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2-3 イェシュア、ロスマン王国枢密顧問官になる

 なんと、あっという間に、イェシュアは「手回しモーター」と「フィラメント」を作り上げた。さすがのチート野郎だ。手回しモーターを回すと、接続されたフィラメントが輝く。これには、ケファも、電気を知っていたあたしも、さすがに驚いた。


「うむ、上出来だ。だが、これ以上の実験は控えておくべきだろう」

「どうして?」

「そなたの世界にはない素材でフィラメントを作った。負荷が大きい」

「あ、つまり、焼き切れるかもしれないってこと?」


「うむ」とイェシュアは考えながら続ける、「それで頼んでおいたものは?」

 Java+ブラウザ+MySQLで作った「経理システム」だ。……と言っても、「財務諸表」とかは作れず、単に出納管理・残高管理といった簡単なものだけれども。

「あ、うん」と、あたしは画面を表示しながら聞く、「でも、この程度、Excelがあったら一発、だよ?」

アバが言われるには、『ExcelやAccessは時期尚早』とのことだ」


 あ、はい、14~15世紀の世界には、確かに時期尚早ですよね。もっともブラウザも良い勝負だと思うけれども。


「そろそろ来る」


 何が、とは聞けなかった。獄卒が牢屋の外から、あたしたちに呼びかけたからだ。


「イェシュア殿とおつきたち、王様がお呼びです」


 またまたイェシュアは鍵がかかったはずの扉を内側から、いとも簡単に開けて、出ていく。あたしも、あわててイェシュアに、ケファがあたしの後に続いた。


 謁見の間(といっても、それほど広くはない)では、相変わらず、あたしから向かって左側・窓際にプレートメール着けて帯剣した騎士たち、右の壁際にはプレートメール着て槍と盾を持ち帯剣した兵士たち、正面の壁の前の椅子(玉座)にはガキんちょ王様が座り、王様の左には騎士団長ピット、右側には宰相コネリーが立っていた。いっぽう、あたしたちは中心がイェシュア、左側がケファ、右側があたし、だ。あたしの正面に陣取る「お偉いさん」たちは、あたしたちを呼びつけておきながら、暗い顔で黙り込んでいた。またもやイェシュアが唐突なことを言った。


「求めよ。そうすれば与えられよう。探せ。そうすれば見つけられよう。叩け。そうすれば扉が開かれよう」


 あ、うん、それもあったね。


「そなたは」と宰相コネリーがイェシュアに問う、「何者なのだ?」


「あ、うん」と、あたしは右手を上げて玉座に近寄る。ざわっと何人かの騎士と兵士が動こうとするが、あたしに敵意なぞないという意味で左手を頭にのせる。


 あたしは宰相の左隣も通り抜け、玉座の裏でしゃがむ。そして三人に手招きして、イェシュアの言う「アバ」が神様であることを耳打ちした。


「なっ……」と三人の顔は青ざめる。ガキんちょ王様は玉座から滑り落ちそうになったが、かろうじてとどまった。


「それでは」と騎士団長ピット、「あのかたは死の女神タラテアさま並みのお力が?」

「それよりも」と宰相コネリー、「あのかたこそが救世主ということで?」


「それはそうだけれどもねー」と、あたし、「この世界の魔素は使われても徐々に回復するけれどもねー……。問題があって」


 すると宰相と騎士団長が異口同音に聞いてきた。

「「どのような?」」


「イェシュアが大規模な御業をしでかすと世界の魔素が回復不能なまでに減る。そして、魔素は竜たちのSAN値維持に不可欠。つまり、下手すると世界中の竜が、より激しく暴れだす」


 あたしがイェシュアから聞いたときと同じように、三人は頭を抱えた。


「それゆえに」とイェシュア、「そなたたちに、私から提案がある」


 あたし含めた四人が頷くと、イェシュアは紙を虚空から取り出して、天井にぶら下げて、長々と説明を始めた。


 イェシュアの提案の骨子は下記のとおり:

 

 1.インフラ整備。この国では「尿瓶」の中の物を窓から外に投げ捨てている。あり得ない。下水道完備してトイレに接続。

 2.治安対策。盗賊や強盗を取り締まり、農作業の人や行商の人を守る。

 3.人員不足対策。竜を恐れて逃げ出した人を呼び戻す。

 4.経済対策。これは通貨改革や商業育成・税制管理も含める。

 5.邪竜対策。「帰らずの城」に住み着いたワイバーンやグリフォンを討滅し、竜の勢いを削いでいく。


「コネリー」とドヌエル4世(がきんちょ王様)がイェシュアを正面に見据えながら言う、「そなたが言ったとおりにする」

「しかし某は!」と騎士団長ピットが遮ろうとしたがドヌエル4世がピシャリと言う。

「だまれ」


「ロスマン王国にはなかった職であるが、ガロンヌにはある職を採用し……」と宰相コネリーはドヌエル4世に続きを促した。

「イェシュア・ユスタヴァをロスマン王国枢密顧問官に任じる」


「ふむ」とうなずきながらイェシュアは騎士の一人に近づく、「そなたは元大工のヨハネ、だね?」

「は、はい、そうですが」と騎士ヨハネはまごつく、「なぜ、それを?」

「ついてきなさい」とイェシュアはヨハネ・あたし・ケファ・王様・宰相・騎士団長を見ながら出口へと歩き出す。


 ケファが口を開いた。ラテン語だ。あたしでも知っている。その言葉の一部は古代ローマ帝国皇帝ネロを扱った古い映画のタイトルにもなっているぐらいに有名な言葉だ。字幕があたしの視界に表示された。


「どちらに行かれるのですか、主よ」


「大工の工房へ」とイェシュアはずんずん歩いていく。あたし含めた6人は慌ててイェシュアを追いかけた。


因みに、この世界にローマに該当する町や国家はなかった、らしい。


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