予想どおりだ
ゴブリンたちの次の襲撃に備え、ウィルたちの指示の元、サリアたちミューゼの村の生き残りは、非常事態体制を敷いていた。
生き残りの村人たちは村の中央に集まり、そこに食糧や燃料をあるだけかき集めた。特に薪などは、家人のいなくなった家を壊してまで、大量に用意した。
くわや棍棒、棒切れの先にナイフをくくりつけた簡素な槍など、武器を、あるいは武器の代わりになる物を村人たちの手元に置いて、ある程度は自衛できるようにもした。
「村の、この一帯の異変は、スウェアの町に遠からず、あるいはもう伝わっていてもおかしくない。十日とかからず、スウェアの町からの救援は来る。それまで耐え、守ればいいだけだ」
不安そうな村人たちを安心させるためにウィルはそう告げたが、別にウソ八百を並べ立てているわけではない。
農村は自給自足を旨としているが、人の往来が皆無なわけではない。
物売りや行商がやって来ることもあるし、旅芸人が訪れることもあれば、役人が様子を見に来ることもある。
また、村からスウェアの町に必要な物を買いに行くこともあり、それがまったくなくなれば、つき合いのある商人がおかしく思うはずだ。
すでに近隣の村からスウェアの町に走っている可能性も高く、ウィルは五日も経たずに、スウェアの町の領主であるトゥカーン男爵の兵が動くと見ている。
無論、救援が来るより先にゴブリンの襲撃がまたある可能性が高いので、ウィルたちはミューゼの村にできるだけの防衛体制を築かせ、それは無駄にならなかった。
「……来たぞ」
ミューゼの村で唯一、二階建ての村長の家の屋根で見張りについていたユリィは、屋根裏部屋に降りながら警告を階下のウィルたちに発する。
早くも、先の襲撃があった翌日の夜には、ゴブリンたちがミューゼの村に押し寄せて来た。
ミューゼの村の中央、村人たちが集まっている一角の四方には、夜になると同時に焚き火を焚いている。
闇夜の下では、ゴブリンたちと違い、人間およびウィル、ユリィの視界は効かず、明かりが必要となるが、それだけではない。
焚き火があれば警戒していることが明白であり、ゴブリンとて一気に雪崩れ込んで来ることはなく、それはゴブリンへの足止めという効果を生む。
「大地の精霊ノームよ! 我が召喚に応じよ!」
村長宅の土間にあぐらをかくリタは、十二体のノームを召喚して、それを玄関から村の方々に向かわせる間に、屋根や壁から矢の突き立つ音がいくつも聞こえる。
「……凄い。予想どおりだ」
サリアが目を丸くしてつぶやくとおり、今の展開はウィルたちが事前に「警告」したとおりのものだった。
家屋を解体してまで大量の薪を用意したのは伊達ではない。各所に焚き火を用意すれば、ゴブリンの襲撃した際に暗夜でもウィルたちが視界を確保できる。加えて、焚き火そのものがゴブリンたちを警戒させ、足止めの役割を果たす。
警戒して足を止めたゴブリンたちは村に矢の雨を降らしているが、ウィルたちはこれを予想して村人たちには家の外に出ないように言ってある。
生き残りの村人を一つの建物に集めたかったというのが、ウィルたちの本音だ。守る側としては、分散されるよりも一ヵ所にいてくれた方が守り易いが、ミューゼの村にそれだけ大きい建物はない。村人たちを近くの家々に集めるのが精々であった。
それでも足を止めて矢を射つゴブリンたちに対して、足の遅いノームを展開する時間を稼げたらしく、矢が突き立つ音がゴブリンたちの悲鳴に代わっていく。
「それじゃあ、オレたちは行く。後は頼むぞ」
矢音が完全に無くなると同時に、ウィル、ユリィ、セラがノームに続いて、玄関から出ようとする。
押し寄せて来たゴブリンが五十や百いようが、ノームたちだけで充分に勝てる。ただし、村人を守るという点では心もとない。
例えば、ゴブリンを倒せと命じられたノームの前に二匹のゴブリンがいたとする。その片方が村人を襲っていたとしても、ノームにとっては村人を襲っているかどうかは関係なく、どちらのゴブリンを攻撃するかは完全にランダムだ。
あくまで村人を守るためではなく、ゴブリンを倒すために動くノームでは、ゴブリンの数が多い場合、取りこぼしが生じる危険がある。ノームの動きの遅さを思えば尚更というもの。
一応、村人たちはなるべく密集させ、動ける村人には簡素な武器を持たせている。この村長宅にも簡素な寝床をいくつも作り、十数人が寝泊まりしているのに加え、サリアやノーセン、他に四人の村人が武器となる物を手にしているが、それでもウィルたちが外を見て回り、新たな負傷者が出たらセラがすぐに癒すべきだろう。
もちろん、リタの守りを素人のサリアたちに任せるのは不安だが、手数が足りない以上、多少のリスクは仕方ない。
これはゴブリン退治の仕事ではなくなり、追加報酬を要求して、村の防衛という仕事に切り換えたのだから。




