第1話:【衝撃】伝説の浄化魔法、その正体は「〇〇」だった!?
「さぁ、やってまいりました! 記念すべき第1章、開幕です! 皆さん、準備はいいですか!?」
先生が教壇をバンバンと叩き、教室中を猛烈な勢いで歩き回る。その目は、歴史の真実を伝える喜びにギラギラと燃えていた。
「さぁ、教科書の〇〇ページを開いてください! 伝説の『決戦・アステリア平原』!
人類軍わずか五百に対し、魔王軍十万!
絶望ですよ。
詰みですよ。
しかし、その時! 我らがカイト様はたった一人で前に出た。
そして天に手を掲げ、神の言語とも称される聖なる呪文を唱えたのです!
『セイ・キヤク・テイ・ケツ』!!
するとどうでしょう!
天から降り注いだ神々しい光の幕が魔王軍を優しく包み込み、邪悪な戦意は一瞬で霧散した。
魔族たちはその慈愛に打たれ、武器を捨てて涙ながらにカイト様に跪いた……。
これですよ!
これぞ救世主!
汚れなき『精神浄化魔法』の極致! 美しい、美しすぎるじゃありませんか!!」
教室中がうっとりとした溜息に包まれる。
先生の語る歴史は、一点の曇りもない完璧な「剣と魔法の英雄譚」だ。
誰もがその光景を疑わず、ただ純粋な感動に身を任せている。
だが、俺だけは知っている。その「光」の正体を。
俺は机の下で、おじさんの怨念にも似た現実が詰まった『真っ黒な手記』のページを捲った。
『〇月〇日。魔王軍の兵站を調査完了。
あいつら、遠征先での食料調達を現地の商人に頼りすぎだ。
だから、その商会に「未来の独占販売権」をエサに投資を持ちかけ、実質的に傘下に収めた。
これで魔王軍の食糧庫は、僕が指先一つで空にできる。
決戦当日。呪文は適当に考えた。
「正規の・契約・締結」をそれっぽく叫んだだけだ。
空から降らせたのは、魔法で発光させた「解雇予告通知書」と「再雇用条件提示書」。
空腹の限界だった魔族たちは、その紙に書かれた「三食昼寝付き・社保完備」という文言を見た瞬間、文字通り光り輝く希望を見出したらしい。
魔王は「これが聖なる浄化か……」と勝手に震えていたが、違うぞ。
それはただの、「圧倒的有利な立場からの経営統合(M&A)」だ。
あー、疲れた。剣を振るより、契約書のダブルチェックの方が肩が凝る。
有給休暇をくれ。』
「……皆さん! 見てください、このカイト様の神々しいお姿を!」
先生のテンションはさらに加速する。肖像画の英雄を指差し、身を乗り出して叫んだ。
「カイト様は暴力を使わなかった!
憎しみの連鎖を、聖なる光で断ち切ったのです!
これこそが、我々が目指すべき平和の究極形!
まさに奇跡、奇跡としか言いようがない!」
教室は割れんばかりの拍手に包まれる。
だが、俺の目には、肖像画の右手に握られた「聖石」が、魔王軍という巨大組織を飲み込んだ「会社の実印」にしか見えなかった。
世界を救ったのは魔法じゃない。
ただ、誰よりも「早く帰りたかった」男の、徹底的な実務能力だったのだ。
「はい、拍手! 鳴り止まない拍手ありがとうございます!」
先生は満足げに頷くと、パンッと大きく手を叩いて教室の空気を引き締めた。
「ですが皆さん、感動して教科書を閉じるのはまだ早いですよ! 授業はまだまだ続きます! 次のページをめくって!!」
バサッ、と生徒たちが一斉にページをめくる音が響く。
先生は黒板を素早く黒板消しで拭き取ると、新しい名前をピンク色のチョークで大きく書き殴った。
「カイト様が一人で世界を救ったわけではありません。彼を支えた、清廉潔白なる美しき仲間がいましたよね?
そう、傷ついた人々を無償の愛で癒やし、死者すらも蘇らせる『奇跡の祈り』を捧げた……
聖女サクラです!」
先生は感極まったように胸に手を当て、天井を見上げた。
「彼女の祈りには、一切の見返りを求める心がなかった!
ただ世界のため、人々のために、己の命を削って奇跡を起こし続けたのです!
その見返りを求めない高潔な魂こそが、神に通じたのでしょう!
皆さん、ハンカチの準備はいいですか!?
次は、この美しすぎる聖女の『無償の愛』について、徹底的に語り尽くしますよ!!」
先生の熱弁が、さらにギアを上げる。
教室の女子生徒の中には、聖女の尊さにすでに目を潤ませている者もいた。
俺は息を呑みながら、机の下で手記のページをめくった。
聖女の無償の愛。自己犠牲の奇跡。
だが、手記に記されていたのは、その美しい微笑みからは想像もつかない、あまりにも「即物的な歩合制」の記録だった――。




