77.ソイルジュエル
うーむ、このまま同じやり方で繰り返してても、期限までにできるかどうかわからないよ。
でも『+』付きができるかどうかは運任せ、なんだよね。
白衣のお姉さんなら、『+』付きポーションはよく作ってるのかな。
「そうやねえ。私も何度か作れたことはあるけれど、狙っては無理やね」
やっぱりね。技術や経験じゃないんだよね。私でも作れた経験があるくらいだし。
「ただ、できたときは必ず、良い素材を使っとったよね。逆にイマイチな素材や環境で作業したときに作れたことはあらへんで」
おっ、新情報。なるほど、つまりできるだけ良い品質のポーションを作ることを心がけるべきなのだろう。
シケクド草の乾燥から見直してみるかな。同じことを繰り返すよりも、ひとつひとつ、作業を見直してくことが大事なのかもしれないね。
それに水だ。ふつうの水、錬金水、霊水。
錬金水を試してみる? それとももっと良い水……となれば、聖水、か。いやいや、予算オーバーだよ。
それに聖水だと強すぎて、魔泥がうまく混ざらないはずだ。根本から作り方が変わってしまう。
魔泥はどうだろう。
東区より西区のほうが質が良いとか? そんなことはない、はずだよ。東沼ダンジョンで採れるものも同じはず。
じゃあシケクド草、か。
これも東沼ダンジョン内で採れたものだけど、故郷の森で採れたものとも遜色がないよ。
ノームにもらった、シケクドシードを育ててみようかな。自分で育てたらまた違うかもしれないね。
でも、種から育つには二、三か月かかるよ。期限ギリギリだ。育てるにしても、すぐには試すことができない。
「お嬢ちゃんはホンマ、オモロイモンをポロポロ出してくるやん」
あっ、白衣のお姉さんが目をつけたのは、ノームからシケクドシードと一緒にもらった、きれいな珠だ。
そういえばこれは何だったんだろう?
「これは……お嬢ちゃんが今まで出したモンの中でイチバンやな!」
えっ、そんなにすごいモンなの!?
ミニトマトくらいの大きさで、白に近い土色だ。ツルツルで光沢があって、光を当てるとちょっと虹色に輝く。
綺麗だけど、宝石と呼べるほど価値がありそうには見えないね。
ノームがたまたま見つけた、その辺のきれいな石ころ、くらいにしか考えてなかったけれど……。
「これ多分、ソイルジュエルや」
うん? ソイルジュエル……どこかで聞いたことがあるような。
――そうだ、故郷のおばあちゃんだ。
「薬師こだわり三大ポイントは……薬草、水、そして土じゃ。薬草と水には気を配ってても、多くの薬師は、土をおろそかにしがち、なのじゃ」
そんなことをよく話してて、話の中に、ソイルジュエル、って単語が出てきたような。あれは何だったっけな?
思い出そうと考えてたら、お姉さんが植木鉢を持ってきた。鉢の中には土が入ってるけど、何も植えられてないみたい。
植木鉢がコトリ、と私の前に置かれる。ふむ。柔らかくさらさらして、良さそうな土だね。
えっ、ここにソイルジュエルを埋めるの?
「その前に、お嬢ちゃんの魔力を込めるんや。ソイルジュエルに」
言われた通りにして、ソイルジュエルを植木鉢の土に埋める。……うん? なんだか、土がもこもこしだしたんだけど?
5分くらい、植木鉢はそんな状態が続いて、やがてゆっくりと収まった。
植木鉢からソイルジュエルを取り出して確かめた。珠にはとくに変化も無く元のままだ。でも……。
「フカフカだ!」
さっきまでの土とは段違い! 色も黒っぽく、ほんのりと湿っているような感触。最高の土だよ!
「その通り。コイツは土の品質を向上させる、魔法の精霊石や!」
魔法の精霊石! そんなすごいモンだったなんて!
じゃあもしかして、この土でシケクドシードを育ててみたらいいかも!
お姉さんも詳しいよね。さすがは二級薬師、造詣が深い。
エエモン見せてもらったと、植木鉢と土は私にくれるんだって。親切だ! さっそく植木鉢にシケクドシードを植えてみたよ。
ソイルジュエルをくれたノームにも、教えてくれたお姉さんにも感謝しなきゃね。
これでやっと希望が見えてきた、とはいえ、育ったシケクド草で解毒ポーションが作れるのはまだ先だ。
他にもできることがないか考えなきゃ。
とりあえずは作った解毒ポーションを、ヒゲおじさんの道具屋へ持っていこう。
***
こないだの、デンジー廃鉱山での毒騒ぎによる割増期間はもう終わっていたけれど、解毒ポーションの卸値はもともと高いんだ。
『+』のポーションができなくても、挑戦した分だけ、けっこうな儲けになるよ。
白衣のお姉さんのお宅で作ったおかげで、良い品質の解毒ポーションができた。だけど、それで卸値が変わるわけじゃない。解毒ポーションは解毒ポーションだ。
高品質の解毒ポーションを使っても毒の治りが多少早くなる程度で、解毒するという結果は同じだからね。
それでもやっぱり薬師は、良い品質のポーションを目指しちゃうんだよ。なんでだろうね。
代金を受け取ってホクホクしながら道具屋を後にする。その後は冒険者ギルドへやって来たよ。
そうだ、錬金術師のお姉さんの依頼はあるかな? 約束したからね。
おっ、これだこれだ。
私は一枚の依頼書に目をつけた。錬金術師のお姉さんの依頼書だ、どれどれ。
ふむ、これは……。
もしかしたら、私にも必要になるかもしれない。
場所はディープルの森だ。そろそろミミレちゃんの依頼でイシイオ草を取りに行く時期だし、ちょうどいい。
よし、この依頼を受けよう!




