74.セイルウ商会からのお誘い
紹介がひととおり終わったところで、食事が運ばれてきたよ。
なんとメインは魚料理だ。この街は内陸部で海から遠いから、魚料理なんてめったに見られないんだ。さすがは大商会だね。
わたしも故郷の村にいたときに、川魚なら何度か食べたことがあるよ。魚を食べるのはそれ以来だ。
あのときは手づかみで食べたんだけど、ここでそんな食べ方をするわけにはいかないよね。
ナイフとフォークがあるけれど、どうやって食べたらいいのかな?
こそっと他の人の食べ方を見てみよう!
おお、商会長さんがきれいに食べてるのはもちろん、チヴェッテちゃんも難なくフォークとナイフを使いこなしてるよ。さすがだね。
芸術家の人はちょっと苦戦してるみたい。錬金術師の人は、はばかることなく手づかみで食べてるよ。
よし、チヴェッテちゃんを参考にしながら食べようっと。
チヴェッテちゃんは器用にもナイフとフォークを駆使して、魚の骨を剥がしてる。同じようにしてみるけれど、うう、難しい!
「はは、マナーなど気にすることはない。食べやすいように食べるとよい」
セイルウ商会の商会長さんは見た目怖そうだけど、案外そうでもないのかな。
食事は、魚料理はもちろん付け合わせの副菜やスープも絶品で、最後のスイーツまでしっかり堪能させていただきましたよ。ごちそうさま!
でも……ちょっと気になったのは、錬金術師のお姉さんがさっきからチラチラと私のことを見てくるんだよね。何なんだろう?
「さあ、食事も終わったところで本題に入ろうか」
んん? 商会長さんが急に真顔になって話し始めたよ?
うーん、やはり夕食を食べるだけで終わり、ってわけにはいかなかったようだ。
食卓から食器類が下げられて、代わりに執事さんが書類を人数分持ってきた。
何事かと思ったが、商会長さんの話を要約すると――。
私たち四人に、セイルウ商会の専属になって欲しい、ということらしい。専属になるというのは、他の商会やギルドを通さずに、セイルウ商会に対してのみ、その能力を振るうこと、だって。
「この要請を受けてもらえたならば、その能力の対価とは別に、毎月20万ペネを君たちに支給すると約束しよう!」
えっ、タダで毎月20万ペネを貰えるってこと!?
20万ペネっていったら、ギガントもぐらの討伐依頼の報酬と同じだ! それを毎月なんて……!
この話を受けたら、お金も貯まっておうちを買える日も早くなるだろう。
こんな魅力的なお提案をしてもらえるのは、本当にありがたい。だけど……。
美味しい話だけど、私は別に、本当に変なモンハンターなわけじゃないよ。
そう毎回、貴重な素材を持ち帰ってくるなんて無理無理。これまでが、たまたまだっただけだ。そんなことを期待されても困るよ。
それにさ――。
お金は魅力だけど、専属となると、なんだか窮屈な感じがするんだよね。私はもっとのんびりとやっていきたいんだ。自由に!
芸術家さんは、どうやらお話を受けるようだ。
錬金術師さんは、返事を保留にした。そういうのもアリなのね。
チヴェッテちゃんは、お断りするみたい。さすがに専属の除霊師になってしまうと、教会の業務に支障が出てしまうらしい。
ということでチヴェッテちゃんに便乗して、私もお断りすることにしたよ。
商会長さんはあからさまに私たち二人に興味を無くしたようで、その後は芸術家さんと錬金術師さんばかりに話しかけていた。
しばらくして、執事さんが商会長さんを呼びに来た。急なお仕事が入ったらしい。大商会の会長さんも大変だね。
ここで商会長さんが退出して、夕食会はお開きになった。でも終わりじゃないよ。
若い者同士、交流を深めるとよい、と商会長さんに勧められて、もとの応接室に戻ってきて歓談することになったんだ。
商会長さんはもういないけれど、招待客の四人がソファに座って、食後のお茶を入れてもらったよ。
そうだ。チヴェッテちゃんに、スカレ大霊園での活躍の話を聞かせてもらおう。
と、思ったんだけど、芸術家さんに先を越されたよ。彼はしきりにチヴェッテちゃんに話しかけている。どうやら絵のモデルになってほしいみたいだ。
チヴェッテちゃんは聖女候補なんて言われるほど、神秘的でカワイイシスターだもんね。絵画のモチーフとしてはもってこいだ。
さすが芸術家。目の付けどころが鋭いね。
というわけで、ちょこんとソファに座って大人しくしてたら、つつつい……っと、錬金術師のお姉さんが寄ってきたよ。
「やあ。ユリシィ君といったかな。少し話をしたいのだが、いいだろうか」
ショートヘアで中性的なお姉さんは、興味津々な瞳を私に向けてくる。なんだろう。私は平凡な冒険者だよ?
「君は最近、ディープルの森へ行ったことがあるかい?」
こくり、とうなずくと、お姉さんは目を輝かして、やっぱり! と喜んでる。
うーん? 冒険者がディープルの森に行くことなんて珍しくないんだけどね?
お姉さんは私がディープルの森に行った時期や戦った相手のことを、興味津々に聞いてくる。
ディープルの森って、何かあったっけ? 錬金術師のお姉さんがそんなに興味を引くような……あ!
もしかして、あれのことかな?
私が思い至ったのを察して、お姉さんはニンマリした。
「君が若きレアハンターだと聞いて、そうじゃないかと思ったんだ! 今のボクがあるのは、すべて君のおかげさ!」
そう叫んで、錬金術師のお姉さんは大げさに両手を広げ、私に抱きついてきたよ!
「冒険者ギルドに依頼を出したとき、数年待ちだと渋られて、ボクは諦めかけてたんだよ。でも、ユリシィ君が取ってきてくれたんだね。錬金術師垂涎の素材、いたずらトレントの樹皮を!」
よほど欲しかったんだろうね。そういえばなじみのお姉さんも、いたずらトレントの樹皮を出したら、目を剥いて驚いてたっけ。それほど珍しい素材だってことか。
こんなに喜んでもらえたなら、私も嬉しいね。レアハンターじゃないけれどね。




