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2-7 異世界住民台帳(1.インフラ整備D 戸籍整備)

 珍しくイェシュアがキーボードを一心不乱に打っている。


「イェシュア、代ろうか?」


「いいや」とイェシュアは首を横に振りながら、「そなたにこの仕事は出来ぬ」と言いながら人の個人情報を入力していく。



「クリサンテーミ・ユスタヴァ 性別:【女】 生年月日:CE1482年9月1日

 職業:プログラマー(特殊な状況でのみ発動する魔法の魔法使い)……

 本籍地:異世界、現住所・ロスマン王国フォンタノ城

 父:死別、母:死別」


「え、イェシュア、あたしの両親、こっちの世界でも死亡扱いになるの?」


「……当然だろう?」


 イェシュアがパントクラトルのポーズを取ると、あたしの姿が画面に貼り付けられた。私はイェシュアに聞く、


「ねえ、イェシュア、これ写真(ヴアロクヴア)(=光の絵)?」


「うむ。……だが面倒だ、こうしよう」


 イェシュアはモニターにパントクラトルの祝福を与える。あっという間に、約80万人分のロスマン王国戸籍データが出来上がった。

 

「ねえ、イェシュア……。これ、マズくない?」


 イェシュアは両手を広げた。見慣れた複合機が10台ほど虚空から現れ、ガシャンガシャンと紙をどんどん印刷していく。


「ねえ、イェシュア……。これ、マズくない?」


 イェシュアは答えない。もうとっくに「紙切れ」を起こしているはずなのに、と思って操作パネルを見ると、イェシュアが御業で紙を補充しているみたいだ。


「ねえ、イェシュア……。80万人分の戸籍台帳を、何部印刷しようとしているのさ?」これは、あれだな、「やり切った後に父(アバ)に怒られる」という、いつもの後出しじゃんけんパターンだろうな。


「無理があるので、今は1部のみ」


「ねえ、イェシュア、やばくない? 全部積み上げるとどのくらいになるのさ?」


「約80メートルの高さになるはずだ」とイシュアが念話で応じた。私は頭を抱える。


「あのう、イェシュアさま、これは、何でしょうか?」と、あんぐり口を開けた王様・宰相・騎士団長ほかのいつものメンツを引き連れて、獄卒がやってきた。


「ロスマン王国に住む全住民の、人口登録簿(ヴエストレキステリ)だ」


 宰相の顔がひきつる、「王国の【全】住民?」


 イェシュアは「宰相コネリー」の戸籍の記載された紙の束を宰相に渡す。宰相は記載を見て震えだす。


「わ、わしの家の家族構成と住所が記載されておる……」


「え?」とピットが紙の束を覗く、「こっちは浮浪者に、その次は『群盗の指導者』……?」


「うむ。非常に高く積みあがるので、騎士と兵士たちは、紙の束を、近くにある『魔術師の塔』へと運び込め」とイェシュアが言うやや否や兵士たちと騎士たちは動き出した。


「魔術師の塔って、あの町の外にあった、謎の塔? あれ魔術師の塔って言うの?」


「うむ」とイェシュアは、「あたふたと紙の束を持ち去ろうとする兵士」を眺める。あたしは「バケツリレー形式にしたほうが速いだろうな」と感じたら、イェシュアはすぐさま、騎士団長に同じことを命じた。


「……なぜ『魔術師の塔』なのさ」


「現国王の曽祖父ドヌエル1世のさらに父親であるクレメンス1世が隠居するために魔法を使って数分で建てた塔なので、魔術師の塔という……頂上はクレメンス1世の墓所となっているはずだ」


「おうふ」と言ったところ、ガツンと何かの木箱が虚空から落ちてきてイェシュアの頭にぶつかった。


「ほら、やっぱり父(アバ)に怒られた。……やっぱ、この世界に複合機はマズイっしょ?」


 イェシュアは首を横に振る、「いや、人々の絵姿を用いるのに御業ではなく『これ』を使うべきだった、との仰せだ」

 

「何それ?」


「ダゲレオタイプ」とイェシュアは念話で応じる。あたしが分からないでいると、イェシュアは図解説明付で脳内説明しだした。……銀メッキした銅板を鏡面に磨き上げ、ヨウ素蒸気に晒して表面にヨウ化銀の膜を形成し日光などに当たらないように注意して道具の底に取り付ける。反対側の「ふさいでいた穴」の覆いをのけて銅板に露光させる……。


「あ、要するに、ピンホール・カメラって言うことね。……ねえねえ、それって画像粗くなったりするからフィルム・カメラのほうが……いてっ」あたしの頭の上に小さい金属の箱が落ちてきた。あたしは、よく、それを知っている。


「そうか、フィルム・カメラよりもデジタル・カメラのほうが環境には優しいか……」


 相変わらず、父(アバ)の「お怒りポイント」は、よくわからない。


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