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弓矢を用意しておくんだった

 ノームとゴブリンでは、その戦闘力は話にならない。そもそもノームの攻撃はゴブリンに通じるのに、ゴブリンの攻撃はノームに通じないのだから、マトモな戦いになりようがない。


 それは上位固体であるゴブリン・ウォーリアでも同じである。実際に昨夜の戦いでは、ゴブリン・ウォーリアがウィンデーネに溺死させられている。


 ただし、ノームに対してゴブリンが勝るものがないではない。唯一のそれは、鈍重なノームに比べて、ゴブリンの方がすばしっこい点だ。


 この夜、ミューゼの村を襲ったゴブリンの数は五十余。率いるのは上位固体のゴブリン・ファントム。


 ゴブリン・ファントムはゴブリン・ウォーリアに比べて力に劣るものの、知能は高く魔法が使える。


 もっとも、ゴブリン・ファントムの使える魔法は下級の術がいくつかというもので、ノーム一体と互角に戦えれば御の字というぐらいの強さでしかない。


 その点はゴブリン・ファントムもわきまえているのだろう。ノームの姿を見た途端、後方に下がってしまい、ゴブリンたちがやられている間に身を隠してしまった。


 元々、ゴブリンは臆病で士気が低い。ノームに攻撃が通じず、一方的にやられ出したゴブリンたちは、統率するゴブリン・ファントムの姿が見えないこともあり、方々に逃げ散ったために、


「……厄介な」


 思わずウィルが舌打ちしたのも当然だろう。


 ゴブリンたちが来た道を引き返すなら大歓迎だが、ノームの強さにマトモに逃げることもできないほどの混乱状態に陥ったか、逃げ惑うゴブリンの一部は家の中に隠れようとする始末だ。


 そして、足の遅いノームは逃げるゴブリンに追いつくことができない。


 無人の家に逃げ込むなら後で対処すればいいが、この辺りの家々に逃げ込ませるわけにはいかず、ユリィはそうした動きを見せるゴブリンを的確に射殺したが、二匹ほどは手と矢が回らなかった。


「オレも弓矢を用意しておくんだった」


 ウィルはそう嘆くが、ない物は仕方ない。三人は二匹のゴブリンにドアを壊され、踏み込まれて悲鳴の上がる家へと向かう。


 混乱して興奮した状態にあるのだろう。家の中に踏み込んだ二匹のゴブリンは、闇雲に武器を振り回している。


 それを迎え撃った十二、三くらいの男の子と初老の男性だが、怯えて固まる男の子の腕にゴブリンの振り回す鎌が突き刺さる。


「ギャエ……」


 が、ゴブリンらの狂乱もそれまでで、ウィルの槍とユリィの短槍に後ろから貫かれる。


「地母神よ! この者の傷を癒したまえ!」


 それほど深い傷ではないのに、慌てて男の子に癒しの御業を使うセラ。


「壊れたドアは、テーブルでも何でも積んでふさいでくれ」


 無秩序に逃げるゴブリンたちの動きは予想できない。それゆえに、これ以上のフォローはしていられないウィルは、そう言い置くとその家から立ち去り、ユリィやセラと共に愕然となった。


 のそのそど動き回っていたノームたちの姿が一体、残らずに消えていたのだから。


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