第5章 第6話「情報が届く」
朝だった。
ガルドの執務室。
窓から光が入る。
机の上に——
報告書が積まれている。
「——読んだか」
ガルドが言う。
部下が頭を下げる。
「はい」
「どう思う」
「……複雑です」
「複雑?」
「リオという個体が——」
部下が言葉を選ぶ。
「想定より、速く動いています」
「速く?」
「獣人族を——引き込みました」
「戦わずに」
ガルドは少しだけ——
目を細める。
「戦わずに?」
「はい」
「どうやって」
「……詳細は不明です」
「ただ——」
「獣人の長格が、自ら動いている報告が」
ガルドは黙る。
(獣人を、言葉で動かした)
その事実を——
静かに処理する。
「他には」
「小人族の個体が——確認されました」
「小人族?」
「はい」
「ただ——」
部下が少しだけ間を置く。
「観測が、できていません」
「できない?」
「我々の感知に——引っかからない」
「存在は確認できるのに——」
「詳細が、分からない」
ガルドは無言で——
報告書を手に取る。
めくる。
止まる。
「エルフの少女」
低く言う。
「はい」
「変化した、とあるが」
「具体的には」
「……これも、詳細不明です」
「以前は——普通のエルフでしたが」
「今は——読めない」
「感知が、ずれる」
「ずれる?」
「どこにいるか——分かるのに」
「何をするか——予測できない」
ガルドは報告書を置く。
「増えているな」
低く呟く。
「読めない個体が」
「はい」
「リオだけなら——まだいい」
「だが——」
「周囲まで変わってきた」
部下は何も言わない。
ただ——
頷く。
「追跡は続けろ」
ガルドが言う。
「介入は?」
「しない」
「理由を——お聞きしても」
「目的が——重なる可能性がある」
部下が首を傾げる。
「重なる、ですか」
「奴らも——黒幕を探している」
「黒幕?」
「この均衡の崩れを——引き起こしている何かだ」
「もしそれを——奴らが先に見つけるなら」
「利用できる」
「……なるほど」
「ただし」
ガルドが目を上げる。
「邪魔になれば——その時は斬る」
「はい」
即答だった。
「ガビには——言うな」
部下が少しだけ——
驚いた顔をする。
「なぜですか」
「余計なことを考える」
「勇者というのは——」
「純粋でなければ意味がない」
「複雑なことを知れば——」
「迷う」
「迷わせてはいけない」
その言葉は——
冷静だった。
感情がない。
ただ——
正確な判断として。
「……了解しました」
部下が頭を下げる。
「下がれ」
一人になる。
ガルドは窓の外を見る。
王都の朝。
動き始めた人々。
その先——
遠く。
リオたちが向かっている方向。
(面倒だな)
低く思う。
だが——
それだけだ。
感情はない。
苛立ちもない。
ただ——
(目的のために、最適を選ぶ)
それだけが——
この男の在り方だった。
机に視線を戻す。
次の報告書を手に取る。
淡々と——
読み始める。
その部屋に——
感情の気配は、ない。
あるのは——
目的だけだ。
遠くで——
訓練場の剣の音が響く。
ガビの声が——
かすかに聞こえる。
「——もう一度!」
真っ直ぐな声。
ガルドは——
それを聞いて。
何も思わなかった。
ただ——
(使える)
それだけを——
思った。




