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この世界にはどうやら魔王が最強でほかにも獣人族エルフ族小人族がいるようです  作者: 1010
第3章

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第6話「見えないズレ」

「……来る」


リオのその一言のあと。


風が、止まった。


「え?」


セリアが顔を上げる。


さっきまで揺れていた木々が、ぴたりと動きを止めている。


音がない。


虫の声も。


葉の擦れる音も。


「……なに、これ」


嫌な静けさ。


空気が、重い。


「リオ?」


隣を見る。


リオは——


動いている。


だが、少しだけ違った。


「……」


視線が、どこか遠くを見ている。


ここではない場所。


「リオ?」


もう一度呼ぶ。


返事がない。


(……聞こえてない?)


ありえない。


こんな距離で。


「ねぇ!」


肩に触れる。


その瞬間。


——ゾワッ。


何かが、背中を撫でた。


冷たい。


見えない何か。


「……っ」


思わず手を引く。


振り向く。


誰もいない。


でも。


(いる)


そんな感覚。


「……なにこれ」


心臓が速くなる。


リオはまだ動かない。


ただ、立っている。


でも——


(違う)


“そこにいる”感じが、薄い。


「……やめてよ」


小さく呟く。


理由も分からない恐怖。


「リオ……」


もう一度、手を伸ばす。


触れる。


今度は、何も起きない。


でも。


「……」


リオの目が、少しだけ動く。


焦点が合う。


「……ああ」


小さく声を出す。


「終わった?」


その言葉に、セリアは固まる。


「え?」


「何が?」


「今の」


「今?」


本当に分かってない顔。


いや——


「……リオ」


ゆっくりと言う。


「今、何してたの?」


少しの沈黙。


リオは、わずかに視線を逸らした。


「……ちょっと、考え事」


「嘘」


即答だった。


リオが少しだけ驚く。


「顔、全然違った」


「そう?」


「うん」


はっきり言う。


「怖かった」


その言葉に、少しだけ空気が変わる。


リオはしばらく黙って——


「……何か感じた?」


と聞いた。


「え?」


「変な感じとか」


セリアは考える。


さっきの感覚。


止まった世界。


見えない“何か”。


「……いた」


小さく言う。


「何かが、いた」


リオの目が、わずかに細まる。


「見えた?」


「見えない」


「でも、いた」


確信している。


理由はない。


でも分かる。


「……そっか」


リオが小さく呟く。


「それ、たぶん正解」


「え……?」


「説明は難しいけど」


少しだけ間。


「この世界、誰かが触ってる」


第5話で言った言葉。


でも今は、重みが違う。


「触ってる……?」


「うん」


「さっきのは、その一部」


セリアの喉が乾く。


「それって……」


言葉にするのが怖い。


でも——


「敵?」


リオは少し考えてから、


「分からない」


と答えた。


「ただ——」


視線を上げる。


空を見る。


「俺たちより上にいる」


その言葉に。


セリアの背筋が冷たくなる。


「……それ、どうするの?」


震える声。


リオは少しだけ笑った。


「どうもしない」


「え?」


「できないし」


あっさりと言う。


「今はね」


セリアは黙る。


理解できない。


でも——


(本気だ)


この人は、本気でそう思ってる。


「……怖くないの?」


「慣れてる」


即答だった。


セリアの表情が止まる。


「……え?」


今、なんて言った?


「慣れてる?」


リオは、ほんの一瞬だけ言葉を止めて——


「……似たようなのは、何度か」


と誤魔化す。


だが。


(今の……)


セリアは感じ取っていた。


“初めてじゃない”


その違和感。


「……ねぇ」


小さく言う。


「リオってさ」


「なに」


「本当に、何者なの?」


沈黙。


風が、ゆっくり戻る。


世界が、また動き出す。


リオは答えない。


ただ、前を向く。


「……そのうち分かるよ」


それだけ言って、歩き出す。


セリアはその背中を見る。


(分からないこと、増えてるのに)


でも。


それでも。


目を逸らさなかった。


見てしまったから。


“見えない何か”を。


そして——


その中にいる、リオを。

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