第7話 2-3 その不安が何かを見定める。
アヒムとは毎朝一緒に登校していたが、入学一週間もたたずに、私たちは大げんかをして、別々に登校している。お昼も一緒だったが私の教室にアヒムが来なくなった。
もう一か月になる。意外と強情だわ。早く謝りにくればいいのに。
そのかわりに…あの赤毛の令嬢が私を訪ねてきた。首をほんの少し傾けて…にこりと笑った。
「まあ、私のせいで、婚約を解消なさったと聞いたので…」
「……」
…してねえし。
「アヒム様はいつも、私を励ましてくださっておりますの。頑張ってるね、エラ。すごいね、エラ…って。私のこの髪も、可愛いって。うふふっ。一年生の時から放課後は私たち二人、いつも一緒なんですのよ」
…知ってるし。この前、放課後倶楽部をこっそり見に行ったから。机に並んでアヒムにしだれかかるようにしてこの赤毛の令嬢が…勉強を教わっていた。
よく見ると、制服の上着のボタンがはじけ飛びそうなほど胸がでかい。ゆるくウェーブをつけた赤い髪も軽やかそうだ。大きなクリっとした赤みがかった瞳はいたずらしたくてしょうがない猫みたいだ。
…結局…男の子はこういう女の子に引かれるのかしら。そんでもって、真実の愛とやらをささやくのか?
アヒムも…そうなのかな?
「お話はそれだけですか?」
「え?ええ。貴女にはお伝えしておいた方がよろしいかと思いまして。うふふっ」
上目づかいで笑うその令嬢の顔を見ていると吐きそうになって、エレオノーレはむすっとしたまま教室を出ると、廊下を走って、剣術クラブのクラブハウスに飛び込んで鍵を閉めた。この時間、幸いなことに誰もいなかった。床にぺたんと座り込む。
息を整えながら、エレオノーレは自分に言い聞かせる。
私はバカではない。冷静に客観的に判断できるように、きちんと当事者両者の意見を聞くべきだ。最終的な判断はそれから。
でも…婚約解消なんて、誰が言い出したんだろう?アヒムが?あの子に言ったのか?
だとしたら、私たちの婚約を…解消する気なのか?
確かに…アヒムと意見が合わなくて頭に来て、婚約式を延期して、しばらく会わないでいようと言ったのは…私だけど。
はあーっ、と息を吐いたら、涙まで出てきてしまった。
(…むふふっ。100年遅かったわね。
この子はね、私が十年もかけてここまで作り上げたわけよ。他の女の子に目移りなんて…あり得ない。って言うか…あってはダメ、と言うか…無い、と信じたいわけよ)
なーんて息巻いてたのに、自分の方が遅かったわけ?
だからあんなにアヒムはあの時……キツイ言い方するなって怒ってたわけ?
はあーっと息をして…エレオノーレは自分の膝に顔を埋めて泣いた。
***
「泣いたの?エレオノーレ?」
放課後一番にやってきた剣術クラブの副部長のクリストフは、目を真っ赤にした彼女にそう聞いた。
「ええ。少しスッキリしました」
そう言う彼女は午後の授業を休んで、ここで素振りをしていたらしい。
…ふうん…。




