1-4 「9月の友だち」、クリスになる
私の小説『ひきこもりのおうじさま』の後日譚のようなお話です。
・『ひきこもりのおうじさま』を未読でも読めるようにはなっています。
・ただし、第五話で『ひきこもりのおうじさま』のネタバレが少し含まれます。
3人で話し合ったところ、「ユスタヴァ」(友だち)を家名にするか「スースクー」(9月)を家名にするかで議論が分かれた。その議論の中で、私は不意に思い出す。
「あ、でも、『秋の月』(9月)って日本では『菊の月』とも言うのよね……」
「それは美しい」とイェシュアは「菊」と書いた、"krysanteemi"(クリサンテーミ)。
「でも」と私は少し懸念した。
「それは違う」とイェシュアが唐突に言う、「クリサンテーミの語源は、黄金の花、だ。元の言語では『聖油』と綴りも違う」
「あ、そだったのね?」無知でごめんなさい。
「どうだろう?」とイェシュアは、何かを書きつける、「この国では、『親からもらった名前』そして、あれば、だが、『神からもらった名前』、最後に『家の名前』を名乗ることになっている。この世界の神と父は異なる存在なので、こう名乗ってみては、いかがだろうか?」
書かれた言葉はこうだった、"Krysanteemi Ystävä(aの上にウムラウトの文字が二つ)"(クリサンテーミ・ユスタヴァ)。
「友だち、が家名、ねえ……。でも、『クリサンテーミ』って長くない?」
「では、くだけた場面や愛称として『Krys』(クリス)とでも名乗れば良かろう。ちなみに、そなたの世界ではジュリアス(シーザー)やアウグストゥスが月の名前や親からもらう名前になっているから、ちょうどよいとは思うのだが」
「……ちょっとちょっと、待って。あんた、今、何をしたの?」
「ラテン語で話した」
「いや、いや、そんなことじゃなくってね?」
「うん? どういうことかね?」と、イェシュア、おそらくラテン語で(無知でごめんなさい)。
「いったいどうして、あんたの言った言葉に対し視界の片隅に【字幕が自動的に表示された】のさ!?」
「そういう仕様だ」とイェシュアは微笑する。
あたしは無言でうなだれて、無言で天を見上げた。……ん?
「今のって……念話?」
「そうだ」と字幕、ってロスマン語で「念話」で通じたんかーい!
「どうして、あんたは『仕様』と念話で伝えたのさ?」と私、思いっきり日本語で。だが、イェシュアが答えた。
「ヘブライ語・アラム語・コイネー(古典共通ギリシャ語)で、その言葉が上手に表現できるかどうか、分からなかった。ラテン語についてはプログラム……いや、これは私がそなたにする次の質問なのだが」ちなみに全部字幕だったが、私には何語で言われたのかわかんない(無知でごめんなさい)。
「そうそう」とイェシュアは言う、「こういうこともできるぞ」
すると、イェシュアは複数の言語で同時に異なる内容を念話で伝え始めた。そのとき、いっぱい訳注が表示されて視界が文字だらけになった。
「やめてください。ロスマン語でお願いします……。って、ロスマン語って何なんすか?」
「こういう言語だ」と別の紙片をあたしにイェシュアが渡した。
「へー、語彙のベース7割がフィンランド語、残りはドイツ語・チェコ語・ペルシャ語・アヴェスター語ほかと未知の言語で構成されていて、正しい文法については調査中だが、『話していると何とかなるだろう』……ですか」……ん?
「何かね?」とイェシュアは微笑する、うん、ロスマン語だ。
あたしは紙面をイェシュアに向けて詰問するが、大声にならざるを得ない、「この調査いったい誰がして、誰が【日本語】で書いたのさ?」
「もちろん、父だ」
あたしは勢いよくうなだれてしまう。
「そういや、あんたと父のコンビって、あたしの世界でも、最強のチート野郎コンビだったわ……」
「うむ」と、イェシュアは、肯定したのかどうなのかわかんない応じかたをした。




