第4話「交差する刃」
「排除対象」
その一言で、空気が裂けた。
次の瞬間。
ゼルヴァが消える。
「——っ!」
セリアが反応するより早く、リオの背後に現れる。
手刀。
一直線に首を狙う。
——止まる。
ガキン、と硬質な音。
見えない“何か”に弾かれた。
「……防ぐか」
ゼルヴァがわずかに目を細める。
リオは振り向きもしない。
「初対面でそれはどうなの」
「確認だ」
「物騒だね」
言葉は軽い。
だが、空気は完全に戦闘。
「セリア、下がって」
「で、でも——」
「いいから」
低い声。
セリアは歯を食いしばって、一歩下がる。
(……信じるしかない)
ゼルヴァが再び動く。
今度は正面。
高速。
残像が揺れる。
「遅い」
リオが呟く。
足元の影が動いた。
——ゴーレム。
瞬時に形成された黒い塊が、ゼルヴァの進路を塞ぐ。
衝突。
弾ける。
だがゼルヴァは止まらない。
そのまま回転し、蹴りを叩き込む。
ゴーレムの一部が砕ける。
「……硬いな」
「それ、試作品だから」
リオがようやく振り向く。
「壊す前提で作ってない」
「なら——」
ゼルヴァの魔力が一段上がる。
「壊す」
空気が歪む。
見えない圧が広がる。
(まずい……!)
セリアが感じる。
直感的な危機。
だがその瞬間。
ドン、と重い音。
「そこまでだ」
グラムが間に割って入った。
腕でゼルヴァの攻撃を受け止める。
地面が沈む。
「どけ」
ゼルヴァが低く言う。
「どかねぇよ」
グラムは笑う。
「面白くなってきたとこだろ」
「遊びではない」
「分かってる」
一歩、踏み込む。
「だから止めてんだよ」
その言葉に、わずかに重みが乗る。
ゼルヴァが目を細める。
「……理由は」
「まだ分かんねぇ」
グラムは正直に言う。
「でもな」
リオをちらりと見る。
「今ここで殺すのは、違う気がする」
直感だった。
だが、彼にとってはそれで十分だった。
「非合理だ」
「そうだな」
「なら排除する」
再び動こうとするゼルヴァ。
だが——
「やめとけ」
リオが口を開く。
静かに。
それだけで。
空気が、止まる。
「……命令のつもりか」
ゼルヴァの声が冷える。
「違う」
リオは首を横に振る。
「ただの提案」
「内容は」
「今やっても、決着つかないよ」
事実だった。
ゼルヴァは強い。
だが、リオもそれ以上に“底が見えない”。
「それに」
続ける。
「君、まだ確信してないでしょ」
図星だった。
ゼルヴァの動きが、わずかに止まる。
「“王かもしれない”段階で殺すのは、リスク高い」
「……」
「違ったら、ただの損失」
合理的な言葉。
だからこそ、刺さる。
沈黙。
数秒。
やがて——
「……一理ある」
ゼルヴァが魔力を引いた。
完全に納得したわけではない。
だが、“今ではない”と判断した。
「判断は保留する」
そう言って、距離を取る。
セリアがようやく息を吐く。
「……終わった?」
「一応ね」
リオが軽く言う。
グラムが肩を回す。
「はー……危ねぇな、お前ら」
「止めたのはお前だ」
ゼルヴァが返す。
「だろ?」
笑う。
そして、リオを見る。
「で?」
「なに」
「どうすんだよ、これから」
問い。
単純だが、重い。
リオは少しだけ考えて——
「とりあえず」
肩をすくめる。
「話す?」
その提案に。
グラムは笑い、ゼルヴァは無言で見つめる。
そしてセリアは——
(この人ほんとに……)
少しだけ呆れながらも、目を逸らさなかった。
敵でも味方でもない。
まだ定まらない関係。
だが確実に——
何かが、動き出していた。




