2-6 異世界工場(1.インフラ整備C 工業化)
ロスマン王国に水力発電所が建って1か月。あたしは、いらいらとケファをせっつく。
「ちょっと、ケファ、まだぁ?」
「すみません、クリス、あと少しで……」
ケファは、一生懸命に、検針結果を、あたしのキーボードとモニターを使って入力している。しかもタッチタイピングで、だ。でも、時間がかかるのは仕方ない。というのも、各家庭の電気使用量が書かれたものは、木の皮とか木の葉とか羊皮紙とか、素材も書式もバラバラだったからだ。もっとも羊皮紙なんてな素材は貴重だったけれども。
「…………」
イェシュアは何かを考えている。が、イェシュアが何かを言い出すよりも、あたしの愚痴のほうが速かった。
「ねえ、イェシュア、もう一組、キーボードとモニターを作ってくんない? 使いまわしって非効率……いてっ!」
バラバラバラッと、虚空から石が、あたしの頭の上に落ちてきた。
「クリス」とイェシュアは考え事をやめて、あたしに聞く、「そのキーボードとモニターは、どこに繋がっていたかね?」
「父……あ、そうか……」
そうやすやすと接続して良いものでもないか。と、思っていたら。
「お待たせしました、クリス、検針結果の入力が終わりました」
あたしが少しびっくりしたのは、フィンランド語でも「入力」のことを「食べさせる」という言葉だったことだ。……IT業でもよく入力を「食べさせる」とは言っていたけれども、ロスマンに来て「同じような表現をする」とは知らなかった。……ので、何回聞いても未だに少しびっくりしてしまう。
「クリス」とイェシュアが言う、「あれを頼む」
「あいよー!」と、あたしは、割と大きめのシステムをビルドした。あまりにもデカイので、また父に叱られるのでは、と心配したが、イェシュアによると「誤差の範囲内」らしい。
兵士たちが、いろんな種類のモーターを、主に木工細工で作った機械に、取り付けていく。
経糸と書いたところにロイミ用モーター、緯糸と書いたとこにはクデ用モーター、そして足元ペダルは綜絖操作して杼口を作るためのヴァコ用モーター。さらにはヴァコに杼を通すため左右にスックラ1用モーターとスックラ2用モーター。さらには通した緯糸に経糸とキッチリ詰めるために筬を動かすためのピルタ用モーター。
「イェシュアー! ビルドが終わったよー!」
「うむ」とイェシュアはスイッチを動かす。
シャッ、ガチャ、ガチャ、トントントン! シャッ、ガチャ、ガチャ、トントントン!
20台並んだ機織り機が、一斉に自動的に動き出す。「国営織物工場」の完成だ。
「イェシュア、成功したよー! 牢屋で動作確認はしていたけれど、本当に動くかどうか……あれ?」
いつものメンツ(王様・宰相・騎士団長その他)は「あんぐり」口を開けて自動機織り機を見つめている。が、イェシュアがいない。……どこ行った?
何か騒がしい、「ずずずずっ」という音がする。水力発電所をイェシュアが作った時のような。……まさか!
イェシュアは変電所の隣に妙な建物を御業で作っていた。建物と言っても中途半端な壁だけ。
「イェシュア、何これ?」
イェシュアは答えず、(仮称)建物にぽっかり開いた空間から中に入る。
でかいバケツみたいな箱の中で、モーターが木の皮をすりつぶして、隣のバケツに送り込んでいる。何かの液体の中に木の皮だったモノがぼちゃぽちゃと落ちる。
「あれ、水?」
イェシュアは念話で答えた、「水酸化ナトリウムだ」
「…………?」イェシュアは何を作ろうとしているのだろう?
水酸化ナトリウムの(仮称)炉の隣に別の炉ができた。
「……臭っ!」
「ふむ、それはマズイな」とイェシュアは隣の炉に御業で蓋をする。蓋は、あっという間に、高い煙突になった、「まだマズイ」とイェシュアは煙突に支柱を複数つけた。
「……何、これ?」見ると、いつものメンツが、あんぐりとイェシュアを見ている。連中も、イェシュアの御業に気付いたみたいだ。
「こちらは硫化ナトリウムだ」
「……いや、そういうことが聞きたいのではなくて、ね?」
イェシュアは二つ目の炉の隣に三つ目の炉を置いた。間を透明のパイプで結ぶ。茶色のドロっとした何かが二つ目の炉から三つ目の炉へと流れていく。かすかな匂い。
「で、何、これ?」
「過酸化水素と漂白剤。うむ、これも蓋をして煙突をつけよう」
「いや、だから、そういうことを聞きたいのではなく……て……ね?」
炉からは白い液体がワイヤーの網へと流される。さらにローラーへと回され乾燥させられる。モーターが、【そのモノ】を裁断していく。私は震える手で【そのモノ】をいくつか掴みあげ、イェシュアの頭をはたく。
「中世ヨーロッパ風の世界に【製紙工場】を作るんじゃねえ!!」
「でも、便利だろう?」とイェシュアは微笑する。あたしは頭を抱えた。
ゴツンッ! と割と大きな道具が虚空からイェシュアの頭に落ちた。
「イェシュア、だいじょーぶ?」と、あたし、思いっきり日本語で。
「あまり、だいじょばない」と変な日本語でイェシュアは応じて念話に切り替える、「これは簀桁と言い、コウゾから和紙を作るための、竹と木で作られた道具、だ」
「ああ、いきなり製紙工場にするのではなく、あの機織り機みたいにモーターで動かせば良かったのね、って痛っ!」あたしの頭の上にも、虚空から簀桁が落ちてきた。……ヤバい、怪我したかと思うくらい、ヤバい。
「気を付けよ」とイェシュア、「父は見ておられると言ったであろう。父を怒らせると怖いぞ」
「どーなるのさ?」
「……周りの人々に言いがかりをつけられて、手足に釘を打たれて磔にされる」
「ああ、そりゃ、『わが神、わが神、なぜ私をお見捨てになるのですか』と言いたくもなるさね、痛っ!」もう1発、あたしの頭に虚空から簀桁が落ちてきた。




