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天上人  作者: 鬼木 有葉
第二章 昇格試験
36/196

八. 出会いと別れ②

王座の前に、丸顔の少年が両手を(くさり)(つな)がれて転がされていた。

彼の(かたわ)らには金の装飾(そうしょく)(ほどこ)された大きな箱が大きく口を開けていたが、中には何もなかった。

彼の(あさ)の上着は大きく()れていて、ところどころに汚れもついていた。


王は金のブローチで止めた赤いマントを(ひるがえ)して立ち上がった。

クセの強い黒髪が()れる。

神経質(しんけいしつ)そうな()が足元の少年に向けられた。

少年は必死に身体を引きずり、ソーセージの乗った皿に顔を近づけようとしていた。


「ぼ、僕のママならこんなことしないぞ! パ、パパに……い、言いつけてやる!」


王は身を(よじ)る少年の眼前(がんぜん)でソーセージを()(つぶ)した。


「貴様の言う()()()継承者(けいしょうしゃ)はこいつか、ドレークよ?」


ドレークは両手を後ろで(しば)られ、傭兵(ようへい)に腕を(つか)まれていた。


左様(さよう)でございます、フォルクトレ様。(げん)に彼は箱を開けることができましたし……あの、そろそろこの(なわ)(ほど)いて(いただ)けますか?」


「ふん、調子者(ちょうしもの)が……(だま)れ」


王は鼻を鳴らすと、熊のようにウロウロと王座の前を歩き始めた。


「中は空だった」


「今は時期(じき)が早いのかもしれませぬ。成長すれば……」


「さて、どうだかな。お前の話は信用ならぬわ」


その時、外が(さわ)がしくなったかと思うと、(とびら)が大きく開け放たれた。

王はドカドカと入ってきた傭兵(ようへい)たちに目を向けた。


「何だ?」


赤ら顔の傭兵(ようへい)仰々(ぎょうぎょう)しく前に進み出た。


「我々の()()()()(かご)から抜け出したものですから」


フォルクトレは羽交(はが)()めにされたケイナに近づき、彼女の細い(あご)(つか)んだ。


「ほう。では、2度と()げぬよう羽を折らねば……いや、(あし)か?」


フォルクトレがちらりと後ろに居るドレークを見ると、彼は(くや)しそうに歯を食いしばっていた。

その反応に満足げに(うなず)く。


「それは?」


(あご)でしゃくる。

傭兵(ようへい)の肩の上で少年がもがいていた。


侵入者(しんにゅうしゃ)のクソガキです」


王はドレークの顔に一瞬浮かんだ表情を見逃(みのが)さなかった。


「……()()()()


傭兵(ようへい)上目遣(うわめづか)いに片手で丸を作り、口元に軽く持っていく真似(まね)をしたので、王はおざなりに手を振った。


「下がれ。酒飲みめ……」


大仰(おおぎょう)にお辞儀(じき)をしてみせた傭兵(ようへい)たちは互いに肩を組んで去っていった。

マントを(ひるがえ)し、王は今しがた連れて来られた少年の前に(かが)むと、くしゃくしゃの黒髪を(つか)んだ。


「ドレーク。貴様、(うそ)をついたな?」


ドレークは何も答えずに目線を()らした。


「はっ! あくまでも沈黙(ちんもく)を通すつもりか……」


フォルクトレは鼻で笑うと、ドレークを見張っていた傭兵(ようへい)に命じた。


「やれ」


(にぶ)い音がしたかと思うと、ドレークが(うめ)いて地面に転がった。


「じじぃ!」


思わず声を上げるニコラスに王は薄い(くちびる)(はし)を持ち上げた。


「ほう……知っているのか。ならばこの豚にもう用はないな」


王はソーセージの残骸(ざんがい)の乗った皿を少年の顔に()りつけた。

皿が割れて少年の(ひたい)を血が(つた)った。


「う、うわぁぁぁぁ! い、痛いよぉ!」


身を(よじ)る少年を見る王の目は冷たかった。


「やめろ!」


ニコラスが叫んだが、王はちらりとこちらを見やると、少年の背中に足を乗せて靴底(くつぞこ)(こす)りつけた。


「やめろ! そいつは関係ねぇだろ?!」


「ニコラス様……」


(かす)かに自分の名を呼ぶ声に、ニコラスは傭兵(ようへい)たちを()()ばすと、床に転がるドレークを助け起こした。


「おい! じじぃ! しっかりしろ!」


彼はゆるゆるとニコラスを見上げると(くちびる)を動かした。


「ニコラス様……あなた様を城に連れてくること……これがケイナ、私の孫を解放する唯一(ゆいいつ)の条件でした……ですが、私は……あなた様には生きていて(いただ)きたかった……あなた様を城から遠ざければ、ケイナも……あなた様も守れると思ったのです……」


「だから、あいつが捕まっても放っておけって言ったのか……」


ニコラスは顔から血を流して痛がる少年を見やった。

ドレークは苦しそうに息を()くと続けた。


「えぇ……(おろ)かでした……彼らは(かぎ)を持っていたあの少年をあなた様と勘違(かんちが)いしていました……ですから……」


「それで俺を(あざむ)けるとでも思ったのか、ドレーク?!」


王の声に振り向くと、ケイナの首元に剣が()きつけられていた。


「やめてくれ! 殺すならわしを! わしを殺せ!」


ドレークが叫んだが、王は肩を(ふる)わせた。


「はははははっ! 貴様は最後だ! そこで全てを見ているが良い……ん?」


王は自分に()きつけられた剣に気づくと、ケイナを放り捨てた。


「俺に勝負を(いど)むのか?」


「ニコラス様! なりませぬ!」


ドレークが制するのも(かま)わず、ニコラスは剣を(かま)えた。


「ケイナ! お前はじじぃとあいつを連れて()げろ!」


床に投げ出されていたケイナは目を見開いた。


「でも……!」


「良いから行くんだ! 早く!」


彼女は(うなず)くと、()(わめ)く少年の所へ走っていった。


「させるか! 捕らえろ!」


王が入り口に(ひか)えていた傭兵(ようへい)に命じ、ケイナたちはあっという間に囲まれてしまった。


「ニコラス様! お逃げください! フォルクトレはあなた様を殺す気ですぞ?!」


ニコラスはドレークの言葉に耳を(うたが)った。

王の(あかし)を手に入れられるのは自分のはずだ。

ならば、箱を開けるまで殺されないはずでは……?

その気持ちを読んだかのように王は高笑いした。


「元々(かぎ)さえあれば良かったのだ! これさえあれば、俺が適当な物を見繕(みつくろ)って王の(あかし)として示せる。王座に()く者以外、(だれ)もどんな形をしているのか知らないからなぁ!」


「じゃぁ、俺を生かしたままここへ呼んだのは?」


「お前を殺し、俺が未来永劫(みらいえいごう)王位につけるようにする為だ。だが、ドレークには、お前が居なきゃ王の(あかし)を手に入れられないと(うそ)をついた。こいつが本当のことを知ったのは城に帰ってきた時だったよ。はははっ! あの時の表情と言ったら見物(みもの)だったなぁ!」


ドレークの顔が苦しそうに(ゆが)んだ。

フォルクトレの話を信じていたからこそ、王を()()くことができると思った。

その為に関係のない少年まで巻き込んだのだ。


しかし、実はそれが全て王の手中(しゅちゅう)で転がされていたのだと知ったら……


「どいつもこいつも(そろ)って馬鹿(ばか)だ! 俺の話に(おど)らされて!」


(だま)れ!」


ニコラスは剣を王に向けたまま(さけ)んだ。


「じじぃ! まだ(あきら)めんな! 俺がこいつを止めてやる!」


***


スラウは片膝(かたひざ)をついて汗を(ぬぐ)った。

横にいるフォセもライオネルも息が荒い。


「もう根を上げますか?」


(ふる)える(ひざ)(しか)るように(たた)き、立ち上がる。

何故ここにいる?


呪術師(じゅじゅつし)……!」


スラウの声に目の前の人物が細く笑った。


数分前――

エルドラフ・ロイナードとカトリーヌ・ロイナードと契約を交わした直後に(たお)したはずの男が現れた。


「あなた方の(じゅつ)、確かに()きましたよ……ですが、それでは私を(たお)せない」


呪術師(じゅじゅつし)(ろう)の中に立ちすくむ元国王に目を向けた。


「ニコラス・ロイナードがここに辿(たど)()いた今、彼をあなたたちと引き合わせることは危険です。ここで死んでもらいましょう」


男が指を鳴らした途端(とたん)地下通路(ちかつうろ)轟音(ごうおん)(ひび)いた。


「エラ! 何をした?!」


エルドラフが(さけ)ぶと、男は楽しそうに(わら)った。


「なぁに、地下道の天井(てんじょう)に穴を開けただけですよ。ここは城の中の最深部(さいしんぶ)。毒を含む(ほり)の水がここへ流れ込んでくるでしょう……」


「まさかここの水を(けが)したのか?! ここは国中だけでなく隣国(りんごく)の川の源流(げんりゅう)でもあるんだぞ?! 人々の生活まで()()むつもりか?!」


「おや、ご自分より民の心配ですか……これだから、あなたのような人は嫌いなんだ。近頃、連中(れんちゅう)も言うことを聞かなくてね。少々手を焼いていたんですよ。だが、我々は毒素(どくそ)を抜く「精霊(せいれい)の石」をたんまり持っている。交渉手段としてこれ以上のものはないでしょう」


「この外道(げどう)が!」


格子(こうし)(つか)みかかるエルドラフを一瞥(いちべつ)した男は(たの)しそうに続けた。


「ふはははははっ! 今にも悲鳴が聞こえてきそうだ……」


「今すぐ水を止めろ! お前たちの狙いは私だろう、エラ?! 王位を(うば)い、他に何を望むんだ?!」


「世界の覇権(はけん)


「は……?」


「とでも言うと思いましたか? ははははっ! 私は正直この国の王が(だれ)でも(かま)わないんですよ。(たの)しいことが大好きでねぇ。混沌(こんとん)崩壊(ほうかい)(そそ)られる……」


恍惚(こうこつ)とした表情で天井(てんじょう)(あお)いだ男はこちらに背を向けた。


「止められるものなら止めてみなさい。牢屋(そこ)じゃ何もできないでしょうが……」


言いかけた彼は動きを止めた。

背中に剣が()きつけられている。


「おや?」


「その為に私たちがいる!」


剣を(かま)えるスラウに男は両手を()げてみせた。


「いいですよ、別に。でも、どうするんです? 私を捕まえたところで水は止まりませんが?」


「止める! それがあたしたちの仕事なんだから!」


「おや、()()けはよくありませんよ」


男が走り出したフォセの後ろ姿に指を()()した。

その瞬間、彼の指に薔薇(ばら)(つる)()きついて動きを(ふう)じた。

青白い指に赤い血が(つた)う。


「悪いが」


ライオネルが指を組んで戸口に()(ふさ)がっていた。


「お前の相手は俺たちだ」


男はその言葉に笑みを浮かべた。


「もう忘れたのですか? さっきみたいな不思議な(じゅつ)を使ったところで私には()かないと……」


浄化(じょうか)!』


スラウの声と共に金色の光が身体(からだ)(つらぬ)いた。


「ギャァァァッ!」


男が身体を()()らせて(さけ)び、部屋が白い光に包まれた。

シュウシュウと白い煙を上げる男からスラウは1歩下がって様子を見た。


「やったのか……?」


「まだだ!」


エルドラフが恐る恐る鉄格子(てつごうし)に近づいた時、ライオネルが(さけ)んだ。

男が頭をがたがたと(ふる)わせながら立ち上がった。


(しび)れますねぇ……ふふふふ……」


奇妙な笑い声を上げながら、彼は自分の髪を1本引き抜いた。


「では、こちらのターンですね……」


手の中で(かみ)がみるみる内に大きく固くなり、1本の(やり)になった。

(にぶ)く風を切る音を立てながら(おそ)ってきた(やり)をスラウの剣が受け止めた。


「させませんよ!」


男は矢をつがえていたライオネルに向かって、再び(やり)を投げつけた。

それは空中で先端(せんたん)が2つに分かれ、地面に落ちると、とぐろを巻いた。


「蛇!?」


2匹の黒い蛇が赤い舌を出して首をもたげた。

ライオネルは(かわ)しざまに短剣で蛇の首を切り落とした。


「ライオネル!」


スラウの声に顔を上げると、黒い(やり)が彼に向かってきていた。

間一髪(かんいっぱつ)のところで()けると、(やり)は後ろの壁に深く()()さった。


「今度は変形しなかったか……」


その(すき)をついて男が指を鳴らした。

再び通路が揺れ、さっきよりも大きな音が(ひび)いた。


「こっちの方がスリルあるでしょう? 穴を増やしてみました♡」


「何てことを……!」


カトリーヌが息を()んだ。


「ライオネル! ここは良いからフォセを助けて!」


スラウの声にライオネルは走っていった。


「私を止める(さく)でもあるのですか? ああ、そうそう。(ちな)みに良いことをお教えしましょう……私が()()だということをね」


男が再び(やり)を作ったので、スラウは思わず身構(みがま)えたが、彼はそれを自分の左胸に躊躇(ちゅうちょ)なく刺した。


「何を?!」


「ふむ……」


男はものともせずに左胸に刺さった漆黒(しっこく)(やり)を引き抜いた。

カラン――

軽い音がして(やり)が床に落ちた。

目を見開くスラウに彼は(たの)しそうに笑い声を上げた。


「ふふふ……だから言ったんですよ、私は無敵だとね……」


挑発(ちょうはつ)するような言葉にスラウは歯をくいしばった。

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