第1話「終わらない命」
世界には、四つの種が存在していた。
人間、獣人族、エルフ族、小人族。
そして——もう一つ。
誰もが口にすることを恐れる名。
魔王。
それは単なる強者ではない。王でもない。存在そのものが異質だった。
魔王は死なない。
正確には、「終わらない」。
肉体が滅びても、魂は砕けず、どこかの命に宿る。そして記憶を引き継いだまま、新たな肉体で再びこの世界に現れる。
何度も、何度も。
数え切れぬほどに。
今回の魔王は、まだ幼かった。
名は、まだない。
人間の村に生まれたその子は、静かに目を開いた。
生まれたばかりの赤子のはずなのに、その瞳は異様に澄んでいた。
まるで——すべてを知っているかのように。
(……また、か)
声にならない思考が、確かにそこにあった。
記憶は残っている。
炎に焼かれた都市。
自らが創り出したゴーレムたち。
そして——裏切り。
(今回は……どうする)
その小さな手が、ゆっくりと握られる。
爪が、わずかに伸びた。
赤子のそれとは思えない、硬質な輝き。
この世界の魔族は、彼から生まれた。
かつての自分が、髪と爪から作り出したゴーレム。
それらが人間と交わり、血を受け継ぎ、やがて「魔族」と呼ばれるようになった。
だが、彼らはすでに「制御下」にはない。
自我を持ち、欲望を持ち、そして——裏切る。
それを、魔王は知っている。
すべて、何度も経験しているからだ。
(今回は……違う結末にする)
赤子は、わずかに笑った。
その笑みは、あまりにも静かで、あまりにも冷たかった。
その日、一つの命が生まれた。
そして同時に。
世界の均衡は、再び静かに崩れ始めていた。
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