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異世界偉人伝 〜伝説の救世主、その正体は定時で帰りたいだけの三十代社畜でした〜  作者: ぱっちー
第1章:魔王軍の倒し方? 倒すんじゃない、「買収」するんだ。
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第1話:【衝撃】伝説の浄化魔法、その正体は「〇〇」だった!?

「さぁ、やってまいりました! 記念すべき第1章、開幕です! 皆さん、準備はいいですか!?」


 先生が教壇をバンバンと叩き、教室中を猛烈な勢いで歩き回る。その目は、歴史の真実を伝える喜びにギラギラと燃えていた。


「さぁ、教科書の〇〇ページを開いてください! 伝説の『決戦・アステリア平原』!

人類軍わずか五百に対し、魔王軍十万!

絶望ですよ。

詰みですよ。

しかし、その時! 我らがカイト様はたった一人で前に出た。

そして天に手を掲げ、神の言語とも称される聖なる呪文を唱えたのです!


『セイ・キヤク・テイ・ケツ』!!


 するとどうでしょう!

天から降り注いだ神々しい光の幕が魔王軍を優しく包み込み、邪悪な戦意は一瞬で霧散した。

魔族たちはその慈愛に打たれ、武器を捨てて涙ながらにカイト様に跪いた……。

これですよ!

これぞ救世主!

汚れなき『精神浄化魔法』の極致! 美しい、美しすぎるじゃありませんか!!」


 教室中がうっとりとした溜息に包まれる。


先生の語る歴史は、一点の曇りもない完璧な「剣と魔法の英雄譚」だ。


誰もがその光景を疑わず、ただ純粋な感動に身を任せている。


 だが、俺だけは知っている。その「光」の正体を。


 俺は机の下で、おじさんの怨念にも似た現実が詰まった『真っ黒な手記』のページを捲った。



『〇月〇日。魔王軍の兵站ロジスティクスを調査完了。


 あいつら、遠征先での食料調達を現地の商人に頼りすぎだ。


だから、その商会に「未来の独占販売権」をエサに投資を持ちかけ、実質的に傘下に収めた。


 これで魔王軍の食糧庫は、僕が指先一つで空にできる。

 

 決戦当日。呪文は適当に考えた。


正規セイの・契約キヤク締結テイケツ」をそれっぽく叫んだだけだ。


 空から降らせたのは、魔法で発光させた「解雇予告通知書」と「再雇用条件提示書」。


 空腹の限界だった魔族たちは、その紙に書かれた「三食昼寝付き・社保完備」という文言を見た瞬間、文字通り光り輝く希望を見出したらしい。

 

 魔王は「これが聖なる浄化か……」と勝手に震えていたが、違うぞ。


 それはただの、「圧倒的有利な立場からの経営統合(M&A)」だ。


 あー、疲れた。剣を振るより、契約書のダブルチェックの方が肩が凝る。


 有給休暇をくれ。』



「……皆さん! 見てください、このカイト様の神々しいお姿を!」


 先生のテンションはさらに加速する。肖像画の英雄を指差し、身を乗り出して叫んだ。


「カイト様は暴力を使わなかった!

憎しみの連鎖を、聖なる光で断ち切ったのです!

これこそが、我々が目指すべき平和の究極形!

まさに奇跡、奇跡としか言いようがない!」


 教室は割れんばかりの拍手に包まれる。


だが、俺の目には、肖像画の右手に握られた「聖石」が、魔王軍という巨大組織を飲み込んだ「会社の実印」にしか見えなかった。


世界を救ったのは魔法じゃない。


ただ、誰よりも「早く帰りたかった」男の、徹底的な実務能力だったのだ。


「はい、拍手! 鳴り止まない拍手ありがとうございます!」


 先生は満足げに頷くと、パンッと大きく手を叩いて教室の空気を引き締めた。


「ですが皆さん、感動して教科書を閉じるのはまだ早いですよ! 授業はまだまだ続きます! 次のページをめくって!!」


 バサッ、と生徒たちが一斉にページをめくる音が響く。


先生は黒板を素早く黒板消しで拭き取ると、新しい名前をピンク色のチョークで大きく書き殴った。


「カイト様が一人で世界を救ったわけではありません。彼を支えた、清廉潔白なる美しき仲間がいましたよね?

そう、傷ついた人々を無償の愛で癒やし、死者すらも蘇らせる『奇跡の祈り』を捧げた……

聖女サクラです!」


 先生は感極まったように胸に手を当て、天井を見上げた。


「彼女の祈りには、一切の見返りを求める心がなかった!

ただ世界のため、人々のために、己の命を削って奇跡を起こし続けたのです!

その見返りを求めない高潔な魂こそが、神に通じたのでしょう!

皆さん、ハンカチの準備はいいですか!?

次は、この美しすぎる聖女の『無償の愛』について、徹底的に語り尽くしますよ!!」


 先生の熱弁が、さらにギアを上げる。


教室の女子生徒の中には、聖女の尊さにすでに目を潤ませている者もいた。


 俺は息を呑みながら、机の下で手記のページをめくった。


 聖女の無償の愛。自己犠牲の奇跡。


 だが、手記に記されていたのは、その美しい微笑みからは想像もつかない、あまりにも「即物的な歩合制インセンティブ」の記録だった――。

 


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