第8話 2-4 お互いを個人として尊敬できるか。
初めて会った時からエレオノーレは面白い子だった。
入部希望者の勝ち抜き戦では、他の男の子たちをばっさばっさと切り捨てた。(もちろん模擬刀だけど)
「ちょっとむしゃくしゃすることがあったので、すっきりしました」
そう言って笑った。
剣術クラブの部長、僕の従姉の辺境伯令嬢フロレンツィアが、目を細めて喜んでいた。
「面白い子が入ったな。クリストフ、お前の婚約者にどうだ?」
僕はこの国の第三王子だ。隣国に婿に行くことが決まっていたが…僕のすぐ上の兄が僕の婚約者と恋に落ちてさっさと結婚してしまった。兄が婚約者を決めていなかったのはそう言うわけか…そう思った。その次兄の代わりに長兄の補佐をしていかなければならなくなった僕は、急いで婿入り先を探すことになった。
王都に屋敷を構えて、それなりの身分で、自領の管理は自分でできそうな娘。これがなかなか難しかった。跡取り娘は親が心配して、子供のうちから婿を用意するしね。
僕の補佐官兼侍従のハインツが、フロレンツィアに聞いたのだろう、さっそくエレオノーレの身元の調査をしてきた。
ゲルハルト侯爵家の一人娘。学院は高等部からの入学で、首席入学で新入生挨拶をした。婚約者はグスタフ伯爵家三男のアヒム。
「この婚約者は殿下のクラスメイトでしたね」
「ああ。そうだ」
アヒム君…ふわふわの明るい金髪の明るい男だ。面倒見がよくて男女ともに人気がある。成績も優秀だ。だから放課後倶楽部に推されたんだろう。
「放課後倶楽部で成績が怪しい子たちの勉強を見てますよね。その生徒の中に、男爵家の養女のエラ、って子がいましてね。Ⅽクラスですけど」
「それが、なにか?」
「ふふん…どうもその子が今、アヒムって子に気があるらしくて、絶賛口説き中らしいんですよ。まあ、他にもいろいろとやらかしてくれてますけど」
ハインツの資料によると、学院の高等部に入学して以来、婚約者持ちの男とねんごろになって、もう3組の婚約解消を引き起こしている。婚約解消まで行かなかったがこじれたところはもっとあるようだ。
それに…学院の先生とも??今までは子爵家の令息狙いだったのを伯爵家まで引き上げたのか?跡取り息子じゃないけどいいのかな?クリストフは資料を見ながら首をかしげる。
「このエラって子の最終的なターゲットはどうも…殿下みたいですね」
そう言って面白そうにハインツが笑った。
「……」
「そう言うわけなんで、意外と簡単にカタが付くかもしれません。どうせ家同士で結んだ婚約でしょうしね。ほんの少しの噂話で、人の気持ちなんてどうとでもなりますから」
しれっとそんなことを言いだしたハインツ。こいつはやると言ったらやる。
…だから…エレオノーレの泣き顔を見た時、ほんのちょっと期待した。ハインツ、仕事早いな…。そう思った。
一か月の間この子を観察したが、学識も常識も、礼儀作法も…十分だ。可愛らしいし、その上、剣を握らせたら強い。
打算で申し訳ないが、ゲルハルト侯爵家なら政治的にも中立で申し分ない。
「エレオノーレ、つらいことがあったのかい?相談に乗るよ?」
「いやー、変な女にマウント取られたので、取り返しに行ってきます」
「……え?」
エレオノーレはわざわざ白い手袋をはめると、模擬刀を2本担いで、クラブハウスを出て行った。
…あれ?




