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この世界にはどうやら魔王が最強でほかにも獣人族エルフ族小人族がいるようです  作者: 1010
第4章 「気づかれない者たちが、世界を変える」

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第4章 第3話「転換の種」

翌朝。

森の空気は、まだ重かった。

「……また来る」

セリアが呟く。

「うん」

リオが短く返す。

「どうするの?」

「待つ」

「待つって……逃げないの?」

「逃げても意味ない」

あっさり言う。

セリアは少しだけ俯く。

「……私、昨日のガオルの目が気になってる」

「どの辺が」

「最後に振り返ったとき」

リオは何も言わない。

ただ、聞いている。

「怒ってなかった」

「……そう見えた?」

「うん」

少しの間。

「何か、考えてるみたいだった」

リオはわずかに目を細める。

(……鋭くなってきたな)

最初とは違う。

確実に。

「正解かもしれない」

「やっぱり」

セリアが顔を上げる。

「じゃあ今日、話せる?」

「それは相手次第」

「またそれ」

呆れながらも——

その目は、真剣だった。

そのとき。

ガサリ、と音がした。

「——来た」

リオが呟く。

木々の奥から現れる。

ガオルと、数体の獣人族。

昨日より、少ない。

「……来ると思ってた」

ガオルが言う。

「逃げないと思ってたから」

リオが返す。

「当然だ」

ガオルは一歩前に出る。

だが——

昨日より、速度が違う。

「一つ聞く」

「なに」

「お前たちは、何をしに来た」

問い。

直球。

昨日は敵意だけだった。

今日は——違う。

「通過するだけ」

リオが答える。

「それだけか」

「それだけ」

「嘘をつくな」

ガオルの目が鋭くなる。

「お前たちが来てから、流れが変わった」

「……」

「均衡が崩れた」

「そこら中で争いが起きている」

「我らの仲間も、傷ついた」

その言葉には、怒りだけじゃない。

痛みが混じっていた。

「……知ってる」

リオが言う。

「知ってて来たのか」

「知ってたわけじゃない」

「でも、気づいてた」

ガオルの拳が、わずかに握られる。

「それで、来たのか」

「止められないから来た」

リオは続ける。

「流れは、もう動き始めてる」

「俺たちが来なくても、同じことになってた」

沈黙。

ガオルは、その言葉を噛み締める。

「……証拠はあるか」

「ない」

即答だった。

「信じろというのか」

「信じなくていい」

リオはあっさり言う。

「ただ——」

視線を上げる。

「見ててくれればいい」

「何を」

「これからのことを」

その言葉に、ガオルの眉がわずかに動く。

そのとき——

「ガオル!」

後方から声。

獣人族の一人が駆け込んでくる。

「何があった」

「北の境界で、また異変が……!」

「異変?」

「均衡が……完全に崩れています」

「生き物が、おかしくなっていて……!」

空気が変わる。

ガオルの表情が固まる。

「……場所は」

「すぐそこです」

ガオルがリオを見る。

一瞬。

「来い」

短く言った。

「え?」

セリアが驚く。

「お前たちが関係あるなら、見ろ」

それだけ言って、走り出す。

リオとセリアも続く。

森を駆ける。

木々の間を抜ける。

やがて——

視界が開ける。

「……っ」

セリアが言葉を失う。

そこにあったのは——

歪んだ空間だった。

地面が、黒く変色している。

植物が、異様な形に変形している。

動物たちが、理性を失ったように暴れている。

「これは……」

ガオルが低く呻く。

「魔物でもない」

「自然現象でもない」

リオが静かに言う。

「"修正"の余波だ」

「修正……?」

ガオルが振り向く。

「何だ、それは」

リオは少しだけ考えてから——

「この世界を、誰かが触っている」

その言葉に。

ガオルの目が、鋭くなる。

「……誰が」

「まだ分からない」

「でも確実にいる」

沈黙。

歪んだ空間が、じわじわと広がっていく。

「止められるか」

ガオルが問う。

「やってみる」

リオが一歩前に出る。

「セリア」

「うん」

「下がって」

「分かった」

今回は、すぐに頷く。

だが——

下がりながらも。

セリアの目は、前を見ていた。

リオが手をかざす。

黒い糸が伸びる。

歪んだ空間に触れる。

少しずつ、少しずつ——

押し戻す。

完全ではない。

でも——

確実に、縮んでいく。

数分後。

空間が、元に戻る。

完全ではない。

だが、広がりは止まった。

「……」

ガオルは、その光景を見ていた。

一言も発しない。

ただ——

見ていた。

「終わり」

リオが振り返る。

「完璧じゃないけど」

「……」

ガオルはまだ黙っている。

その目に——

昨日とは違う色があった。

「……お前は」

やがて、絞り出すように言う。

「何者だ」

リオは少し考えてから——

「さあ」

と答えた。

ガオルは、その答えに怒らない。

ただ——

深く、息を吐いた。

「……セリア」

突然、名前を呼ぶ。

セリアが驚く。

「え、私?」

「昨日言っていたな」

「逃げたら、見えなくなると」

「……うん」

「なぜ見続ける」

真剣な目だった。

セリアは少しだけ考えて——

「見えないと、助けられないから」

静かに答えた。

「強くなくても?」

「強くなくても」

「怖くても?」

「怖くても」

ガオルは、その言葉を受け止める。

長い沈黙。

風が吹く。

歪んだ痕跡が、かすかに残る地面を撫でる。

「……俺には、理解できない」

ガオルがぽつりと言う。

「強くない者が前に立つ理由が」

「そうだね」

セリアが頷く。

「でも——」

一歩、前に出る。

「理解しなくていいよ」

「え?」

「ただ、見ててくれれば」

リオと同じ言葉。

ガオルの目が、わずかに揺れる。

「……」

その瞬間。

何かが——

動いた。

胸の奥で。

言葉にできない。

理屈でもない。

ただ——

「……分かった」

低く言う。

「今日は、ここまでにする」

踵を返す。

だが——

完全な敵意は、もうそこにない。

セリアはその背中を見ながら——

「……リオ」

小さく言う。

「なに」

「変わってきてる」

「うん」

「いい方向に?」

リオは少しだけ笑った。

「たぶんね」

風が、少しだけ柔らかくなった気がした。

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