78.昇格試験再び
手に取った依頼書の内容、それは『ティトララビットのしっぽ』の納品だ。
ティトララビットとは、ディープルの森、第三区画に生息する、うさぎ型の魔物。蹴りうさぎの上位の存在だよ。
このうさぎのしっぽは、錬金術の素材としても知られていて、なんと幸運をもたらすお守りになるんだって!
幸運なんて言葉は、錬金術師の人たちとはかけ離れているように感じるね。でもしっかり根拠はあるそうだよ。
私も戦ってきたように、うさぎはキックが得意だね。その力強いキックを生み出すのが、しっぽに溜め込んだ魔力だっていわれてるんだ。
しっぽはふわふわの毛で丸っぽく見えるけれど、実は毛を剃るとちょっと複雑な形状で、周囲の魔力を収集することに適しているそうだ。
びっくりだね。ただカワイイだけじゃなかったんだ。
その形状に目をつけた錬金術師たちは、独特な魔力の流れが生み出す不思議なオーラ? のようなものを、幸運を呼ぶお守りとして整えたんだって。
よくわからないけれど、たぶんすごいものなんだろうね。
でも本当にそんなことがあるならば、『+』付きのポーションを作るのに役立つはずだよ。
錬金術師のお姉さんも、『追加ダメージ+99%』の付与に必要だと考えたんだろうね。
しっぽをふたつ渡してお願いしたら、私の分も作ってくれるかなあ? ダメ元でお願いしてみよう!
ということで、ティトララビットを二匹倒して、しっぽをふたつ手に入れたいんだけど……。
ティトララビットは蹴りうさぎの上位存在なだけあって、強いよ。依頼も、アイアンランク以上推奨、となっているんだ。
うーん。勝手に受けてまた別室送りになるのも嫌だし、お姉さんに相談してみようかな。
依頼書を取って、なじみのお姉さんに持っていったよ。ストーンランクのいっこ上くらいなら、見逃してくれるかも?
お姉さんはちょっと渋い顔をしたけれど、即却下されることはなさそうね。
「ユリシィちゃん。この際、アイアンランクの昇格試験、受けてみる?」
えっ、また昇格試験? ストーンランクになってから、それほど経ってないと思うけど。
「ギガントもぐらの件から、そんな話は出てたのよね。何人かの冒険者からも、ユリシィちゃんにはそれくらいの実力はあるって、推薦もされてるのよ」
確かに、ストーンランクがあのギガントもぐらを倒したって、あの場にいた冒険者には知られてたよね。
それを聞いた他の冒険者も無茶をしはじめたらまずい。さっさと当事者のランクを上げちゃえ、ってことなのかもね。
推薦してくれた冒険者って誰だろうね。ネコのお姉さんとかかな。そういえば結局あの人は何者だったのかな。
あとはチヴェッテちゃんとか、巨漢の三人組あたり?
ともかくこの依頼を受けられるなら、昇格試験にも挑戦してみようかな!
ということで、お姉さんに試験の話を聞いてみたよ。
アイアンランク昇格試験は、二段階に分けて行われるんだって。
一段階目はこの依頼のティトララビット討伐を、無傷で成功させること。たとえ依頼を達成したとしても、怪我をしちゃうと試験は不合格だ。当分の間、次の昇格試験も受けられなくなるそうだよ。
それは失敗できないね。何としても成功させないと。
でも無傷って、ちょっとした軽いけがもダメなの?
「ユリシィちゃんは薬師なんだから、軽いけがならすぐ治せるでしょ。でも治せないようなけがを負いそうだったら、依頼は諦めて帰ってくること。それでも無茶をして依頼を続けるなら、分かってる、わよね?」
ひええ……! お姉さんの意味深な笑顔! ……ブルブル。
無茶はしません! けがもしません! ――深いところにある意識が、そんなことを叫んでるよ。
なんとかこの依頼を無傷で達成できたら、後日、二段階目の試験が実施されるそうだよ。
まずは一段階目の試験。この依頼を受けることができるみたいなので頑張ろう!
……確実に依頼を達成しないといけないね。もう一度ティトララビットについて、資料室で調べ直しておこうかな。
冒険者ギルドの二階には、素材や魔物、ダンジョンなんかの情報をまとめた資料室があるよ。けっこう他の冒険者も利用してるみたい。
実はこの街の領主様って、本好きで有名な人なんだって。だから街には本屋や図書館なんかも充実してて、街の人の識字率も、よその街より高いらしい。
ここの冒険者ギルドの資料室も、種類が豊富で自慢らしいよ。
さて、ティトララビットだ。森の魔物を集めた図鑑によると、やっぱり蹴りうさぎの系統らしく、キックが得意らしい。
だけど戦闘スタイルは違うようだ。出会い頭に飛び蹴りしてくる蹴りうさぎとは対象的に、基本受け身の待ち姿勢なんだって。特技は後ろ回し蹴り!
わわ! 蹴りうさぎには通用した、上から奇襲攻撃は使えそうにないよ。上や背後からの攻撃にも対応してくるんだって。
戦い方を、考え直さなきゃね。
ある程度調べ終わって受付ホールに戻ってきて、もう一度なじみのお姉さんのところに寄ったよ。
ミミレちゃんからの指名依頼が来てるはずだからね。
ミミレちゃん、今回からイシイオ草の採取の報酬を1万ペネに上げてくれたんだ。お店も繁盛しだして、イシイオ草の消費が多くなったみたい。よかったね。私も嬉しいよ。できるだけたっぷり持って帰ってあげようね。
ふたつの依頼と、昇格試験を目的に、ディープルの森へ再び赴こう!
***
まずは第二区画だ。森はホームグラウンドだから迷わずに進めるよ。第二区画はまだ木漏れ日があって、場所によってはキラキラと明るいところもある。
こんなところでお弁当を食べたら楽しそう……だめだ、ヤツが寄ってくるね。手癖の悪いヤツが! 目的の場所まで早く行こうっと。
前回もりもりディアーと戦ったあたりまでやってきたよ。
あっ、アイツがへし折った樹木を見つけたよ。太い幹がえぐれて真っ二つだ。
ひえっ、やっぱりすごいパワーだ。第四区画には近寄らないようにしようね!
蹴りうさぎも見かけたけれど、今回はスルーしよう。ティトララビットと戦うまで体力を温存しておくんだ。
イシイオ草が生えていたのは、このあたりのはずだったね。だけど……。
見当たらないな? 他の誰かに採り尽くされた? いや、冒険者ギルドでは買取していない、ってお姉さん言ってたし、他の冒険者がわざわざ採りにくることはないだろう。
だったら料理人が? うーん、ここは第二区画といっても魔物は出るから、冒険者でもなければ来るとは思えないね。
やっぱりもりもりディアーみたいに、魔物か野生の獣が目をつけたんだろうな。
他の場所を探すしかないかな。さすがにレアハーブだからね。かんたんには見つからないだろうけれど、ミミレちゃんの喜ぶ顔を思い浮かべたら、なんてことないよ。
第三区画に行ってみよう。ここより可能性は高いはずだ。
ティトララビットを探しつつ、同時にイシイオ草も探していけば一石二鳥だね。
今いる場所はもりもりディアーが現れた場所だ。ということは、第三区画、それに第四区画からもそう遠くない、ということだ。
以前に入ったときとは、別の場所から第三区画に入る。
やはり第三区画に入ると、空気が変わる。
奥に行くほど貴重なハーブが増えるから、イシイオ草もおそらくあるはずだ。ちょっと怖いけれど、奥に進もう。
周囲は薄暗く、ろくな道もなくて地面はでこぼこだ。とても歩きづらいね。おっと!
木の根っこに躓いて転びそうになったけれど、木の枝が伸びてきて、助けてくれたよ。
前とは違う場所だけど、周りにいるトレントは私のことを知ってるみたい。トレント同士で情報が繋がっているのかな?
トレントが敵対していないだけでもありがたいよ。
魔物を探知しながら、慎重に森を歩いていく。
周囲のトレントがだんだん少なくなってきた。群集地を抜けたようだ。木の密度が低くなって見通しが良くなった。それはつまり、魔物からも私を見つけやすくなったということだよ。警戒を強めよう。
そうだ、森の中だから木の枝はいくらでも落ちている。これを使えば――。
「クリエイトゴーレム!」
拾った枝にホワイトゴーレムの核を添えて、樹木ゴーレムを呼び出したよ。
私の身長よりちょっとだけ大きくなった樹木ゴーレムと、一緒に歩く。これで少しはカモフラージュできるかな。
前方に強い魔物の気配だ! 樹木ゴーレムの後ろに隠れて、こそっと覗く。
慎重に少しずつ近づいていくと、白いカタマリが見えてきた。おそらくあれが、ティトララビットだ!
さあて、どうやって攻めようかな。
……んん? 今アイツ、こっちを見てニヤリといやらしい笑みを浮かべたような?
私の存在に気づいてるみたいなのに、気にもとめずに草をむしゃむしゃしてる。
ああっ! アイツが今むしゃってるのって、もしかして――イシイオ草じゃないか!




