第2話「違和感のある子供」
「リオー!早く来いよ!」
外から響く声に、リオは本から顔を上げた。
窓の外では、同年代の子供たちが手を振っている。
「……今行く」
本を閉じ、ゆっくりと立ち上がる。
扉を開けると、すぐに一人の少年が駆け寄ってきた。
「また本読んでたのか?好きだなぁ、お前」
「別に。暇だっただけ」
「嘘つけって。あんな難しいの俺ぜんっぜん分かんねぇぞ?」
少年は大げさに頭を抱える。
その様子に、リオはわずかに目を細めた。
(……理解できない、か)
「ねぇリオ、それって何の話なの?」
別の少女が興味津々に覗き込む。
「昔の戦争の記録」
「え、やだ怖い。なんでそんなの読むの?」
「知っておいた方がいいから」
即答だった。
子供たちは顔を見合わせる。
「……やっぱリオ、変だよな」
ぽつりと呟かれる。
だがその声に悪意はない。ただの率直な感想だった。
リオは少しだけ考えてから、言った。
「みんなは、なんで遊ぶの?」
「は?」
「楽しいからに決まってんだろ?」
「なんで楽しいの?」
「なんでって……なんでだ?」
少年は困ったように笑う。
「ほら、みんなで走ったりするとさ、なんかこう……いい感じじゃん」
「いい感じってなんだよ」
「それは……いい感じはいい感じだ!」
周囲がどっと笑う。
その笑い声が、やけに軽やかに響いた。
リオは少しだけ黙り込む。
(理由がない……いや、言語化できないだけか)
「リオは楽しくないのか?」
ふいに問われる。
視線が集まる。
リオは一瞬、答えに詰まった。
(楽しい、という感覚は——)
過去の記憶を探る。
だが出てくるのは、戦いと創造と破壊ばかり。
その中で、“遊び”はなかった。
「……分からない」
正直に答えた。
空気が少しだけ静まる。
だが次の瞬間、
「じゃあ今日わかればいいじゃん!」
少女が笑いながら言った。
「え?」
「鬼ごっこやろ!リオ、絶対弱そうだし!」
「おい失礼だぞそれ!」
また笑いが広がる。
その中心に、自然と自分がいる。
(……分からないな)
けれど。
「……いいよ」
気づけば、そう答えていた。
「よっしゃ!じゃあリオが鬼な!」
「なんでだよ」
「一番足遅そうだから!」
「決めつけだろそれ」
言い返しながらも、リオはわずかに口元を緩めた。
その瞬間。
ぴくり、と指先が震える。
「あ……」
黒く変色した爪が、わずかに覗く。
「どうした?」
「……なんでもない」
すぐに手を握り込む。
見られてはいない。
だが——
(長くはもたないな)
それでも。
「ほら、逃げろよ」
リオは一歩踏み出した。
「10数えるからな」
「ちゃんと数えろよー!」
「途中で来るなよ!」
騒がしい声が広がる。
リオはゆっくり目を閉じた。
(もう少しだけ)
この、理由のない楽しさを。
この、壊れていない時間を。
知ってみるのも悪くない。
「……1」
静かに数え始める。
その声は、どこか柔らかかった。
だが——
その穏やかな時間の裏側で。
確実に、“何か”が目を覚まし始めていた。




