第2話「気配」
森を抜ける風が、わずかに変わった。
「……止まって」
リオが足を止める。
セリアもすぐに気づいて、動きを止めた。
「どうしたの?」
「……近い」
「何が?」
少しの沈黙。
リオは周囲を見渡す。
視線ではない。
もっと内側の感覚で。
「“いる”」
その一言だけ。
セリアは眉をひそめる。
「魔物?」
「違う」
即答だった。
「もっと……近い」
言葉を探すように、少しだけ間を置く。
「同じ側のものだ」
その表現に、セリアの表情が変わる。
「それって……魔族?」
「多分」
“多分”と言いながら、その声に迷いはない。
むしろ確信に近い。
(……反応してる)
リオは自分の内側を感じていた。
何かが、引き寄せられるような感覚。
逆に、向こうも気づいているはず。
「ねぇ、それって危ない?」
「場合による」
「またそれ」
セリアがため息をつく。
「ちゃんと説明して」
「説明しづらい」
「頑張って」
少しだけ間。
リオは言葉を選ぶ。
「……敵の可能性もあるし、そうじゃない可能性もある」
「それ説明になってない」
「本当にそうなんだよ」
セリアはじっと見る。
リオは少しだけ視線を逸らした。
「……性質がバラバラなんだ」
「魔族って?」
「うん」
それは、今までの経験からの結論だった。
従う者。
裏切る者。
利用する者。
すべて見てきた。
「だから、会ってみないと分からない」
「それ、だいぶ危なくない?」
「危ないね」
あっさり認める。
セリアは少し黙ってから、小さく息を吐いた。
「じゃあさ」
「なに」
「今回は逃げる?」
その提案は、合理的だった。
まだ戦う理由はない。
情報も少ない。
リスクは高い。
リオは少し考えて——
首を横に振った。
「いや」
「え?」
「向こうも、こっちに気づいてる」
「……それ、分かるの?」
「なんとなく」
正確には、“感覚で確信している”。
「逃げても、意味ない」
「……そっか」
セリアは少しだけ表情を引き締めた。
「じゃあ」
杖を軽く握る。
「やるしかない?」
「話せるなら、話す」
「話せるの?」
「相手による」
またそれだった。
「ほんと不安になるんだけど」
「大丈夫」
リオは言う。
「最悪でも——」
その言葉の続きを言う前に。
ガサリ、と音がした。
木々の奥。
重い気配。
一つじゃない。
「……来た」
リオが呟く。
セリアが構える。
緊張が走る。
そして——
ゆっくりと現れた。
角を持つ男。
筋肉質の体。
鋭い目。
その背後に、もう一人。
細身で、静かな気配。
対照的な二つの存在。
「……へぇ」
先に口を開いたのは、グラムだった。
リオを見て、口元を歪める。
「見つけたぜ」
その声には、明確な“確信”があった。
セリアの背筋が冷たくなる。
(この人……分かってる)
一方。
ゼルヴァは、何も言わない。
ただ、じっと見ている。
測るように。
値踏みするように。
「……お前か」
ぽつりと呟く。
その声は、感情が薄い。
だが——
完全に否定もしきれていない。
リオは二人を見て、小さく息を吐いた。
(……面倒なのが来たな)
そして、言う。
「初対面で悪いけど」
一歩、前に出る。
「何の用?」
空気が張り詰める。
次の一言で、関係が決まる。
敵か。
それとも——
別の何かか。




