第9話 2-5 きちんと自分の思いを伝えられるか。
「おじゃましまーす」
エレオノーレは大きな声でそう言って、放課後倶楽部が使っている空き教室に入った。どうしたことかアヒムはいないようだ。
胸の大きな赤毛の令嬢は、今日は違う男の子に勉強を教わっているようだ。相変わらずみっちり密着している。無差別なのか?一斉に視線を受けるが、エレオノーレは今更、なんてことはないようだ。後ろから付いて行ったクリストフはハラハラしながら成り行きを眺めた。
「そこのあなた」
目が合って、にやりと嫌な笑いを浮かべたその赤毛のご令嬢の顔にエレオノーレが手袋を脱いでたたきつける。
「先ほどケンカを売られたので、決闘を申し込む。外に出ろ」
「……え?」
フロレンツィアが駆けつけてきて、楽しそうに段取りを始めた。
「立会人を務める。剣術クラブ部長のフロレンツィアだ。両者、剣を持て」
担当の先生が止めに駆けつけたが、
「あなたに止める権利があるとお思いか?」
とフロレンツィアに制されている。ああ…あの報告書の、先生ね。
人垣ができる。意外なほど女の子が多い。おおかた、この赤毛の令嬢に婚約者を盗られた令嬢たちかもしれない。
「エラ、どうした?きちんと剣を持て」
剣を持たされておどおどしている赤毛の令嬢に、フロレンツィアがはっぱをかける。
エレオノーレは準備万端なようだな。靴を脱いで、裸足で構える。
目が…獲物を狙う鷹のようでちょっと怖い。
「チッ、くそっ」
令嬢らしからぬ捨て台詞を吐いて、赤毛の令嬢がようやく剣を構えた、その時。
「ノーレ、こんなとこにいたのか!突然いなくなったって聞いたから校内中探したぞ!排水溝まで探しに行ったんだぞ!」
人垣を割って、ふわふわの明るい金髪がエレオノーレの背中にしがみつく。
「私、アヒムと婚約解消なんてした覚えないからね」
構えたままエレオノーレが振り返りもせずにそう言った。
「え?俺も覚えがないぞ」
「アヒムがこの赤毛の令嬢がいいと言っても、譲れないから」
「え?何の話をしてるんだい?ノーレ?何があったのかよくわからないけど…女性に剣を向けちゃだめだぞ?」
「あ、あ、あんたは…この人をかばうつもりなの?」
「?」
外野がザワリと動揺した。
アヒムと向かい合ったエレオノーレはもう涙目になっている。
「かばうも何も…よく状況がわからないけど…女と打ち合うなって昔っから言っているだろう?この人だって誰かの娘だし、いつか誰かの母親になるかもしれないだろ?ケガさせちゃ申し訳ないだろ?」
「……なっ」
「お前がなくして悲しんだものは、他の人だって悲しいだろ?ましてや…それがノーレだったら俺は耐えられない。傷つけるのも、傷つけられるのも」
「…アヒム…あんたって…バカなの?」
「あははっ、バカだったなあ…お前に会えなくて一か月も寝不足で死にそうだ。お前のために長生きしようと思ってたのに」
「バカね」
「ああそうだな。もう少し、優しく言ってくれよ」
クリストフは目の前で攻略対象者のエレオノーレが婚約者と抱き合う姿を見ていた。
…ハインツ…お前の調査力、落ちたんじゃないのか?




