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天上人  作者: 鬼木 有葉
第二章 昇格試験
31/196

六. 砂の村と水の村 ③

彼の話は次のようだった。

かつて水の村と砂の村はひとつの村だった。

村の中央を大きな川が通っていて、それを石の橋が(つな)いでいた。


こちら側、つまり、今の水の村は土の質も良く、多くの作物の育つ豊かな土地だった。

反対側は作物が育ちにくかったが、貴重な鉱石が採掘(さいくつ)されていたので頑丈(がんじょう)農具(のうぐ)を作ることができた。

人々は橋を往来(おうらい)してそれぞれの産物(さんぶつ)を交換し、豊かとは言えないなりにも幸せに暮らしていた。


しかし、現国王フォレクトレがクーデターを起こして王の位に()いてから全てが変わってしまった。

ある日、城から王の使いを名乗(なの)る男がやって来た。


――『ここに水路(すいろ)を作りたい』


それを聞いた人々は喜んだ。

人の数が増えて家が次々に建てられていたせいで、道は入り組み、複雑なものになっていた。

水路(すいろ)が作られれば、船を使って重い物を1度に早く運ぶことができるだろう、と。


しかし、それが完成してからまもなく人々は異変(いへん)に気がついた。

2つの村を(へだ)てていた大河(たいが)の水位が下がり始めたのだ。

とうとう川は()れて、村は(きり)の立ち込める村と砂嵐(すなあらし)の吹き荒れる村に分かれてしまった。


事態(じたい)はさらに悪化した。

水の村で原因不明の病が流行(はや)りだしたのだ。

いくら水を飲んでも(かわ)きが()えることはなく、最期には全身が干涸(ひか)らびるようにして死んでしまう。

それと同じことが植物にも起きていた。

あっという間に村中の草木は()れ、人々はこの病に(おび)えるようになった。

人々が王に(うった)えると、あの使いの男が町に来て言った。


――『この病の原因は水路(すいろ)を流れる水に含まれる毒素(どくそ)のようだ。これを消すには、()れてしまった大河(たいが)に眠る「精霊(せいれい)の石」が必要だ』


水の村の人々は必死に川底を()り始めた。

けれども、いくら()っても鉱石(こうせき)が出てくることはなかった。

長い間、毒素(どくそ)の含まれた(きり)の中で作業していた人々は次々と病に(たお)れていった。


次第(しだい)に人々は砂の村の者たちが鉱石(こうせき)()()くしてしまったのではないかと疑い始めた。

城の傭兵(ようへい)たちが砂の村に話を聞きに行ったが、彼らは怪我(けが)を負って帰って来た。

1人が小さな深緑色(ふかみどりいろ)の石を差し出しながらこう言った。


――『彼らは容易(たやす)(ゆず)ってはくれなかった。それどころか我々に手を上げる始末(しまつ)だ……だが、安心して欲しい。我々は必ずやあなた方を助けよう。それまではこの条件を()んで欲しい。毒を抜いた水を砂の村の者に渡せ。彼らはそれに見合(みあ)った分の石を(わた)すと言っている』


傭兵(ようへい)たちは砂の村の者たちに直接会うことは危険だとして、城がその仲介(ちゅうかい)(にな)うことを申し出てくれた。

それ以降、水の村の人々は傭兵(ようへい)たちの届ける石を使って毒のない水を作るようになった。


しかし、手に入れられる石ではごく(わず)かな毒素(どくそ)しか抜くことはできなかった。

しかも、綺麗(きれい)な水を(たくわ)えたかと思うと、新たな石を手に入れる為に水を砂の村へ送らなければならず、ここには飲める水がほとんど残らなかった。

外の(きり)を恐れた人々は次第に家の中へ()(こも)るようになり、砂の村への(うら)みを(つの)らせていった。


***


(たくわ)えられている水がほとんど無いせいで、(のど)(かわ)きに()えかねて水路(すいろ)の水を飲んでしまう者もいる。彼らを()()めているのは君たちだ。そのことを自覚してもらいたいね」


「ちょっと待てよ!」


ラルフの言葉にコリンが勢いよく机を(たた)いた。


「俺たちは確かにその鉱石(こうせき)()る仕事をした。でも、そんな効果があるなんてちっとも知らなかったぞ?!」


「何?!」


「それに……鉱石(こうせき)のほとんどはエラって王の使いに持っていかれるんだ。それを水の村で売って水をもらってきてやるからって……」


「そんな馬鹿な!?」


「それに、(ひど)いのはそっちの方だよ! いつも(つぼ)の半分の水もくれねぇじゃんか!」


「な、何を言っているんだ?! 君だって見たろう?! 台車(だいしゃ)に山ほど()まれた(つぼ)を?!」


「2人とも落ち着いてよ!」


ニコラスが割って入った。


「ラルフさん、聞きたいことがあるのですが……」


「何だい?」


「今の話をまとめると……水の村から水を運ぶのも、砂の村から鉱石を運ぶのも、全部城の人なんですよね? 多分だけど……王はその鉱石(こうせき)を他国に売って(もう)けようとしているんだと思う」


「どうしてそう思うの?」


「え? あ、い、いや……」


(たず)ねるセーラにニコラスは思わず口を(つぐ)んだ。

前に同じようなことをやったことがあったからだ。


自分のいた町では、定期的に金細工(きんざいく)の職人や宝石商(ほうせきしょう)が集まる市場が開かれていた。

物珍(ものめずら)しさにやって来た観光客たちに彼らの代わりに欲しい物を買って来てやる、と話を持ちかけるのだ。

勿論(もちろん)、最初は警戒(けいかい)されるので(あらかじ)め店からくすねておいた宝石(ほうせき)金細工(きんざいく)を見せて店主とツテがあることを(にお)わせる。

何なら自分が買いに行く前にこれを(わた)しておいてやっても良いとまで言う。

相手が判断に(まよ)(はじ)めたら、もうこっちのものだ。

他の客が待っているからと(あせ)らせると、大抵(たいてい)の客は美味(おい)しい話を(のが)したくない、とお金を(つか)ませてくれる。


そうやって何人も(だま)してきた。

勿論(もちろん)、自分も盗人(ぬすっと)だったから、とは言えなかった。


「それは、その……」


言葉を(にご)すニコラスをよそにラルフが(かす)れた声で(つぶや)いた。


「……それじゃぁ、私たちは一体何の為に水を作ってきたんだ? 何の為に多くの人たちが死んだのだ?!」


自分に(だま)された人たちは皆、どんな顔をしていたのだろう?

頭を抱えるラルフの姿に胸がずきんと痛んだ。


重い沈黙(ちんもく)の中、アキが口を開いた。


「ねぇ、どうして砂の村の人とお話ししないの?」


思わず息を()むラルフにコリンが重たい口を開いた。


「俺からもお願いします……俺、今まであんたたちのこと(にく)んできた。水も、食いモンも、無いのはあんたたちのせいだって……こんなに生活が苦しいのはあんたたちのせいだって……! でも、本当は違ったんだ……本当に(にく)むべきは現国王フォフクトレ・ロイナードだったんだ!」


(さけ)ぶコリンの言葉が胸をえぐる。

ニコラスが(ひざ)の上で(こぶし)を固めた時、(とびら)が大きく開け放たれて数人が転がり込んできた。


「ラルフさん! 砂の村の連中です!」


ラルフは椅子(いす)()(たお)さんばかりに立ち上がると短剣を(つか)んだ。


「急げ! 一滴(いってき) たりとも盗ませるな!」


「待てよ! 話し合ってくれるんじゃねぇのかよ?!」


ラルフは一瞬、躊躇(ためら)いを見せたが、(だま)って去っていった。


「ニコラス、俺たちも行こう!」


コリンが物思いに(ふけ)っていたニコラスの腕を(つか)んだ。


「あの人を止めなきゃ!」

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