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異世界偉人伝 〜伝説の救世主、その正体は定時で帰りたいだけの三十代社畜でした〜  作者: ぱっちー
第1章:魔王軍の倒し方? 倒すんじゃない、「買収」するんだ。
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第2話:【感動】聖女の無償の愛……その裏にある「完全歩合制(フルコミッション)」の闇!?

「さぁ皆さん!

涙を拭くハンカチの用意はよろしいですか!?

ここからは、パーティーの要、聖女サクラの伝説に迫ります!」


 先生の熱弁は留まるところを知らない。


黒板を勢いよく叩き、チョークの粉を撒き散らしながら、彼は教室中を見渡した。


「教科書の〇〇ページ、この美しい挿絵を見てください!

激戦地『ブラッドキャニオン』でのサクラ様のお姿です。

当時の記録によれば、彼女は三日三晩、一睡もせずに数千の負傷兵を癒やし続けたと言われています。

しかも! お金なんて一銭も受け取らず、ただ『皆を救いたい』という一心で!」


 先生は両手を胸の前で組み、祈るようなポーズをとった。


「彼女の魔力が底を突きかけ、倒れそうになっても、サクラ様は天に向かってこう叫んだそうです。

『どうか私に、もっと奇跡を……!』と。

己の命を削ってまで他者を救おうとする、これぞ無償の愛! 究極の自己犠牲!

どうですか皆さん、こんな高潔な魂、現代に存在しますか!?」


 教室のあちこちから、鼻をすする音が聞こえ始めた。


女子生徒たちは目を潤ませ、男子生徒たちも真剣な表情で頷いている。


 誰もが聖女の神々しさに心打たれている中。


 俺だけは、絶望的な気分で机の下の『真っ黒な手記』に目を落としていた。



『〇月〇日。ヒーラーのサクラが全く働かない。


 固定給(お布施)制だからか、「今日は星の巡りが悪い」とか適当な言い訳をしてサボりやがる。これじゃあ前線のリソースが持たない。


 そこで、彼女の給与体系を「固定給」から「完全歩合制フルコミッション」に変更した。


 擦り傷の治療で基本報酬。重傷ならインセンティブ倍増。


さらに「蘇生」を成功させた場合、特別ボーナスとして『王都の一等地タワーマンションの権利書』をチラつかせてみた。』


 ……嫌な予感しかしない。


俺は冷や汗を流しながら次の行を読んだ。


『結果、サクラの目の色がヤバいことになった。


 三日三晩、寝る間も惜しんで最前線を駆け回り、「私のボーナス(負傷者)を渡せぇぇ!!」と血走った目で叫びながら、瀕死の兵士に回復魔法を乱れ撃ちしている。


 たまに敵の息の根まで止めようとするから、「そっちはポイント対象外だ」と止めるのが大変だった。


 見事なKPI(重要業績評価指標)の達成率だが、労基署が入ったら間違いなく僕が捕まる。』


(……うわぁ)


 俺は心の中で、とてつもなく重いため息をついた。


 無償の愛?

自己犠牲?


とんでもない。


 あれは完全に、「四半期の営業目標を達成するために狂奔する、トップセールスマンの目」だ。


「皆さん、聞いてください!」


 先生の熱い声が、俺の意識を現実(という名のファンタジー空間)に引き戻す。


「サクラ様は三日目の朝、ついに限界を迎えて倒れ伏しました。

しかしその時、彼女は震える手を天に向かって真っ直ぐに伸ばしていたそうです!

きっと、神への感謝を捧げていたんですね……!

何という美しさでしょうか!」


(いや、それ絶対マンションの鍵を掴もうとしてただけだろ……)


 俺は教科書の挿絵に描かれたサクラの「慈愛に満ちた微笑み」を見た。


 今やそれは、「歩合給の明細書を見てニチャァ……と笑う、強欲な女の顔」にしか見えなかった。


カイトのおじさんは、神聖な祈りすらも「報酬設計」で完全にコントロールしていたのだ。


「はい、拍手! サクラ様の尊い犠牲に、心からの拍手を!!」


 教室中が万雷の拍手に包まれる。


先生は満足そうに頷き、そしてまたしても休む間もなく、黒板消しを手に取った。


「さぁ皆さん、感動の余韻に浸るのは後です!

伝説のパーティーには、まだ恐るべき男がいますよね!?

そう、神速の剣技で敵を切り刻む最強のアタッカー……

剣聖ゾルディック!」


 先生が黒板に【神速の剣】と書き殴る。


「彼が振るう剣は、あまりに速すぎて誰にも見えなかったと言われています!

まさに神の領域!

いったい彼は、いかなる過酷な修行を経て、一切の迷いがない『無の境地』へと辿り着いたのか!?

皆さん、次は武士道の極み、剣聖ゾルディックの伝説に斬り込みますよ!!」


 息をつく暇もない。


先生のテンションは限界突破し、神聖なる「武士道」の授業へと雪崩れ込んでいく。


 俺は顔を引きつらせながら、手記の次のページをめくった。


 最強の剣士が極めた神速。


一切の迷いがない「無の境地」。


 だがそこに記されているのは、気高き剣の修行などではなく、社畜が最も恐れる「あの地獄の業務効率化」の痕跡に違いないのだから――。

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