!」


声がしたかと思うと、視界が明るくなった。

目を(おお)っていた布が()()られたのだ。

スラウは突然入ってきた光に思わず目を細めた。


青年が(ひざ)をつき、こちらを(のぞ)()んでいた。

くせのある栗色の髪の青年は唖然(あぜん)としているスラウの肩を掴んだ。


「やっぱり! 何故……何故(もど)ってきたんだ、スー?!」


***


「ってぇ……」


グロリオが思わず身を(よじ)った。


大人(おとな)しくしていろ、グロリオ。確かにしみるが治りは早い」


ライオネルはグロリオの赤くなった手首に薬を()ると、足元に落ちている縄に目をやった。

天上人(てんじょうびと)は不用意に人間を(きず)つけてはいけない。

だから(しげ)みに(ひそ)んでいた人間たちに気づいていても、先に攻撃することはできなかったのだ。

その気になれば、(なわ)も自分たちを囲っている人間も何の役にも立たないだろう。

能力を使えば(これ)(はず)すことも、人間たちの監視(かんし)の目を(くぐ)ることもいとも簡単にできる。


だが、それをしないのは……

ライオネルは(はな)れたところに立つスラウに目を向けた。

彼女と……その目の前にいる青年。

何か(つな)がりがあるのだろうか?

あの青年はどうやら彼女のことを知っているらしかった。

隊員たちの(なわ)(ほど)くよう指示したのも彼だった。


スラウが彼と話している間、隊員たちは寡黙(かもく)な男たちに囲まれて待つ他なかった。

ふと2人がこちらにやってきた。


「皆、改めて紹介するね。こちらがフィリップ。私の友だちだよ。フィル、こちらが新しい場所で出会った……」


そう言うとスラウは視線を彷徨(さまよ)わせた。

言葉を探しているようにも見える。


「家族だ」


グロリオが立ち上がりフィリップに手を差し出した。


「俺たちは一緒に行動する仲間であり、同じ家に住む家族だ。えっと……フィリップ君だっけ? どうぞよろしくな」


グロリオは白い歯を(かがや)かせて笑ったが、彼は無表情のまま褐色(かっしょく)の手を凝視(ぎょうし)していた。


「そっちの名前は?」


「グロリオだ」


「ふうん……」


フィリップはグロリオの後ろに座っている隊員たちを見やった。


「皆、少し(はず)してくれ。こいつらと話をしたい」


男たちは(だま)って立ち去っていった。

それを見届けたフィリップは油断のない目を隊員たちに向けた。


単刀直入(たんとうちょくにゅう)に聞く。ここに何しに来た? 答えによっては……」


フィリップは腰の剣の(つか)()れた。


「ただでは帰さない」


「フィル?!」


スラウが(あわ)てて割って入ったが、グロリオは静かに手を()げてそれを(せい)した。


「俺たち、本当は別の場所に行く予定だったんだ。あれ? そういや、何でここに居るんだ?」


「それを聞かれているんでしょ!」


フォセが小声で()()んだ。


「ならば質問を変えよう……」


フィリップは引き抜いた剣をまっすぐグロリオに向けた。


「お前はゾルダーク・エリオットの味方か?」


「……っ!」


その名を聞いた途端(とたん)、グロリオの顔が豹変(ひょうへん)した。


「何で?! 何で、()()()()()その名を知っているんだ?!」


「そいつは……この地を()()くし、荒野(こうや)となったここを支配する張本人(ちょうほんにん)だ」


「そんな!?」


フィリップの言葉にアイリスが息を()んだ。


「最近、なりを潜めていたと思ったらこんな所に居たのか……」


ライオネルが(けわ)しい顔をした。


「それでね」


スラウが口を開いた。


「フィルと話したんだけど……ここで何があったか、皆に知ってもらいたいの。だから話すよ、私たちの過去を」

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