64.白衣のお姉さん
今日やって来たのは薬師ギルドだよ。
おみやげはいっつも冒険者ギルドだったから、たまには薬師ギルドも行かないとね。またケンカなんてしないように。
オルディ砦遺跡の魔法研究所で見つけた魔力増強ポーション。ちょびっとだけ残ったから、小瓶に入れて持って帰ってきたんだ。
薬師ギルドなら、大昔に作られたポーションなんて価値は無くても、興味はあるんじゃないかな。
番号札の番号を呼んだのは、いつものシニヨンの髪のお姉さんだ。
「ユリシィ様に指名依頼が入っています」
そうそう。それもあったんだ。黒のお姉さんが依頼してくれたやつ。依頼書を確認してみよう、どれどれ。
内容は前に言っていた通り、『解毒ポーション+』の製作依頼だ。
報酬は……おっ、1万ペネだって。解毒ポーション+の相場でいえば6000ペネ前後だから高めだね。期限は三か月以内。失敗してもペナルティ無し、と。
条件としては破格だぞ。
助けてもらったお礼、って話だったはずなのに、私ばっかり得してるような……。まあ、オバケ退治の依頼を代わってあげたし、いっか。
ようし、ポーションづくり、がんばるぞ!
三か月だから期間はけっこうあるけれど、運の要素が絡んでくるものだし、すぐに出来上がるわけじゃない。ぽやぽやしてたら、あっという間に期限が過ぎちゃうよ。
「それと、以前お約束しておりました、作業場の件。目処がつきましたよ」
あっそうだ。薬師用の作業場を、シニヨンお姉さんに探してもらってたんだ。見つかったのかな。
どこかな~、とお姉さんの話を聞こうとすると、薬師ギルドの入口がバーンと開いた。
「あのお嬢ちゃんが来たんやて? お、おったな! おーい!」
キチッとした薬師ギルドには似つかわしくない、騒がしいお姉さんが入ってきたよ。
草の汁まみれの白衣を着た、ボサボサ金髪のお姉さんだ。この騒がしさは覚えてる。ニ級薬師で、例の粉末の分析をしている人だ。
「聞いたで聞いたで~! お嬢ちゃんはあの――」
私の頭をガシガシ撫でながら騒ぐ、白衣のお姉さん。だけどシニヨンお姉さんが無言で立ち上がった瞬間、ビクっとして大人しくなったよ。
「騒がしくして申し訳ありません。さあ、席を移しましょうか」
周りのお客さんや受付の人に謝罪して、歩き出したシニヨンお姉さん。妙に迫力あるなあ。私も白衣のお姉さんも、周りにペコペコとお詫びをして付いてったよ。
着いたのは、前も使った応接室だ。
「ゴメンて~。お嬢ちゃんが来たって聞いて、つい嬉しなってもうてなあ」
白衣のお姉さんはシニヨンお姉さんに頭が上がらないみたい。だけど私が来たことで騒ぎ出したっていうのは、どうしてだろう。さっきなにか言いかけていたけれど?
「まず、ユリシィ様との話が先です。あなたは少し黙っていて下さい」
白衣のお姉さんはしおしおと肩を落として、静かになったよ。そういえば作業場の話の途中だったっけ。
「作業場の件ですが、彼女がユリシィ様に作業場を提供すると申し出て下さいました」
そう言って白衣のお姉さんを示した。えっ、このお姉さんが作業場を貸してくれるの?
「まあ、あの粉の分析が終わるまでやけどな~。その間は使わへんから、お嬢ちゃんの好きに使ってや~」
それはありがたい。ニ級薬師の作業場なら立派だろうし、ペコリとお礼をして、お借りすることになったよ。
分析の期間は、少なくともあと一ヶ月くらいはかかるらしい。その間私が使うことで、むしろ施設の維持にちょうどいいんだって。だから軽くでいいから掃除してくれると助かる、ってことらしい。
なるほどね。薬師の作業場なんて湿気がこもりやすいし、魔導コンロなどの魔道具なんかも、使っておかないと不調になるもんね。よし、キチンと掃除して、ありがたく使わせてもらおう!
「その代わりといっちゃあ何やけど、聞かせてもらうで。お嬢ちゃん見つけたんやってなあ、オルディ砦の隠し通路を!」
みんな情報が早いなあ。もう知れ渡ってるのかあ。
シニヨンお姉さんもその話題には食いついて、聞きたそうにしてるよ。
実はあの遺跡、けっこうファンが多いのかな? ロマンがありそうだもんね。やれやれ仕方ないなあ。今回見てきたものを二人に語ってあげよう!
ガーゴイルとの激戦の話は軽くスルーされたけど、魔法研究所の話は、二人とも熱心に聞いてくれたよ。
最後に、研究所で見つけた例のポーションを出して、二人に見せてあげた。そうそう、今日はこれを渡しに来たんだった。
「おお~! またオモロイモン持ってきよってからに!」
興味深く受け取ったお姉さんたちだけど……この流れはまずい!
このまま放っておいたら、またオモロイモンゲッターみたいな扱いされることになるぞ!?
「いやあ、全然普通の、よくあるポーションですよ?」
二級薬師や薬師ギルドの職員くらいになると、魔力増強ポーションなんて珍しくない……よね?
「ユリシィ様。貴重なサンプルをご提供いただきありがとうございます」
「まーた分析するもんが増えてもうたわ! 忙しなるでホンマ!」
……手遅れかな?




