1-5 クリス、ナーロッパを知る
私の小説『ひきこもりのおうじさま』の後日譚のようなお話です。
・『ひきこもりのおうじさま』を未読でも読めるようにはなっています。
・ただし、第五話で『ひきこもりのおうじさま』のネタバレが少し含まれます。
「次にそなたの職業について、なのだが」というイェシュアを、あたしは遮る。
「いや、待って、その前に、あたしに『この世界』をあんたが教えてくれるのが先決ではないかしら?」
「この女!」とケファは激昂しようとするが、イェシュアが手で制した。うん、ケファなら刀がなくても、あたしの耳を弾き飛ばせそうだもんね。
「ふむ、では、そなたに教えよう」
イェシュアは教えてくれた。この世界の地球は「グーン」と言い大地の神様の名前でもあるらしい。そのあたりの細かい事情は省略してもらった。
グーンの地形は、あたしのいた地球と、そこそこ似ている。で、あたしの世界の「ヨーロッパ」に相当する地域は、冗談抜きに、「ナーロッパ」と呼ばれている、らしい。
ナーロッパの地中海沿岸には南の国というのがある。が、この世界ではイタリア半島とバルカン半島が一つにくっついてしまっている。学問を大事にする国ではあるが、よそから侵略を受けぬ程度の武力はある。その武力をよそに向けるぐらいならば「学問を進展させることが先決」としている国だそうだ。
地中海南岸のアフリカ側から、あたしの世界でいうシリアあたりまで、「砂漠の国」というのがある。砂漠の国はさらに南の国々との抗争に明け暮れており、地中海北岸にまで手出しする余裕がない。ちなみに、イェシュアとケファは、砂漠の国からロスマンに徒歩で来た。ご苦労さん。
ナーロッパの西側の地方は、大国ガロンヌが統治している。フランス+オランダ諸々ってな感じ、だね。ちなみに、イベリア半島に相当するものが、ナーロッパにはない。ガロンヌは、後述ドヌエル1世の「やらかしてくれた」所業のため、ロスマン王国を警戒するもロスマンに侵略しようとする気配はない。ロスマンをとても恐れているのだ。
ガロンヌの東側、つまりナーロッパの東側には超大国レスコルムというのが、かつてあった。ナーロッパ東側全域を支配していて、そこの言語がロスマンにも影響した、らしい。ちなみに、この世界にスカンジナビア半島がない。が、カレリア半島らしきものがある。実は、カレリア語とフィンランド語は、よく似ている、らしい。だもんで、レスコルム語は「文法はロシア語・ポーランド語等の折衷で語彙はフィンランド語っぽかった」らしい。「らしい」という言葉が続く理由は、ロスマン現国王の曽祖父ドヌエル・ハンス(1世)・フォンタノが死の女神タラテアの力を借りて、強大な魔法でレスコルム【全域】の生物・建物【全部】を砂粒に変えて、何もかも消してしまったから、らしい。
「……それは、壮絶な見ものだったろうねぇ」
「実際にはタラテアというよりも空気を……」というイェシュアの説明を、あたしは遮った。
「あ、次行こ、次!」
ここ、ロスマンは、あたしの世界で言うアルプスの中の盆地に位置している。あたしの世界で言うスイス・オーストリアだね。……で、なんでフィンランド語なのさ、と思ったが。うん、レスコルムの影響だったんだろね。何があったのかは、あたしは気にしない。
ドヌエル1世の子供のドヌエル2世は剣術バカだったけれども、落馬して急死した。さらに子供(1世の孫)のドヌエル3世が即位したが、このヤサ男も早々に病死。現在では幼少のドヌエル4世が王位にある。あたしとイェシュアとケファを投獄した張本人だ。
あたしは周囲を見回す、「ああ、ここ、牢屋だったんだぁ」うん、たしかに鉄格子もあるし鍵のかかった扉もあるね。その割には、イェシュアたちは、いろいろ物を持ち込めていた(次話参照)みたいで、割と自由な感じでもあったけれども。
あたしを見ながら、なぜか苦笑しながら、イェシュアが言う、「そろそろ、そなたがしていた職業を、教えてくれぬか?」




