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天上人  作者: 鬼木 有葉
第二章 昇格試験
25/196

三.初任務 ②

町を歩くニコラスの胸には(かぎ)がぶらさがっていた。


「いきなり会った奴を信用できるかって話だよなぁ」


そう(つぶや)いたニコラスは、すれ(ちが)いざまに男から(ぬす)んだ巾着(きんちゃく)中身(なかみ)を取り出して首を振った。

ちぇ、これだけか。

ニコラスはくるくると(かぎ)(いじ)った。

こんな(かぎ)より、コインの方がいくらか価値があるように思える。

ま、良いけど……

彼らが(かぎ)を欲しがっていたのは事実だし、身につけておいた方が良いだろう。

いつの間にか町の(はず)れに来ていたようだ。

もう少し物色(ぶっしょく)するか。

そんなことを考えながら(きびす)を返すと(だれ)かにぶつかった。


「よぉ」


卑屈(ひくつ)な笑い声に顔を上げると、大柄(おおがら)な少年たちがニコラスを囲んでいた。

先頭に立っている少年が1歩足を()()し、小さな茶色い瞳でニコラスを値踏(ねぶ)みするように(なが)めた。


薄汚(うすぎたな)いスリ野郎(やろう)


後ろの()()きから笑いが起きた。


「またてめぇか!」


「おうおう、やんのか?」


少年がおどけてパンチを()()真似(まね)をした。


「だが、その前に……この前の借りを返してもらうぜ」


「は? 一体、何の……っ?!」


その瞬間、(だれ)かが水を()けてきた。


「ゴホッゴホッ……」


ぬるぬるして生臭(なまぐさ)い。

(そで)(ぬぐ)って顔をしかめるニコラスに笑いが起こった。


「お前、こいつらの金を(ぬす)んだだろ?」


少年の指差す先には2人の長身の少年がいた。

この間、彼らにからかわれた腹いせに小銭を(ぬす)んだのが記憶に(よみがえ)った。

結局、中身は(たい)したことなかったけど……


「金はどうした?」


「……ねーよ」


「あん?」


少年がぐいと顔を近づけた。

薄い(くちびる)(はし)にパンくずがついている。


「じゃあ、手に持っているそれは何だよ?」


取り巻きの1人に手首を乱暴(らんぼう)(つか)まれ、指の隙間(すきま)からコインが1枚(こぼ)()ちた。


「こんだけか? あ?」


後ろから()()ばされて頭から倒れ込んだ。

その拍子(ひょうし)に首にぶら下げていた(かぎ)が地面を転がった。


「おい、それは?」


「……っ!」


咄嗟(とっさ)に伸ばした手を()みつけられる。


「金を隠してるんだな」


「んなわけねーだろ!」


取り巻きが立ち上がろうとするニコラスの腹を()った。


「ふん、あそこに行きゃわかる話だ。よくあんなとこ住めるよなぁ、お前。(うわさ)じゃ、あまりの汚さに森の(けもの)も寄りつかねぇってよ」


再び取り巻きたちが笑った。

ニコラスは少年に飛びかかるとその顔面に一撃(いちげき)くらわせた。

水溜(みずた)まりに(しり)をつく彼を見下ろしてニコラスは手を(はら)った。


「あーあ、わりぃわりぃ……お前のお洋服を汚しちまった。()()に新しいのをおねだりしたらどうだ?」


遠巻きに喧嘩(けんか)を見ていた人たちから笑いが()れ、少年は顔を真っ赤にして怒鳴(どな)った。


「くそがっ! おい、やっちまえ!」


その声で取り巻きたちが一斉(いっせい)に飛びかかってきた。

抵抗(ていこう)()()く、ニコラスはあっという間に動きを(ふう)じられて腹や背中を()られた。

(うす)れる意識の中で少年たちの笑い声が遠のいていった。


果物やパンの入った麻袋(あさぶくろ)(かか)えたライオネルは馬の止めてあった所へ戻ると(くら)に袋をくくりつけた。


「……よし」


(つぶや)いた時、胸元のポケットに入れていた通信機が(ふる)えた。

確認するとフォセからだった。


『ごめん! ちょっと目を離した(すき)にニコラスを見失っちゃった! 急いで追いかけたんだけど、町で巻かれちゃったの!』


「本当か?! 今どこにいる?」


『え? 人がたくさん居て分かんないよ! きゃっ、ごめんなさい!』


「彼女には連絡(れんらく)したのか?」


『スラウのこと? うん。すぐこっちに(もど)るって……このままじゃ(らち)あかないから上空から探すね!』


「ああ。じゃあまた……ん?」


少し(はな)れたところに人だかりができている。

人ごみを()()けたライオネルは思わず目を見張った。


「ニコラス! おい! 大丈夫か?!」


()(うご)かしたが、反応はない。

首に触れて脈を測る。

意識を失っているだけか。

安堵(あんど)の息を()いてニコラスの服を(まさぐ)った。


(かぎ)がない!」


ライオネルは急いで通信機(つうしんき)を取り出した。


「ニコラスは見つけたが、少しまずい事態(じたい)になった」


***


少年たちは(くず)れかけた聖堂(せいどう)の前に集まっていた。

先頭に立つ少年の手にはニコラスから(うば)った(かぎ)(にぎ)られている。


「良いもん手にしたな」


取り巻きの言葉に(くちびる)(はし)を持ち上げる。


「これまで以上に、金をふんだくるのにはもってこいだぜ」


その時、彼らは背後(はいご)(せま)る黒い影の集団に気づきもしなかった。


***


ぼんやりと視界に白い光が広がっていく。

(だれ)かが顔を(のぞ)()んでいた。


「気がついたか?」


ライオネルの声にニコラスは飛び起きた。

身体の下には落ち葉が()()められていて(やわ)らかかった。

腹や背中がずきずきして思わず顔をしかめる。

陽はすっかり(かたむ)き、橙色(だいだいいろ)の空を鳥が飛んでいた。


「ここは?」


「君の住んでいた町を出て半日馬で()けたところだ」


「その怪我(けが)(だれ)にやられたの?」


フォセの大きな茶色い瞳が(のぞ)()んできた。


「ん? あぁ……村の奴。ちょっと喧嘩(けんか)した」


「それって、金髪で丸顔の子?」


いつの間にかスラウが(となり)に立っていた。

(うなず)くニコラスに、彼女は()(いき)()くと木の根元に胡座(あぐら)をかいた。


「それよりも何で俺、ここに……?」


(たずね)ねるニコラスにスラウが口を開いた。


「順に説明するよ。昨晩、あの聖堂(せいどう)の近くで傭兵(ようへい)を見かけたから、彼らの潜伏先(せんぷくさき)偵察(ていさつ)していたんだ。でも、君が()げたって聞いたから彼らの元を(はな)れた。そしたら聖堂(せいどう)の前で何人か(たお)れてて……意識を取り戻した子に話を聞いたら、突然何者かに(おそ)われたって。しかも1人が君と間違(まちが)えられて()()られたみたい」


(かぎ)を持っていたからかもね」


フォセの言葉にニコラスは首を(ひね)った。


「何で俺が(ねら)われなきゃならねぇんだ?」


3人は意外そうな顔で互いに顔を見合わせていたが、ライオネルが口火(くちび)を切った。


今更(いまさら)ながら聞くが、その(かぎ)が何だか知っているのか?」


「知らねぇよ」


「それじゃ、今まで何も知らないでいたってこと?!」


思わず声を上げるフォセを(せい)してライオネルが口を開いた。


「それじゃ、まず、この国を治めている王族ロイナード家から話を始めよう。ロイナード家には代々(だいだい)伝えられている王の(あかし)というものがあり、それを(もっ)て王位に()くことが出来る。君の持っていた(かぎ)はそれを手にする為に必要なものだ」


彼は一息(ひといき)()いて続けた。


「君はロイナード家の血を()いでいる。つまり君はこの国の王子ということだ。だが、今王位に()いているのは君の父親の弟……彼は自分の兄とその妻、つまり君の両親を王位から追放し、地下牢(ちかろう)幽閉(ゆうへい)している。だが、彼はまだ正式な王として(みと)められてはいない。君の持っていた(かぎ)が必要だからだ」


「それにニコラス、君自身もね」


スラウの補足(ほそく)にライオネルは(うなず)くと続けた。


「王の(あかし)の入った箱は、選ばれた者にしか開けることができない。王位継承者(おういけいしょうしゃ)である君が生き続けている限り、現国王には開けることが出来ないはずだ」


「王もそれが分かっているから、その子を生かしたまま()れていこうとしたってことだよね? だったら急いで城へ向かわないと。その子が(かぎ)を開けられないと分かれば、彼の命が危ないかも」


フォセの言葉にニコラス首を振って起き上がった。


「……んな話、信じられるかよ」


「え?」


「会ったばかりのやつらに「あなたはこの国の王子です。()()られた豚野郎(ぶたやろう)を助けて下さい」って言われて、「はい、そうですか」ってついて行くかって言ってんだ!」


びしっとスラウに指を()()てる。


「それに本当のことだとしても、あいつはずっと俺から金をむしり取ってきたんだ。金持ちのくせに……あんな奴、死んだ方がマシだ」


「ニコラス!」


スラウに(とが)められたが、別に気にしなかった。


「俺は嫌だね、帰る。助けに行くならお前らだけで行けよ」


「……仕方ないな。じゃあ、この人の話なら聞くか?」


ライオネルが木の影から(だれ)かを引きずりだした。

よれた灰色のマントに、葉がくっついたもじゃもじゃの髪。

老人は髪を()きむしった。


「じじぃ?!」


ニコラスは思わず声を上げた。


「あ、あ……」


躊躇(ためら)う老人にライオネルが(たた)()けた。


「どうなんだ? 俺たちの話、聞いていたんだろ?」


老人はしばらく髪に(から)まった葉を取り、考え込んでいたが、突然(とつぜん)居住(いず)まいを正してニコラスに向き直ると頭を地面に(こす)りつけた。


「ニコラス様、この者達の話は本当でございます! 今まで(だま)っていたこと、申し訳ございません!」


「……は? い、いきなりどうしたんだよ?!」


「エルドラフ様とカトリーヌ様は我が子だけは助けて欲しいと、私にあなた様を(たく)されました……その時に例の(かぎ)も持たせたのです。いつかあなた様が城にお(もど)りになる時の為に……」


ニコラスは口をポカンと開けて老人を見つめていた。


「混乱なさるのも無理はありますまい。正体を明かさず近くで見守り続けておりました。私の実の名はドレークと申します」


「……じゃあ、俺は別に()てられた(わけ)じゃなかったのか?」


左様(さよう)でございます」


「まだ話がよく()()めねぇや……」


「まぁ、これから頭の整理をしても良いんじゃないかな?」


スラウが話に割って入ってきた。


「夜明けと共に()とう」


ライオネルが矢を(かつ)(なお)した。


「俺たちが見張(みは)りにつく」

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