八回目の真実
翌朝、直樹は彩に全部話した。
屋上で。空は曇っていた。風が冷たい。でも二人ともそれを気にしなかった。
直樹が話す間、彩は一度も口を挟まなかった。
本当の目的。特異個体。準決勝の相手ヴァール。ヴァールの星が消えるかもしれないこと。声の正体。
全部話した。
彩はしばらく黙っていた。
「……ずっと黙ってないで何か言え」
「まとめてる」
「まとめる必要があるくらい複雑か」
「複雑だよ」
彩は柵に肘をついた。
「一個ずつ聞いていい?」
「どうぞ」
「記憶が自分の中にあったって話」
「そうだ」
「じゃあ七回分の経験を全部自分で積んできたってこと?誰かに植え付けられたわけじゃなく」
「そういうことになる」
「すごいな」
「すごいのか」
「すごいよ。七回戦って、七回勝って、その記憶を全部自分の中に持ってる。それが消えないように自分の脳が勝手に保管してた。それって、あんたが特異個体だから、っていうだけじゃなくて、あんた自身が諦めなかったからじゃないの」
直樹は少し黙った。
「そういう解釈か」
「違う?」
「……わからない。でも、悪い解釈じゃない」
「あと、ヴァールのこと」
「ああ」
「直樹が勝ったらヴァールの星が消えるって……それは避けられないの?」
「今の段階では保証できない。でも管理者になれれば交渉の余地がある」
「交渉するって言ったよね、昨日」
「言った」
「約束してくれた」
「してる」
彩は深く息を吐いた。
「直樹がその約束を守れるように、まず勝ってきて」
「そのつもりだ」
「ヴァールも家族がいるんでしょ」
「子どもが三人いるらしい」
「だったら、直樹が勝ってもヴァールの星が助かるような未来を目指してほしい」
「目指す」
「きつい戦いになるんでしょ」
「互角かそれ以上かもしれないって言われた」
「体大丈夫かな」
「大丈夫だ」
「本当に?」
「本当に」
「嘘ついてない?」
「今のところ嘘ついてない。やってみないとわからないのは正直に言う」
彩はしばらく直樹を見た。
「直樹、去年からずっとつまらなそうにしてたじゃん」
「そうだな」
「あたし心配してたし、悔しかった。どうしたらいいかわからなかった。話しかけても空返事で、バスケ見にいっても無反応で」
「悪かった」
「謝らなくていい。でも一個だけ聞かせて」
「なに」
「今は?」
直樹は空を見た。
曇っていた。でも曇っているなりに空は空だった。
「今はつまらくない」
「なんで」
「理由がちゃんとある。守りたいものがある。本気でやれることがある。それだけで全然違う」
「あたしも含まれてる?」
直樹はしばらく黙った。
「含まれてる」
彩は前を向いた。
「それだけ聞ければいい」
「なんだそれ」
「今はそれで十分」
「意味がわからないな」
「女の子はそういうもん」
「そういうもんなのか」
「そういうもん」
「わかった」
「頑張れ」
直樹はしばらく、彩の横顔を見た。
ポニーテールが風に揺れていた。
守りたいな、と思った。
守れる力があることを、初めてよかったと思えた瞬間だった。




