71.ギガントもぐら
ノームが指さした先にいたのは、天井まで届きそうなくらい大きなモグラだった。
あれがギガントもぐら、か。
茶色い体毛に覆われた、可愛らしいフォルム。それにそぐわない鋭い爪と牙。おでこには、ドリルのような太くて尖った角が生えている。強者の持つ恐ろしいオーラをびんびんに放っている。
こんなの、もっと下の階層にいるはずの魔物だよ!
こんなヤツを、ノームたちがちっちゃい体で頑張って追い返していたのか。すごく大変だったはずだろう。そりゃ大怪我もするよ!
あっ、ノームが果敢にギガントもぐらに立ち向かっていくよ!
二人がかりでも大怪我したのに、一人でやろうとするなんて無茶だ!
それがノームのおしごとなんだろうし、私としてはシケクド草の採取もしたから、もうこの階層に用事はない。だけど……。
薬師としては、ハナから怪我をさせないのが一流! 放っておくなんてできないよ。
加勢しよう! だけど、下の階層の魔物の情報なんて調べてない。どう戦うべきか。
ノームは器用にぴょんぴょん飛び跳ねて、ギガントもぐらの攻撃を躱してるよ。だけど近寄ることはできないみたい。
大槌を担いで、何とか上からモグラを叩こうと頑張っている。
モグラの動きはそれほど速くなさそうだ。だけど振り回した爪の攻撃は強い! 壁の岩を簡単に斬り裂くよ!
あの攻撃を邪魔できれば。そう思ってスリングショットを取り出した。
モグラはちょこまかと動き回るノームに気を取られて、私の存在には気づいてないみたい。
カバンから石の弾を取り出す。じっくり狙いを定めて――ここだ!
狙ったのは、モグラの鼻っ柱だ。
モグラといえば、戦ったことのある敵はここの泥モグラだ。すごい短剣を手に入れてからは簡単に倒せたけれど、念のためにモグラの情報も調べておいたよ。
いつもすごい短剣を使えるとは限らないからね。
モグラはびっしりと体毛に覆われていて、体は頑丈だ。だから狙うなら、目とかなんだけど。
モグラってあんまり目が見えないんだって。その代わりに鼻がすごいセンサーになってて、いろんな情報を感知しているらしいんだ。
つまり鼻が弱点だ!
モグラの鼻は尖ってて狙いにくんだけど、命中補正の特殊効果がついた、このスリングショットなら――えいっ!
ノームに気を取られていたギガントもぐらの、鼻頭に命中!
体の大きさからすればダメージは大したことなさそうに見えるけれど、感覚器官だからね、苦しんでるようだ。
「アホウ! 何やっとるんじゃ、逃げんかい!」
えっ! いまがチャンスだと思うんだけど……うわっ! モグラがすごく怒って、こっちに標的を変えたよ! 地面に潜っていって――速い!
土の中だとスピードが全然違う! まずいっ――来る! えとえとっ!
あっ脚力強化! 魔法ジャンプッいでデデデッ!
足元からドリルの角が飛び出してきて、ジャンプしようとした私の足を穿つ!
私はジャンプできずにそのまま吹っ飛ばされた!
背負ったカバンの中身をぶちまけながら、ダンジョン内をそのまま転がって壁に打ち当たる! ぐへぇ!
いててて……散らばったカバンの中身から、何とか初級ポーションを探り当て、慌てて飲む。
土の中だとモグラがあんなに速くなるなんて!
足はまだ痺れてるけれど、直前に脚力強化してたおかげで、足の耐久力が上がってて助かったよ。
でもまたモグラは地面に潜っていく!
ぼんやりしてる場合じゃないよ! モグラは土の中でも的確に私の位置を把握しているようだ!
ああもうしつこい! またこっちに来る、逃げなきゃ! 魔法ジャンプ!
今度は間一髪、間に合った! 跳び上がった直後、さっきまでいた場所からモグラが出てきたよ!
おっ、そこをすかさずノームが大槌で攻撃だ! ――惜しい! ギリギリでまた潜られた!
っと、私が着地する方向へ、モグラも向かっている! このまま着地するのはまずいよ!
「クリエイトゴーレム!」
とっさに着地しようとした地面に向かって、土ゴーレムを生み出した!
「ごめんねっ!」
出てきたゴーレムを蹴って、何とか空中で方向を変えた! 直後にモグラのドリルでゴーレムが貫かれて木っ端微塵だ!
ひええ、助かったけれどギリギリすぎる! こんなの続けれてられないよ!
「ほう、土ゴーレムを作れるのか。やるのう」
へへ。すごいでしょ、なんて呑気に言ってる場合じゃないよ! まだギガントもぐらの攻撃は続いてるんだよ!
どうする!?
一瞬でも相手の動きを止められたら、後は短剣を当てるだけなのに!
もうスリングショットで鼻を狙う余裕もない。ジャンプしても着地を狙われる。ゴーレムは耐久力が足りないから、動きを止めることはできない。他に手段は?
ノームもこんな強敵は初めてらしく、手こずってるみたいだし。
何か手は無いか……。地面に散らばったカバンの中身から、使えそうなものを探す。
松明、コボルドの盾、スリングショットの弾……。他に何か……。
あれっ? これは何だ?
あっ、カバンに入れっぱなしだったのを忘れてた!
うーん、使える、かも?
私はそれを掴んで……地面に埋めた!
もしかしたら、上手くいくかもしれない! よし、やってみよう!
「クリエイトゴーレム!」
再び土ゴーレムを生み出した、と同時にギガントもぐらがその下の地面から迫り上がってくる!
そのままドリルの角で土ゴーレムを貫け――ない! 耐えたぞ!
ギガントもぐらの動きが、止まった! 今だ!
「といやあっ!!」
気合とともにすごい短剣を一閃!
ギガントもぐらは……ぐらり、とその巨体を傾け、ダンジョンの地面に横たえた。倒した!
「うむ、見事じゃ。ようやった」
ユリシィはワシが育てた、みたいな師匠ヅラしたノームに褒められたよ。
聞き流してモグラの素材を剥ぎ取ろう!
たぶんこのドリルの角は高く売れそうだ。あとは爪と、牙ももらっちゃえ。でも固そうだなあ……そうだ。
試しに土ゴーレムにお願いしてみると、楽々と毟り取ってくれたよ、すごい!
「む、さっきの土ゴーレムとは少し違うな?」
おっ、ノームも気づいたようだね。今出してる土ゴーレムは、これまでのゴーレムより少しだけ大きい。ギガントもぐらの一撃にも耐えるくらい耐久力も上がってる。それにパワーも。
その秘密は、さっき地面に埋めたアイテムだ。
前にチヴェッテちゃんと行ったオルディ砦遺跡で倒した、ホワイトゴーレムの核だよ。買取に出そうと思ってすっかり忘れてた。土に埋め込んでゴーレムを作ったらどうなるかな、ってやってみたんだけど、思ったより上手くいったよ。あんなに強くなるなんてね。
「アンタには世話になったから、これを授けよう!」
そっか。結果的にノームのおしごとのお手伝いになったんだね。何をもらえるのかな?
何やら麻の小袋と、綺麗な丸い珠をもらったよ。ありがとう!
小袋の方はなんだろう。開けてみると、植物の種のようだけど……うえっ!?
「こ、これ、もしかして、シケクドシード!」
わわわ、シケクド草の種だよ! これがあれば自分でシケクド草を育てられる! イヤッホイ!
「そっちはアンタが草を採取しとったからオマケでつけた方なんじゃが……まあいいか」
ノームが何か言ってたけど、シケクドシードが嬉しすぎて、聞いてなかったよ。




