第5話「整いすぎた世界」
「ここよ」
エルフの長が立ち止まる。
広間のような場所。
木の内側をくり抜いた空間。
静かで、整っている。
「座りなさい」
促されるまま、三人は向かい合う。
セリアは少しだけ緊張していた。
「……久しぶりだね」
小さく言う。
「ええ」
長は頷く。
「変わりはないわ」
その答えに、セリアは少しだけ違和感を覚える。
(……変わり、ない?)
普通なら。
もっと聞くことがあるはずだ。
どこにいたのか。
何をしていたのか。
危険はなかったのか。
なのに——
それがない。
「あなたは」
長の視線がリオに向く。
「何者?」
直球だった。
リオは少しだけ考えて——
「旅人」
と答える。
「嘘ね」
即答だった。
セリアがびくっとする。
だが長は、追及しない。
「まあいいわ」
あっさりと流す。
それもまた、不自然だった。
(……深追いしない?)
リオは観察する。
普通なら、もっと踏み込む。
だがしない。
「一つ聞くわ」
長が言う。
「あなたたち、何をしに来たの?」
「通過」
リオが答える。
「それだけ」
「そう」
頷く。
「なら問題ないわ」
またそれだった。
“問題ない”。
“均衡が保たれている”。
同じ基準。
同じ判断。
(……揃いすぎてる)
リオはわずかに目を細める。
「ねぇ」
セリアが口を開く。
「最近、何か変わったことない?」
長は少し考えて——
「特にないわ」
と答える。
「すべて、安定している」
その言葉に。
リオの中で、何かが繋がる。
(……安定しすぎてる)
普通は。
少しは崩れる。
少しはズレる。
でもここには、それがない。
まるで——
「調整されてるみたい」
リオがぽつりと言う。
セリアが振り向く。
長の目が、わずかに細まる。
「どういう意味かしら」
「そのままの意味」
リオは周囲を見る。
「均衡が、綺麗すぎる」
「それは良いことでは?」
「普通はね」
リオは続ける。
「でもこれは、自然じゃない」
沈黙。
空気が少しだけ変わる。
「……何を言っているのか、分からないわ」
長は言う。
だが——
その声に、ほんのわずかなズレ。
「そう」
リオはそれ以上追わない。
(……知らないのか)
それとも。
(知らされてないだけか)
どちらでもいい。
重要なのは——
(“誰かが触ってる”)
その確信。
セリアが不安そうに見る。
「リオ……」
「大丈夫」
軽く言う。
だが、その目は笑っていない。
「……ここ、少し変」
セリアが小さく言う。
「うん」
リオは頷く。
「やっと分かった」
「何が?」
一瞬の間。
そして——
「この世界」
静かに言う。
「勝手に動いてない」
セリアの息が止まる。
「え……?」
その言葉の意味を、理解しかける。
「全部じゃない」
リオは続ける。
「でも大きい流れは、誰かが決めてる」
長は何も言わない。
ただ、静かに見ている。
「それって……」
セリアの声が震える。
「どういうこと?」
リオは答えない。
答えは、もうすぐ来るから。
(……タイミング的に)
近い。
気配ではない。
もっと別の“予兆”。
「……来る」
小さく呟く。
「え?」
次の瞬間——
風が、止まった。




