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この世界にはどうやら魔王が最強でほかにも獣人族エルフ族小人族がいるようです  作者: 1010
第3章 「変わらない世界」

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第1話「均衡の世界」

「……静かだね」


セリアがぽつりと呟いた。


獣人族の領域に入ってから、半日。


森は広く、生命の気配は濃い。


だが——


どこか、不自然だった。


「何が」


リオが前を歩きながら聞く。


「争いがない」


セリアは周囲を見渡す。


「ここって、人間と獣人がぶつかる場所なんでしょ?」


「一応ね」


「でも全然そんな感じしない」


風が木々を揺らす。


遠くで獣の鳴き声。


それだけ。


戦いの気配は、ない。


「……抑えられてるんだろ」


リオが言う。


「抑えられてる?」


「均衡」


短い言葉。


セリアは首を傾げる。


「それって自然に?」


「どう思う?」


問い返される。


セリアは少し考えて——


「……自然じゃない気がする」


正直な感想だった。


強い種族があれば、ぶつかる。


領土を奪う。


争いになる。


それが普通。


なのに——


(何も起きてない)


「正解」


リオが軽く言う。


「え?」


「自然じゃない」


あっさりと肯定する。


セリアの足が止まる。


「じゃあ……なんで?」


リオは答えない。


代わりに、視線を遠くへ向ける。


(……似てるな)


この空気。


この静けさ。


嵐の前ではない。


もっと違う。


(……“調整された静けさ”)


過去の記憶と重なる。


何度も経験した、“均された世界”。


「ねぇ、リオ」


「なに」


「これって……いいことなの?」


難しい問いだった。


争いがない。


平和。


それだけ見れば、正しい。


でも——


「どうだろうね」


リオは曖昧に答える。


「バランスが取れてるってことは、どこかが抑えられてるってことだし」


「……あ」


セリアが小さく声を漏らす。


「誰かが損してる?」


「大体はね」


その言葉に、少しだけ空気が重くなる。


そのとき。


「——止まれ」


低い声が響いた。


前方。


木の上。


一人の影。


しなやかな体。


鋭い目。


獣人。


「ここから先は、許可がいる」


リオとセリアを見下ろす。


警戒はある。


だが、敵意は薄い。


「通してほしい」


リオが言う。


「理由は」


「通るだけ」


「それは理由にならない」


正論だった。


少しの沈黙。


その間に——


獣人の目が、わずかに細まる。


「……お前」


リオを見ている。


じっと。


測るように。


「ただの人間じゃないな」


「よく言われる」


軽く返す。


だが、その瞬間。


空気が、ほんの少しだけ揺れた。


説明できない違和感。


「……妙だな」


獣人が呟く。


「敵意が湧かない」


「それは助かる」


「普通なら、警戒する」


「してるでしょ」


「している」


即答。


だが、それでも。


完全な拒絶ではない。


「……通れ」


突然だった。


セリアが目を見開く。


「いいの?」


思わず聞く。


「問題ない」


獣人は言う。


「今は、均衡が保たれている」


その言葉。


さっきリオが言ったものと同じ。


「争いを増やす理由はない」


合理的な判断。


だが——


どこか“決められている”ような響き。


リオはそれを聞いて、小さく目を細めた。


(……やっぱりな)


自然じゃない。


でも、偶然でもない。


「ありがとう」


セリアが頭を下げる。


獣人は何も言わず、木の上に戻った。


二人は再び歩き出す。


しばらくして。


「ねぇ」


セリアが小さく言う。


「さっきの人」


「うん」


「なんか変じゃなかった?」


「どの辺が」


「うまく言えないけど……」


少し考える。


「“決められたこと言ってる”みたいな感じ」


リオは答えない。


ただ、前を見たまま——


(……始まってるな)


そう思った。


まだ見えない。


まだ触れられない。


でも確実に——


この世界は、“誰かの手の中”にある。

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