72.またですか
散らばった荷物を集めて、カバンにしまう。
シケクド草の採取も終わったし、ノームのおしごとも終わったので、帰ろう!
カバンを背負って立ち上がると、ノームがやって来た。
「帰るのか。だったらここから行くといい」
わわっ、ノームが何も無い壁に手をあてると、人が通れるくらいの穴が空いたよ!?
覗き込むと、上への階段がある。こんな隠し階段があったんだ!
「いんや、今作った。一方通行だから、アンタが地上に出たら消えるぞい」
そうなんだ。こんなのが作れるなんてさすが大地の精霊だね。
一方通行なのは残念だけど、帰りが楽になるだけでもすごくありがたいよ。
「ありがとう! それじゃあまたね!」
ノームにばいばいして、作りたての階段を上っていく。なかなかの急勾配で疲れそうだけど、魔物の気配もないから安心して上れるよ。
けっこうな段数を歩いていくと、ようやく出口が見えてきた。
出口から出たら、東沼ダンジョンの入口から少し離れた岩場の陰だった。私が出たと同時に、階段のあった穴が閉じていく。
ふしぎだね。さっきまであった穴が完全に無くなって、ただの泥と草の地面になっちゃった。
えいえいと踏んづけてみたけれど、泥がべちゃって靴についただけで、もう戻れそうにないよ。次にダンジョンに入るときは、もう一度入口から入らなきゃね。
でも大分時間を省略できたぞ。まだ夕暮れ前だ。さあ街へ帰ろう!
***
冒険者ギルドに入ると、いつもの混雑する時間帯だ。
おや? 依頼書の掲示板前が、いつもより賑やかだぞ? 日暮れ時の今なら受付前は混雑してるけれど、掲示板前はそれほど人はいないのに。
なんだろうと覗いてみたよ。
ほう、緊急依頼が貼り出されてるようだね。どれどれ、ちょっと見てみよう!
『東沼ダンジョン10層近辺にて目撃された、ギガントもぐらの討伐』
えっ? あのギガントもぐら、討伐依頼が出されてたんだ! よく読んでみよう。
えっと、通常現れるはずのない東沼ダンジョン10層近辺に、下層の魔物であるギガントもぐらが出没するようになったと。被害が出る前に討伐するために、緊急依頼が出されたみたい。報酬は……なんだって?
報酬は、20万ペネ。
がくがくと、足が震えてきた。周りの冒険者たちは、いっちょやったるかと大盛り上がりだ。
これってやっぱり、さっき倒したギガントもぐらだよね?
20万ペネなんて大金をもらえちゃう……ん? 討伐証明は、モグラの鼻……。ああっ、そんなの持ってきてないよ!?
しまったあ。それによく読むと、依頼の推奨ランクが、ブロンズランク以上となっている。うーん、これは元々受けちゃいけない依頼だよね。
どうしよう。黙っておこっかな。でも、みんなこの依頼を見てダンジョンへ行っちゃうよね。なんて悩んでたら、周囲の冒険者たちが一斉に入口の方を向いたよ?
見てみたら、三人組の冒険者が入ってきたところだった。有名な冒険者パーティなのかな? 人混みでよく見えないけれど。
聞こえてくる噂話に耳を傾けてみよう。……どうやら名のあるシルバーランクの冒険者パーティらしく、この依頼が貼り出されたときに、真っ先に東沼ダンジョンへ向かったそうだよ。もしかして、その人達の獲物を横取りしたことになっちゃったかも!
その人達が帰ってきた、ということは? ああっ、この掲示板のほうへやってくるよ! ま、まずい。何とか人混みにまぎれて、こそこそ立ち去ろうとしたけれど、手遅れだった。
「あっ、いたいた。あの子だ! おうい、ユリシィさん!」
えっ、私の名前を知っている!? どうして?
おそるおそる、その冒険者パーティの方へ視線を向けると――あっ、あの人達は。
東沼ダンジョン8層で見かけた、女性三人組のパーティだよ! まさか、あの人達の目的は、ギガントもぐら退治だったの!?
先頭にいて声をかけてきたのは、あのネコっぽいお姉さんだ。別に耳やしっぽがあるわけじゃないよ。ショートパンツからのびたスラリとした足とか、ツリ目なのに人懐っこい目とか、軽快な動作がなんとなくネコっぽいな、と思ったんだ。
面識はなく、今日はじめて会ったはずなのに、どうして私の名前を知ってるのだろうね?
ネコのお姉さんが目の前にやって来たよ。私の手を取って、何かを渡してきた。
「はいこれ! 忘れ物だよ!」
手渡されたのは、なんとギガントもぐらの鼻だ!
えっ、わざわざ届けてくれたの? これは確かにあの時倒したギガントもぐらの鼻だ。三人組は気前よく鼻を渡してくれたよ。
ネコババせずに届けてくれるなんて律儀だね。
あれ? そういえばどうして私がギガントもぐらを倒した、って知ってるのかな?
「あの辺りで見かけた冒険者のうち、ギガントもぐらを倒せそうなのはユリシィさんだけだったからね」
なるほど、ってネコのお姉さんの説明に納得しそうになったけれど、あれれ? 私があのデカもぐらを倒せそうに見える?
「ありがとうございます。えっと、何かお礼を……」
とにかく親切に討伐証明の鼻を届けてもらったのは事実だ。ぺこりと頭を下げて、何かお返しできることはないかな、って考えてみた。
「いいっていいって、気にしないで。そんじゃあね」
三人は見返りも求めず、去っていったよ。
ざわざわと、注目を集めてしまったみたい。
ネコのお姉さんは私がギガントもぐらを倒したって分かったようだけど、周囲の冒険者たちはそうは見てくれない。あんな小娘が本当に? なんて思われてそうだね。
ともかく依頼報告をしよう。ギガントもぐらはもう倒したから、この緊急依頼書を剥がして受付に持っていく。列に並んでなじみのお姉さんに提出だ。
「いらっしゃい。ユリシィちゃん」
にこやかな、なじみのお姉さんだけど、なんだか……。
とりあえずポイズンバットの羽をニ匹分、あと緊急依頼書と、ギガントもぐらの素材を台に出す。
「はい。じゃあ査定するので、少しお待ち下さい」
お姉さんのあの笑顔……。少し前に見たような? うーん。
「ポイズンバット二匹分で4000ペネ、ギガントもぐらの爪と牙は、合わせて13200ペネになります」
おお、全部で17200ペネ! けっこうな金額になったよ。……あれ? 渡してくれないの?
「それじゃーあ、ユリシィちゃん。ちょっと、奥の部屋で、おはなし、しよっか」
う……あ……。しまった! さすがにブロンズランクの依頼はまずかったか! でもでも、仕方なかったんだよ!
助けを求めて周囲を見回すと、さっきまで噂話してた冒険者たちは気まずそうに視線を逸らすばかり……。
「ち……ちゃうんです。えっと、これには深い事情があって……」
ダンジョン内で起こった出来事を、お姉さんに包み隠さず話す。ノームの件も含めて。これでお姉さんならわかってくれる、よね?
「つまりユリシィちゃんは、ギガントもぐらがもっと下層の魔物だということも、近くに実力者パーティがいることも、知っていた、ということですね?」
あ……はい。確かに。
思い返せば、無理して私が戦わなくても、ネコのお姉さんたちを追いかければよかったのか……。
私は素直に降参して、お姉さんに別室に連れて行かれることになったよ……。
……………………。
お姉さんにこってり絞られて、冒険者ギルドの受付ホールに戻ってきたときには、心身ともに疲れ果てていた。
ホールにはまだまだ冒険者たちは残っていたけれど、あれっ?
さっきまで私を見てた人たちの視線が、なんだか妬みから憐れみに変わってるような?
これってもしかして、ヘンに注目されてた私を守るために、なじみのお姉さんは心を鬼にして、私を別室送りにしたのだろうか。
うーん、いや実際、鬼だったけれどね。
とはいえ緊急依頼はひとまず達成扱いにしてくれて、大金の依頼料ももらえたよ。
ギガントもぐらのドリル角は、サブマスがウキウキと素材管理部に持っていった。こちらは振込になるので金額は知らない。
そうそう、そのときにサブマスに言われたんだ。
「お前さん、忘れてないだろうな? セイルウ商会との夕食会は、明日の夜だぞ」




