八. 出会いと別れ③
ニコラスは目に入る汗を拭った。
フォルクトレは本気じゃない……
ただ自分を弄んでいるだけだ。
「なかなかの腕だな。だが……」
王は薄ら笑いを浮かべて剣を鞘に納めると王座に腰かけた。
「剣で決着つけるような愚かな真似は止めて、穏便に話をしようじゃないか」
ニコラスはくつろぐよう促してみせる王を睨みつけた。
「何の……つもりだ?」
王は肘を膝について前屈みになると、羽交い締めにされているドレークたちを指差した。
「取引をしよう。お前を逃がしてやる……3分。時間をやろう。どれか1人を殺していけ」
「何、言ってんだ?!」
「逃がしてやるんだ。その見返りに俺の余興に付き合え。 こいつらは貴族でも、ましてや王でもない。つまり何の価値もない」
「……ざけるな!」
「あ?」
「ふざけるなって言ってんだ! 人の命を何だと思っている?! どんな身分だろうが……命の価値に差はねぇんだよ!」
怒鳴るニコラスにドレークは目を見開いた。
――『本当に守るべきは何かを……あんな者なんぞの為に、あなた様が命を危険に晒すような行動はなりませぬ』
以前、彼はこの言葉に賛同した。
だが、今は違う。
まるであの方と同じように……
――『フォル、そんなことを言うなよ。生きとし生けるもの……命の価値はみんな同じさ』
「あまり俺を怒らせるなよ」
王はギリギリと歯をくいしばった。
吐き気がするほど嫌いな笑顔が瞼にちらつく。
幼い頃、庭で珍しい蝶を見つけた兄は殺さずに逃がしてやった。
殺して標本にし、飾れば良いと言ったのに……
両親はそんな兄を褒めた。
いつも褒められるのは兄ばかりだった。
虫1匹も殺せない、軟弱な奴なのに。
そんな不満を分かってくれたのはエラだった。
彼と共に、兄に反感を持つ者たちをじわじわと取り込んでいった。
そして……両親が重い病にかかって亡くなった時、ついに自分の時代が来たと思った。
両親だけには逆らえなかったが、その障壁の無くなった今、消すべきは兄とその妻、そして2人の赤子だけだった。
自分の邪魔をするものは全て排したつもりだった。
だが、その赤子は自分の必死な捜索をくぐり抜け、生き延びていた。
それが今、目の前に立ち、兄と同じことを言っているのだ。
やめろ。
やめろ、やめろ!
目の前の少年に兄の面影が重なる。
「大体さ、馬鹿はお前だろ? あいつの持ってた鍵が本物だってどうやって分かるんだよ? 偽物を渡されているのかもしれねぇんだぞ」
挑発するようなニコラスの言葉に王は勢いよく立ち上がった。
「馬鹿を言え! 本物だ!」
腰を探って鍵を出し、突きつける。
「箱を開けたのはこれだ!」
「あ、そうか」
ニコラスは案外驚いたようでもなかった。
「俺をナメるのもいい加減にしろ! 貴様がやらぬのなら、俺が3分毎に1人ずつ殺すしてやろう! だが、最初に死ぬのは貴様だ! 3分間たっぷりいたぶられてから死ね!」
すっかり頭に血が上っていた彼はニコラスが意味ありげな目をしたのには気がつかなかった。




