63.新しい魔法
「ガーゴイルの核か。確かに珍しいっちゃあ珍しいが、お前さんにしては……何か地味だな」
おや? いつものように冒険者ギルドの受付に並んでたはずなのに、いつの間にか会議室にいて、サブマスも来てるよ?
さっさと依頼報告と換金して、魔法のスクロールを使おう! って考えてたのに……。
チヴェッテちゃんと列に並んで、なじみのお姉さんに依頼完了の報告をして……そうだ。ガーゴイルの核を見せたら、お姉さんに連れてこられたんだ。
「今回はどこに行ってきたんだ? ガーゴイルが出そうなところといえば、ここら辺りだと、デンジー鉱山か?」
サブマスは、会議室に入ってきた時にはウキウキと浮かれてた表情を引っ込めて、肩透かしをくらったような顔で、ガーゴイルの核を弄んでいる。
だから私は別に狙ってレアアイテムを探してるわけじゃないんだよ。今回みたいに普通に依頼をこなして、普通の魔物を倒して帰ってくるのが私の日常なんだよ!
毎回サブマスが出てこなくていいよ。
「ガーゴイルが出たのは、オルディ砦遺跡だそうです」
受付お姉さんの言葉を、サブマスはほけーっと聞きながら、弄んでいたガーゴイルの核を、ぽろっと落とした。
会議室の床を転がる、ガーゴイルの核。
それをほけーっと目で追っていたサブマスは、じわじわと目を見開いて、受付お姉さんを見て、私とチヴェッテちゃんに視線を移した。
「…………見つかった、のか。オルディ砦遺跡の、隠し通路、が」
頭を抱えながら、なんとか声を絞り出したサブマス。
お、サブマスも興味あるのかな? 古い遺跡だもんね。観光したいならぜひ行ったほうがいいよ。
「すぐ調査隊を編成しろ。どんな魔物が出るかわからん。シルバーランク以上の、暇してるやつはいるか?」
サブマスと受付お姉さんがバタバタしだしたよ。……観光では、なさそうね?
不思議そうに見てたら、チヴェッテちゃんが教えてくれたよ。
「ほら、あの隠し通路って噂だけはあったじゃない? オルディ砦遺跡って、以前は昔のアイテムや貴重な資料が出てきてたらしいから、その探索の続きを、みんなやりたがってたんだよ」
なるほどね。行ける場所は探索し尽くしたのに、新しい場所が出たから騒ぎになっちゃったんだ。
「お前さんたちも調査に同行するか? 通路の発見者だからな、その権利はあるぞ」
うーん。私はこのあとは東沼ダンジョンに行く予定なんだよね。
黒のお姉さんと約束した『解毒ポーション+』を作るから、シケクド草を採りに行かなきゃ。
隠し通路の先も気になるけれど、それは他の人の調査が終わってからでいいや。さっきサブマスも、どんな魔物が出るかわからない、って言ってたからね。私は安全志向なんだ。
チヴェッテちゃんも、ゴーストはもう出ないからそれほど興味はないみたい。
「腕利きを探してるんなら、ゴールドランクが一人いるじゃない。あの遺跡のことならどんなに忙しくても飛びついてくるよ」
確かに。ヤーナさんなら逆にお金を払ってでも参加しそうだなあ。
それを聞いたなじみのお姉さんは、そうかとばかりに会議室を飛び出していった。
「このガーゴイルの核も、普通じゃないかもしれん。素材管理部に回しておくから、後で振込みでいいな?」
サブマスも忙しそうに出ていったよ。
取り残された私とチヴェッテちゃんは、ぽかーんと顔を見合わせちゃったよ。
***
さて、と。
冒険者ギルドを出てチヴェッテちゃんと別れた後、いつもの空き地にやって来たよ。
ここなら人もいないし、落ち着いて魔法のスクロールを試せるね。
デンジー廃鉱山ダンジョンで見つけた、この魔法のスクロール。黒のお姉さんによると、何と中級魔法が習得できるそうだ。
前に試したときは、魔力が足りなくて使えなかったんだ。でも今回は、オルディ砦遺跡で見つけた魔力増強ポーションを飲んだから、もしかして使えるかもしれない!
さあ、やってみようか。
スクロールを開いて、最後の方にある紋へ魔力を流し込む――。
魔力を帯びた光が文字を辿っていき、前回止まった辺りを……過ぎて。
むっ、するするっと魔力が吸い込まれていくけれど、まだ残ってるよ。いける! あとちょっと……。
苦しくなってきたけれど……もう少し、あと2行……1行……。
最後の一文字まで、光った!
魔力の光は、文字を消しながら、体の中に逆流して戻ってきて……。
同時にスクロールの全容を理解し、会得した。
覚えたのは――これは、なかなか面白そうな魔法だぞ!
ふむふむ。ちょうど空き地の広場にいることだし、ちょっと使ってみようっかな。
私は周囲を見渡して、使えそうなものは無いかなと探してみた。
石や土、木の枝あたりかな。ちょっと多めに拾ってきたよ。
石は……まだ難しいかな。土でやってみよう。
土をひと山目の前に積み上げて、覚えた魔法を唱える――。
「さあ、いくぞ。――クリエイトゴーレム!」
魔法を唱えると、積み上げた土が光を帯びて、ヒトガタに変形していく――。
そう。このスクロールは何と、材料があればゴーレムを生み出せる、クリエイトゴーレムの魔法だったんだ!
ゴーレムはどんなことができるんだろう?
土のゴーレムはちょうど私の腰のあたりの大きさだよ。身長80cmくらい?
魔力で私とつながっていて、簡単な命令なら念じるだけで応えてくれるようだ。
付いてきて、と念じて歩き出すと、私の後ろをとてとてと付いてくる。早歩きでも付いてこられるけれど、小走りになるとちょっと遅れてしまうみたい。
これは楽しい! もっといろいろやってみようっと!
積んである木材とか大きめの石とかを持ち上げさせてみた。けっこう力もありそうね。
私を持ち上げてみて、と念じたら、ギリギリ足が浮くくらいには持ち上げられた。これが限界っぽい。でも蹴りうさぎの運搬は任せられそうね。あの時この魔法があればなあ。
次は耐久力テストだ。
ちょいあ! まずは普通に蹴りを当ててみたよ。おっ、耐えた! そこそこ頑丈さはありそうだ。
それなら脚力強化で魔法キックだ、トウ!
おっと、これは耐えられなかったみたい。土に戻っちゃった。
もう一度、土に魔法を込めてみる。――よし、土ゴーレムになったぞ。でも復活させるまで10秒くらいかかったかな。
他の素材も試してみたよ。
同時に2体は作れないから、土ゴーレムを一旦土に戻して、木の枝や石を試してみた。
木の枝をゴーレムにすると、背の高さが私と同じくらいのゴーレムになったよ。身長150cmくらいだね。
石のゴーレムは、逆に私の足のサイズくらいで身長20cmちょっと。ちっちゃくて可愛い!
今日は日が暮れるまでゴーレムたちと遊んだよ。
……よく考えたら、空き地でゴーレムを操る小娘なんて、誰かに見られてたら通報ものだったね。ここに人が来なくてよかったよ。




