第4話「嘘と真実のあいだ」
「あなた、何者なの?」
森の中、静寂の中でその問いが落ちた。
リオはすぐには答えなかった。
足元では、未完成のゴーレムがかすかに揺れている。
崩れる寸前の、不安定な存在。
(……さて)
どう答えるか。
すべてを話す意味はない。
だが、完全に誤魔化すのも難しい。
目の前の少女は、それを見抜く。
「黙ってるってことは、普通じゃないのは認めるんだ」
セリアが一歩踏み込む。
「否定はしない」
リオはあっさり言った。
「……じゃあ、あれは何?」
視線がゴーレムに向く。
「魔法?」
「似たようなもの」
「“似たような”ってなに」
「言葉の違い」
「ごまかしてる」
即答だった。
リオはわずかに目を細める。
「細かいな」
「重要だから」
セリアは一切引かない。
その態度に、リオは少しだけ思考を変えた。
(……ある程度は開示した方がいいか)
「それは、“作ったもの”だ」
「作った?」
「そう。自然に生まれたものじゃない」
セリアの表情が変わる。
理解が一段深まる。
「……じゃあ、あなたが?」
「そうなる」
短く肯定する。
沈黙。
風が木々を揺らす音だけが響く。
「……そんなの、聞いたことない」
「だろうね」
「普通の魔法じゃないよ、それ」
「普通じゃないから」
また、淡々とした返答。
だがその中に、ほんのわずかに“線引き”が見える。
これ以上は踏み込むな、という。
セリアはそれを感じ取る。
「……じゃあもう一つ」
「なに」
「危険なの?」
核心だった。
リオは少しだけ視線を落とす。
足元のゴーレムを見る。
未完成で、歪で、それでも確かに“命のようなもの”。
(危険かどうか、か)
過去の記憶がよぎる。
街を壊したこと。
命を奪ったこと。
裏切られたこと。
そして——自分がそれを作ったという事実。
「——使い方次第」
そう答えた。
嘘ではない。
だが、真実のすべてでもない。
セリアはじっと見つめる。
「それって、一番信用できない答えだよ」
「そう?」
「うん。“どうにでもなる”ってことだから」
鋭い。
リオはわずかに息を吐いた。
「じゃあ聞くけど」
「なに?」
「君は、自分の力が誰かを傷つける可能性があったら、それを捨てる?」
セリアが言葉に詰まる。
「それは……」
「治癒魔法、使えるんでしょ」
「え、なんで」
「雰囲気で分かる」
「なにそれ……」
少しだけ空気が緩む。
だがリオは続ける。
「その力で救える命もあれば、戦場に立てば誰かを見殺しにするかもしれない」
「……」
「それでも、使うでしょ」
セリアはしばらく黙ったあと、小さく頷いた。
「……使う」
「なら同じだ」
リオは言った。
「力に意味はない。意味を持つのは使う側だ」
セリアは目を細める。
「それ、正しいこと言ってる風で逃げてるよね」
「否定はしない」
「やっぱり」
小さくため息をつく。
だがその顔には、わずかに笑みが混じっていた。
「でも」
セリアは言う。
「完全に嘘は言ってない」
「さっきからそうしてる」
「中途半端だね」
「全部本当を言うよりはマシ」
また沈黙。
だが先ほどまでの緊張は、少しだけ変わっていた。
敵意ではない。
警戒と、興味。
「ねぇリオ」
「なに」
「もう一つだけ聞いていい?」
「内容による」
「それ、名前あるの?」
セリアがゴーレムを見る。
リオもそれを見る。
少し考えてから、答えた。
「……まだない」
「そっか」
セリアはしゃがみ込み、壊れかけのそれをじっと見つめた。
「じゃあさ」
ふと、顔を上げる。
「ちゃんと作れたら、見せてよ」
「……は?」
「危険かどうか、自分の目で確かめたい」
真っ直ぐな目だった。
疑いもある。
でもそれ以上に、“知ろうとしている目”。
リオは少しだけ驚いた。
(逃げないのか)
普通なら、距離を取る。
恐れる。
関わらない。
だがこの少女は違う。
「……物好きだね」
「よく言われる」
「後悔するかもよ」
「そのときはそのとき」
即答だった。
リオはわずかに笑う。
本当に、わずかに。
「……分かった」
その約束が、どんな意味を持つのか。
まだ誰も知らない。
だが確実に。
二人の距離は、ほんの少しだけ近づいていた。




