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傷ついている村の人たちを治すな

 結局、ウィルたちの追加報酬はサリアが提示した身銭と荷馬車、家具の他、ゴブリンたちの持ち物は元の持ち主が誰であれ、その所有権はウィルたちにあるという点で合意を見たので、ウィルはその事後報告を目を覚ましたセラに行っていた。


 人口がほぼ半減した今のミューゼの村は、空き家となった家がいくらでもある。その内の一軒がウィルたちに提供されているのだ。


 ミューゼの村の追加報酬の交渉がまとまった後、ウィルは気を失っていたセラの隣で仮眠を取り、ゴブリンの再来襲に備えてユリィとリタが見張りに立っていた。


 前日と違い、今は太陽が暑いほど強い日射しを放っている。ゴブリンが陽光を嫌っているのは承知しているが、それでも備えておくに越したことはない。


 そして、昼前に疲弊した精神が回復してセラが目を覚ますと、ウィルも起こされ、代わりに空いた寝台にユリィとリタが横になっている。


 目を覚ますとすぐに負傷している村人の元に向かおうとするセラを引き止め、ウィルは共に「朝食」を取りながら、追加報酬のことのみならず、今後のことについて話をしたが、


「傷ついている村の人たちを治すな、と言うのですか?」


 慈愛を説く地母神の神官の声と顔が気色ばむのも当然だろう。


 困っているミューゼの村に追加報酬を求めたことにも釈然としないが、彼女がより反発を覚えたのは、負傷している村人への御業の行使をひかえろ、というウィルの言葉だった。


「命の危険のある者を放置しろとまでは言わない。だが、命の危険のない者は傷が深くとも後に回すべきだ」


「痛み、苦しんでいる人をそのままにしろだなんて、何を考えているのですか、ウィル」


「無計画に傷を癒せば、また気力が尽きてセラが倒れる。いつゴブリンが攻めて来るかわからないんだ。治すのは最低限にして、いざという時に傷を癒せるよう、余力を残しておかないとマズイ」


「言いたいことはわかりますが、傷を負って苦しむ者の中には子供もいるのに、それでも治してはならない、というのですか?」


 頭では理解しているのだろうが、感情的になって納得しようとしない仲間に少し考え込んでから、


「セラ。今、オレたちはどのような状況に置かれているか、わからないんだ。最悪、ここらのゴブリンがまとまっていて、昨夜の襲撃はその一部がここに押し寄せたのかも知れん」


 ウィルたちにとって最も頭の痛い点は、とにかく情報がなく状況がわからないことだ。


 他の村がどうなっているのか。そこの冒険者たちがどのように動いているのか。スウェアの町にこの異常事態が伝わっているのか。


 ゴブリンの襲撃がいつあるかわからない以上、ウィルたちは調査に動くわけにはいかず、負傷者だらけの村人を他の村やスウェアの町に走らせるのも、現状では不安が大きい。


「ゴブリンの襲撃を防ぎつつ、他の村からの連絡や、スウェアの町からの救援を待つしかないと思う。その襲撃の際、ゴブリンの数が数だ。取りこぼして村人に被害が、深手を負うかも知れん」


 その時、回復手段を有するセラが気を失っていては、助けられる命が助けられなくなる。


 このような仮定を持ち出されては、ウィルたちの方針に従うしかなく、


「……わかりました」


 苦痛を訴える村人たちの姿を脳裏に思い描きつつも、セラは不承不承、目の前で苦しむ者を捨ておくことに同意した。



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