第2話 1-2 お互いの理解を深める。
「へえ、お前、剣術も習っているのか?女のくせに」
「はい。屋敷の護衛騎士の朝練に出ております」
「へえ、暇なの?まだ6歳だろう?」
私の婚約者候補は、なかなか男尊女卑のつまらない子の様です。大体、お前って何?お前、って。
「いえ…ほら、私は母が亡くなっていますし、一人っ子でしょ?家のためにも、自分の身は自分で守らなければいけないこともあるかと思いまして…」
「……あ、ごめん。じゃあ、これからはお、お、俺が守ってやるよ」
「まあ」
2か月に一度くらいお茶を飲めば済みそうだったのに…この子の何かに火をつけてしまったのか…この子はほぼ毎週やってくるようになった。
それどころか、ここのところ早朝にやって来て、うちの護衛騎士の朝練に一緒に参加するようになった。王都のうちの屋敷からアヒムの屋敷までなら馬車で10分。そこを30分かけて走ってやって来る。付いてくる護衛騎士の方も大変そうだ。
…変に庇護欲を刺激してしまったのかしら?思い込みの激しい子なのね。気を付けましょう。
しかも…こいつ、女とは剣を交えない、とか言い出して、何時まで経っても私と打ち合おうとしない。変な奴。
アヒムの練習風景を眺めていたエレオノーレは自分の模擬刀を握りなおして、構えた。
***
「お父様、アヒム様が私と一緒に勉強をしてくださると言い出しまして…」
執務室のソファーに腰を下ろした娘が、大きなため息をつく。
「うちは構わないよ?エレオノーレさえよければ」
「お父様は……そうおっしゃると思いましたわ」
おやおや…顔にめんどくさい、と書いてあるようだね。
うちの娘はこのところ、表情が豊かになった。今だって一緒に勉強すると言い出したアヒム君に対して怒っているような、呆れているような…。実際のところ、6歳のころから大人用の書籍を読み漁っている娘にアヒム君の学力で付いてこれるのかどうかはなぞだ。
「嫌なのかい?」
「嫌、っていうほどでもないんですけれど。今後のことを考えますと、うちの経営に携わる予定の子が頭空っぽ、と言うのも困りますしね」
どうも…俺が勉強を教えてやる、と言われたのが癪に障ったようだ。悪い子ではないようだが、アヒム君はうちの娘の神経を逆立てるのが上手?なんだな。自分の兄たちと一緒の家庭教師も付いているようだが、今まではあまり真面目にやってこなかったらしい。
私の秘書官も控えているばあやも、くすくすと笑っている。
「…仕方ありませんね…じゃあ、明日からは私の部屋で勉強します。ここの机を運んでおいてくださいね。あとは…アヒムの机はどうしようかしら」
そう言いながらソファーから立ち上がった娘は、いそいそと自分の部屋に戻った。部屋を片付けなければいけないらしい。
今までは執務室に置いてある机で勉強していたので…それは少し寂しくなりそうだな。そうは思ったが…娘に同世代の友人ができるのは良いことだ。
メンドクサイと言いながら執務室を出ていく娘の後姿が、意外なほど楽しそうに見えて、父親としてはほんの少しくすぐったいような、寂しいような。




