選択の前夜
「ユーライザ」
次の招集の直前に、直樹は珍しく先に話しかけた。
ユーライザが珍しく早く現れていた。いつもは招集の五分前くらいだが、今日は三十分前に来ていた。
「なんだ」
「お前、俺がここまで来るのをずっと見てたよな」
「担当だからな」
「それだけか?」
ユーライザは少し目を逸らした。
直樹は初めてこのボルゾイ犬が目を逸らすのを見た。
「……私はこのシステムが好きではない」
「そうか」
「だがこのシステムの中でできることをする。それが私の役割だ」
「お前は八回分、俺の試合を全部見てきた。どう思った」
「何を」
「俺のことじゃなくていい。試合を見てて、何を思ったか」
ユーライザは少し考えた。
「……参加者全員が、誰かのために戦っていた。下位宇宙の生命体が誰かを守ろうとしている。それを見るたびに、このシステムが本当に正しいのか疑問に思った」
「疑問に思いながら続けてきたのか」
「私の判断で止められる権限がない」
「でも俺に話した。今夜の試合の前に話した」
「それは」
「俺がなんとかしてくれると思ったから話したんじゃないのか」
ユーライザは答えなかった。
でも沈黙が答えだった。
「俺が管理者になったらシステム変えようとするけど、文句あるか」
「ない」
「協力するか」
「……することになると思う」
「なると思う、じゃなくて、する、でいい」
「……する」
直樹は笑った。
「じゃあ決まりだ」
「まだ勝ってもいないのに」
「勝つ前提で話す。負けたら話し合えないから」
「……そうだな」
ユーライザは少し黙った。
「一つだけ聞いていいか」
「何」
「なぜ今回、彩を試合に連れてきたんだ。最初の七回は一人で戦っていた。今回だけ違う理由は何だ」
直樹は少し考えた。
「今回の俺が、前の七回と少し違うから」
「どこが」
「前の七回は、試合が終わったら全部終わりだった。地球に帰っても、どうせまた記憶が眠る。いつ死んでもどうせまた始まる。そういう感覚だった気がする」
「気がする、というのは」
「記憶はあるけど感覚は少し遠い。でも今回は違う。今回の俺は、試合が終わった後の話をしてる。管理者になった後の話。ヴァールの星を守る話。彩との約束の話」
「……続きがある、ということか」
「そういうこと。続きがあるから、見ていてほしかった。終わった後に一緒に話せる人間が必要だった」
ユーライザは長い沈黙の後、言った。
「……彩という地球人は、いいやつだな」
「言ってやるな。調子に乗るから」
「教えてやれ」
「今度な」
その夜、直樹は自室に帰った。
眠れなかった。
天井を見上げながら考えた。
ヴァールのことを考えた。子どもが三人いる。家族のために戦ってきた。七回分の記憶を持っている。そして直樹と同じように、このシステムを変えたいと思っている。
「そいつを倒さなきゃいけないのか」
つまらない話だ。
でも、諦める気はない。
勝って、管理者になって、ヴァールの星を守る方法を探す。そういう順番で考えるしかない。
スマホに彩からメッセージが入っていた。
「明日?」
「明日」
「わかった。頑張れ。あと帰ってきたら絶対話して」
「話す」
「約束だよ」
「約束だ」
それだけだった。
それで十分だった。
直樹は目を閉じた。
眠れた。深く眠れた。
夢を見た。
バスケの夢だった。体育館の床の感触があった。ボールを持って走る感覚があった。シュートが決まった瞬間の音があった。
試合の後、それを見ていた彩が笑っていた。
悪くない夢だった。




