第3話「森で出会った少女」
「待てってリオー!」
「遅い」
「お前が速すぎるんだよ!」
鬼ごっこは、予想外の展開になっていた。
“足が遅そう”と言われたリオは、誰よりも正確に、無駄なく動いていた。
「そっち行ったぞ!」
「読めてる」
「なんでだよ!?」
相手の動きを先読みするような動き。
それは経験によるものだった。
戦場で培われた、“予測”の技術。
(……やりすぎか)
リオはわざと足を緩めた。
そのまま森の方へと入り込む。
「おい!そっちはダメだって!」
後ろから声が飛ぶ。
「森の奥、危ないんだぞ!」
「すぐ戻る」
そう返して、リオは木々の中へと進んだ。
静かになる。
風の音と、葉の揺れる音だけが残る。
(……気配がある)
足を止める。
人ではない。
魔物とも違う。
もっと——近い。
そのときだった。
「あなた、何してるの?」
背後から声。
振り向くと、そこにいたのは一人の少女だった。
淡い銀色の髪。
透き通るような瞳。
人間とは違う、整いすぎた存在感。
(エルフ……)
「こっちの台詞」
リオは淡々と返す。
「ここ、危ないよ。人間の子供が来る場所じゃない」
「君も子供に見えるけど」
「私は大丈夫」
即答だった。
少女は一歩近づく。
じっとリオを見つめる。
「……変な感じ」
「なにが」
「うまく言えないけど、普通の人間じゃない感じがする」
核心に近い言葉だった。
だがリオは表情を変えない。
「それ、初対面で言うこと?」
「うん。でも当たってるでしょ?」
沈黙が落ちる。
少女はじっと見ている。
試すような目。
(鋭いな)
「……ただの村人だよ」
「ふーん」
明らかに信じていない返事。
「じゃあ質問。さっきの動き、何?」
「鬼ごっこ」
「そういう意味じゃない」
少女は少しだけ眉をひそめた。
「無駄がなさすぎる。あれ、訓練された動きだよ」
「よく見てるね」
「エルフだから」
軽く言い切る。
その自信が、妙に自然だった。
「……君は?」
「セリア。セリア・エルフィン」
「リオ」
「それ、本当の名前?」
「本当の名前って何」
「うーん……“後からつけた名前”じゃなくて、“元から持ってる名前”って感じ」
一瞬。
ほんのわずかに、リオの思考が止まる。
(……そこまで踏み込むか)
だが次の瞬間。
地面が、微かに震えた。
「っ——!」
セリアが息を呑む。
リオの足元。
落ちていた髪の毛と、削れた爪の欠片。
それらが、ゆっくりと動き始めていた。
「なに、これ……」
集まり、絡み合い、形を成す。
小さな——人型。
「……やっぱり」
セリアが呟く。
恐怖ではない。
確信だった。
「あなた、“普通じゃない”」
ゴーレムはまだ未完成だった。
不安定に揺れている。
(制御が甘い……)
リオはそれを見下ろす。
そして、小さく息を吐いた。
「見られたなら、仕方ないか」
隠す段階は、終わった。
そう判断した。
セリアは一歩も引かない。
ただ、まっすぐに見ている。
「ねぇ」
静かに言った。
「あなた、何者なの?」
森の空気が、張り詰める。
その問いに——
リオは、初めて少しだけ考えた。
どう答えるべきかを。




