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この世界にはどうやら魔王が最強でほかにも獣人族エルフ族小人族がいるようです  作者: 1010
第2章

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第3話「跪く衝動」

森の空気が、重く沈む。


誰も動かない。


だが——均衡はすでに崩れかけていた。


「……お前か」


グラムが低く呟く。


その視線は、完全にリオを捉えている。


敵を見る目ではない。


もっと別の——


「……はは」


乾いた笑いが漏れる。


「マジかよ」


一歩、近づく。


その瞬間。


空気が、変わった。


セリアが息を呑む。


(なに、この圧……)


魔力ではない。


威圧でもない。


もっと根源的な——“格”。


グラムの足が、止まる。


いや、止められた。


「……ッ」


歯を食いしばる。


足が、震える。


「グラム?」


ゼルヴァがわずかに眉を動かす。


異常だった。


あの男が、動きを止めるなど。


「クソが……!」


グラムが低く吐き捨てる。


「勝手に……身体が……!」


一歩。


また一歩。


近づくたびに——


膝が、落ちそうになる。


「やめろ」


ゼルヴァの声。


冷たい。


鋭い。


「……は?」


「それ以上、近づくな」


グラムは振り向く。


苛立ちと、困惑が混じった顔。


「何言ってやがる」


「分かっているだろう」


ゼルヴァの目が細くなる。


「それは“本能”だ」


「……っ」


言い当てられる。


「お前は今、“従おうとしている”」


その言葉が落ちた瞬間。


空気が凍る。


セリアの心臓が跳ねる。


(従う……?)


誰が、誰に?


「違ぇ」


グラムが唸る。


「こんなの……俺の意思じゃねぇ」


「だからこそ問題だ」


ゼルヴァは一歩前に出る。


リオとグラムの間に、割り込むように。


「それが“作られた証拠”だ」


静かに言い放つ。


「我らの意思ではなく、刻まれたもの」


「……黙れ」


グラムの声が低くなる。


「お前は感じてねぇのかよ」


「感じている」


即答だった。


「だから否定する」


その目に、揺らぎはない。


「こんなものに従う理由はない」


リオは黙って見ていた。


(……やっぱり、こうなるか)


懐かしい構図。


何度も見た光景。


従う者と、抗う者。


「なぁ」


グラムが言う。


視線はリオに向けたまま。


「お前……何者だ」


直球だった。


リオは少しだけ考えて——


「ただの通りすがり」


「ふざけんな」


即座に返される。


「それで済むわけねぇだろ」


「じゃあ、なんだと思う?」


グラムは答えない。


だが、その身体はすでに答えていた。


震え。


衝動。


抗えない何か。


「……王、か」


絞り出すような声。


その瞬間——


膝が、落ちた。


ドン、と鈍い音。


片膝。


完全ではない。


だが、それでも。


「……ッ!!」


グラムが顔を歪める。


「クソが……!」


自分の身体に、逆らえない。


「立て」


ゼルヴァの声。


「そんなもの、従う必要はない」


「分かってる!」


グラムが叫ぶ。


「でも——!」


言葉が続かない。


本能と意思が、ぶつかっている。


セリアは、その光景をただ見ていた。


(なに、これ……)


理解が追いつかない。


でも一つだけ、分かる。


(リオが……中心にいる)


すべてが、彼を基準に動いている。


「……やめろ」


リオが口を開いた。


静かな声。


だが、それだけで——


グラムの身体が止まる。


「無理に従う必要はない」


その一言。


それだけで。


「……っ」


グラムの膝が、ゆっくりと持ち上がる。


呼吸が荒い。


だが——立った。


「……はぁ……はぁ……」


息を整えながら、リオを見る。


その目には、さっきまでと違う色があった。


畏れ。


そして——


確信。


「……やっぱりだ」


低く言う。


「お前が、“それ”か」


一方。


ゼルヴァは、静かにリオを見ていた。


さっきよりも、ずっと深く。


「……確定ではない」


ぽつりと呟く。


「だが、可能性は高い」


その目は冷たい。


だが、その奥で何かが動いている。


計算。


判断。


そして——


「排除対象」


はっきりと告げる。


セリアの背筋が凍る。


(敵……!)


空気が一変する。


「おい」


グラムが低く言う。


「今それやるのか」


「今しかない」


ゼルヴァは一歩前に出る。


「完全に確定する前に、潰す」


合理的な判断。


だからこそ、迷いがない。


「待て」


グラムが止める。


「こいつは——」


「分かっている」


遮る。


「だからこそだ」


その瞬間。


ゼルヴァの魔力が、静かに膨れ上がる。


戦闘の気配。


セリアが構える。


リオは——動かない。


ただ、見ている。


(さて)


この選択で、また分岐する。


何度も繰り返してきた、この瞬間。


「——どうする」


誰にともなく、そう呟いた。

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