彩は気づいてしまった
「直樹」
翌朝、登校してきた直樹を廊下で待ち構えていたのは彩だった。
普段より顔が真剣だ。しかも一時間目が始まる前のまだ早い時間だ。こいつが待ち構えているということは、それだけ気になっていたということだ。
「なに」
「昨日の夜、あんたの部屋の窓、光った」
直樹は少し黙った。
「見間違いだろ」
「見間違いじゃない。あたし真向かいに住んでるんだけど」
「LED照明だろ」
「あんな光るLEDある?部屋ごと一瞬光ったんだけど。しかも光った後で部屋の電気が消えてた。十時くらいなのに、あんた寝たの?」
まずい。見られてたか。昨日の招集の光が外からも見えていたのか。
「気にすんな」
「気にする」
彩は直樹の腕を掴んだ。細いけど力がある。バスケ部で鍛えた腕だ。
「直樹、何かに巻き込まれてる?」
「巻き込まれてない」
「嘘」
「本当」
「嘘」
「本当だって」
「じゃあなんで目が生きてるの。去年からずっとあんた死んでたじゃん、目が。急に生き生きしてる理由がゲームって言うなら信じるけど、そんな顔じゃない」
直樹は彩の手を見た。細い手だ。この手がシュートを打っている。直樹が男バスにいた頃、練習を一緒に見ていた。こいつのシュートフォームは女バスの中で一番きれいだ。
「離せ」
「教えてくれたら離す」
こいつは昔からこうだ。頑固で、しつこくて、でも心配するときは本当に心配している顔をする。笑顔と怒り顔と心配顔がある。この顔は心配顔だ。
「……言えない」
「言えない、は言えない理由があるってことじゃん」
「天才か」
「教えてよ」
「無理」
「なんで」
「お前を巻き込みたくないから」
言ってから、しまったと思った。
彩の目が変わった。確信した顔だ。目が少し見開かれて、それから細くなった。
「やっぱり何かある」
「だから——」
「一人で抱えてると思ったら心配で眠れないんだけど」
「眠れてないのか」
「眠れてる。でも眠れないくらい心配してる」
「矛盾してる」
「心配してることは本当だ」
直樹は天井を見た。廊下を他の生徒たちが通り過ぎていく。こいつらには何も関係ない話だ。ちょっと目立ってる。
「……言ったとしても信じない」
「信じる」
「宇宙人に呼ばれて殺し合いトーナメントに出てる」
彩は固まった。五秒くらい動かなかった。
「……続けて」
直樹は彩を見た。本当にまっすぐな目で見ている。笑っていない。馬鹿にしていない。ただまっすぐに、続きを待っている目だ。
「地球が宇宙の中で下位宇宙ってカテゴリにあって、定員オーバーになると間引かれる。それを防ぐためのトーナメントに俺は八回目の参加で——」
「ちょっと待って。八回目?」
「記憶が毎回保存されてて、試合のたびに使われる」
「死んだことは」
「ない。今のところ」
「今のところって何」
「保証はできないってことだ」
彩はしばらく直樹を見ていた。廊下はHR前の喧騒に包まれている。そんな中で、こいつだけが静かに固まっていた。
「一個だけ聞く」
「なに」
「あんたが負けたらどうなる」
「……地球が消される可能性がある」
「それのどこが私に関係ないの」
返す言葉がなかった。
「あたし地球人じゃん。直樹の幼馴染じゃん。関係あるじゃん」
「だから巻き込みたくないんだって」
「もう巻き込まれてる。知ってしまったんだから、忘れろって言っても忘れられない」
彩はポニーテールを揺らして歩き出した。
「直樹が戦ってる間、あたしは何も知らないままでいるの?それの方が嫌だ」
直樹はその背中を見ながら、なぜか、少し楽になった気がした。
一人で抱えているつもりだった。
でも誰かに知っていてもらうだけで、これだけ違う。
「彩」
「なに」
「次の試合、来るか」
彩が足を止めた。振り返った顔は少し驚いていた。
「……見ていい?」
「ユーライザが渋ってたけど、俺が連れていく」
「宇宙人に交渉したの?」
「する予定だ。今夜」
彩はしばらく黙って、それから言った。
「行く」
「危ないことはない。観戦するだけだ」
「わかった」
「引くなよ」
「引かない」
「引いたら一生言う」
「引かないって言ってる」
彩は歩き出した。直樹も隣を歩いた。
「ちなみに担当の宇宙人ってどんな見た目?」
「ボルゾイ犬みたいなやつ」
「かわいい」
「言ったら怒る」
「言ってみようかな」
「やめろ」
HRのチャイムが鳴った。




