第4話「帰る場所」
森の色が、変わった。
深い緑。
澄んだ空気。
風が柔らかい。
「……ここ」
セリアが立ち止まる。
「私の故郷の近く」
声が、少しだけ軽くなる。
今までとは違う響き。
「そうなんだ」
リオが周囲を見渡す。
(……静かだな)
だがそれは、獣人の森とは違う。
もっと整っている。
整いすぎている。
「懐かしい?」
「うん」
セリアが小さく笑う。
「ここ、好きだった」
過去形。
その言い方に、リオは少しだけ目を細めた。
「戻るの、久しぶり?」
「うん……結構」
少しだけ間。
何かを言いかけて、やめる。
「行こう」
自分から歩き出す。
その背中を、リオは何も言わずに追う。
やがて。
視界が開ける。
そこにあったのは——
静かな集落。
木々と一体化したような建物。
水の流れる音。
そして。
「……変わってない」
セリアが呟く。
だが、その声には——
わずかな違和感。
「誰だ」
静かな声。
振り向くと、エルフの男が立っていた。
長い耳。
整った顔。
だが、目は鋭い。
「セリア?」
その名を呼ぶ。
一瞬の沈黙。
「……ただいま」
セリアが言う。
その言葉に、男の表情が少し緩む。
「戻ってきたか」
短く言う。
だが、抱きしめることも、喜ぶこともない。
「そっちのは」
視線がリオに向く。
「連れ」
セリアが答える。
「人間か」
「そう」
少しだけ間。
「通せ」
あっさりと言う。
セリアが驚く。
「いいの?」
「問題ない」
獣人と同じ言葉。
同じ響き。
「今は、均衡が保たれている」
セリアの目が、わずかに揺れる。
(また……)
その言葉。
どこでも同じ。
「……ありがとう」
違和感を飲み込み、進む。
村の中。
視線はある。
だが、強くない。
敵意も、歓迎もない。
ただ——
“受け入れられている”。
それが逆に、引っかかる。
「ねぇ、リオ」
小声で言う。
「なに」
「変じゃない?」
「どの辺が」
「みんな、あっさりしすぎてる」
その通りだった。
久しぶりに帰ってきた者への反応としては、薄い。
「……そうだね」
リオも頷く。
(感情が薄い……いや)
違う。
「削られてる」
「え?」
「なんでもない」
誤魔化す。
確信はまだない。
だが——
“何か”が作用している。
そのとき。
「セリア」
別の声。
振り向く。
一人の女性エルフ。
年長。
落ち着いた雰囲気。
「……長」
セリアが小さく呟く。
「戻ったのね」
穏やかな声。
だが、その目は——
どこか遠い。
「はい」
セリアが頭を下げる。
「無事でよかった」
言葉は優しい。
だが。
どこか“決められた言葉”のように聞こえる。
リオはそれを観察していた。
「その者は?」
長の視線が向く。
「リオ」
セリアが紹介する。
「……そう」
短い反応。
そして。
「話がある」
それだけ言って、背を向ける。
「ついてきなさい」
命令ではない。
だが、拒否する選択肢も感じない。
「……うん」
セリアが頷く。
歩き出す。
リオも続く。
その背中を見ながら——
(……濃いな)
違和感が。
ここは、特に強い。
整いすぎている。
静かすぎる。
“均衡”が、強すぎる。
(……中心に近いか)
まだ見えない。
だが確実に——
この場所は、“何か”に近い。




