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#3-1 蝉しぐれと月光と

ほぼ書き終わったところで、一度、大半が消えました…こまめに保存していたのにっっ。

心が折れそうですが、頑張りました…なぜか、消えた元の方がずっと良かった気がしてしまうのですが…何故でしょう…失われたものほど美しいからでしょうか

1.

建国記念夜会から、遡る事約四か月、八月上旬。アンフェス帝立学園、回廊。

 

 アンフェス帝立学園の卒業試験最終日も、とても暑かった。蝉時雨を浴びせられながらの、帰り道。寮まで続く、長い大理石の回廊を、庭を眺めて、のんびり歩きながら、燈子と星麗(せいら)は、無事終わった卒業試験の事を、それから、まもなく帰省する故郷の事を、話していた。教師の用事を手伝って、少し遅くなったせいか、辺りには、二人だけだ。

星麗(せいら)が、木々の緑と、花々の彩りで溢れかえる庭を、眺めながら言った。

「世界が変わっても、蝉時雨も、夏の帰り道も、同じだわ…なんだか、不思議に感じる……」

どこか寂しそうに呟く星麗の銀の髪を、夏風が揺らした。

燈子が、思わず立ち止まると、星麗も立ち止まった。

想思樹の偽葉が、空を撫でまわし、ハイビスカスが、白や紫の風の道を描く。

回廊の白も、空の青も、必死に生きる植物たちに、無理やり染め上げられている。けれど、星麗の銀髪は、強い陽光を染み込ませるだけで、ただ、ただ、銀に光っている。

「こういう日は、ね、今、私は、この世界に、生きているはずなのに…なんだか、帰りたくなってしまうの。」

『前世の記憶がある』という星麗。帰りたいのは、前世、なのだろう。

「その世界の私は、普通の女性として、普通の人生を、全うしたの。」

蝉が、叫んでいる。

「その世界ではね、みんな、自分で人生を選んでいたわ。身分差なんてなくて、自由だった。」

一際強い風が吹く。靡いた髪を、耳に掛け乍ら、星麗は、想思樹の梢を、見上げている。

「学校、仕事、結婚、生きる場所、何を着て、何時、何処へ行くか、時には死さえ、選べたわ――」

想思樹を見上げているようで、更にその向こうを見ているような。

「人生を自分で、選んで決めるって、楽ではなかったし、沢山悩んだし…つらい日もあったけど…」

夏の風に融けていきそうで、ふと不安になった。手を伸ばし、そっと制服の肩に触れる。銀色の髪を揺らし、燈子を見た星麗は、困った様に笑った。

学園は、星麗にとって、最後の『自由』の時間。


――精一杯楽しんで、楽しんで…沢山、楽しい思い出を作りなさい。政治など関係ない、本当の友達が持てる事、心から祈っているわ

入学前、住み慣れた公爵領を出発する日、星麗の母、エリティス公爵夫人陽真(ひま)はそういって、星麗の髪を優しく撫でていた。すこし、照れた星麗の横顔を、よく覚えている。


「私、この世界でも、恵まれているというのに…我儘ね…」

特権階級で、衣食住困らないどころか、常に贅沢が出来る。代わりに、休みには、領都に戻り、『公爵令嬢として、働いて』もいる。身近には、友人になり切れない侍女だけ。同じ貴族令嬢とて、政治から無縁では付き合えない。結婚は、自分の意思では、決められない。仕事も、結婚で、決まる。

 星麗は、平民だとて、その不自由さは、貴族とそう変わらないこと、平民には平民の辛さがある事を、理解し、知っている。その上、貴族と違い、衣食住に困ることもある。仕事も、自由に思われるが、実際は選べない事が多い。

星麗は、慰めてほしいわけでも、同情してほしいわけでもない。

ああ、けど、沸いてくるこの感情を、何て言えば良いのかな。

燈子は、もどかしくて、握った右手を、閉じたり開いたりした。

「チュイチー」ふと、のんびりとした(ひたき)の鳴き声が、蝉の声を通り抜けてきた。

「あら、ヒタキね…」

存外近くに、黄色い小鳥が止まっている。つぶらな瞳が見えるくらい、近い場所で、枝の上を、ちょん、ちょん、と歩く。星麗は、自分も小鳥のように、首を傾げ、可愛いわ、と笑っている。

「星麗様」

ヒタキの声で、ふと、ただ、伝えたいことが言葉になった。

「なあに?」

「星麗様は、今世を、精一杯、生きてらっしゃいます。」

昼の星空のような瞳を、じっと見て、橙子は言った。

星麗の前世がどうだったのか、燈子には解らない。

『今』にない家族。『今』にない友人。『今』にない夫‥‥‥。

『今』にないジユウ

星麗は、それでも、『今』この世界にいて、頑張って生きているのを、燈子は知っている。

「そんな星麗様は、カッコいいです。」

星麗は、数回瞬きをしてから、クスリと笑った。

「橙子の方が、カッコいいわ」

小さな手が、そっと橙子の手を握る。暖かい手は、ちゃんと、そこに実在している。

「さ、帰りましょ。侑華(ゆうか)が、お茶を用意して待っているわ」

「はい」


2.

 その夜、部屋に下がった燈子は、到着していた郵便物を、開いていた。

「なるほど、ね…」

手に持った、白い便箋から視線をあげ、小さくため息をつく。それは、ペルフェアドゥス王立高等学園に通う、友人からの手紙だ。デスクに、便箋を置いて、立ち上がる。夜着にしている霰模様の紺の浴衣の上に、縹色の羽織を着る。部屋を出かけて、ふと、松葉色のカーテンに手をかけた。月光が舞い込んで来た。蒼、藤、茜、そう色で呼ばれる、三つの月が、其々欠けながら、空に浮かんでいる。燈子には、生まれた時から、月は三つあるものだ。

 昼間、星麗(せいら)の前世を聞いたせいか、ふと、幼い頃を思い出した。多分、五歳か六歳の頃だろう。何故、その時燈子が、エリティス公爵邸に居たのかは、思い出せない。

 天井が、高く、長くて薄暗い廊下。アーチ形の大きな窓。鎧戸が閉じていなかったので、三階だったか。窓から、今と同じように、三つの月が、ラベンダー翡翠のような光を、静々と注ぎ込んでいた。そんな、柔らかな薄紫色の光の真ん中に、星麗は、白いネグリジェのまま、座り込んで、空を見上げていた。

「…お家に、帰りたい……」

その、大きな夏空色の瞳から、ぽろり、ぽろり、と零れ落ちる涙。銀色の髪が、きらりきらりと、パウダー・パープルに光っていた。

月の妖精が、迷い込んできたのかと思った。

「本当のお月様は……銀色なのに……一つだけなのに……」

迷子の月の妖精は、心細げな声で呟く。

ぽろり、ぽろり…

銀色の月を探す、銀色の髪の妖精…

きっと、その月は、星麗の前世にあった月。

星麗様の髪のような色、なのかな。

今も、星麗は、前世の月を思い出して、哀しくなることがあるのだろうか。

小さく首を振り、ふうぅと、深くため息をつき、「よし」と気合を入れると、手紙を持って、部屋を出た。


3.

 侑華(ゆうか)の部屋の戸をそっと叩く。ネグリジェの上に、ガウンを羽織った侑華が、そっと戸を開いた。燈子を見ると、中へ入れてくれる。

「座って頂戴」

と言っても、侍女用の部屋だから、決して広くはない。侑華は、燈子を、一人がけソファーに座らせ、自分はベッドに腰かけた。

「どうかしたの?試験休みで、明後日まで、お休みだったでしょう?のんびりしているのかと思っていたわ…」

侑華は、無表情だが、燈子には、とても心配してくれているのが解る。

「まさか…試験の出来が」

燈子は苦笑した。まあ、この五年、星麗、燈子、侑華の最大の懸念は、燈子の成績だったが…。

 一学年に、A,B,Cの三クラスがあり、成績で分かれている。常にトップクラスの星麗は、当然Aクラス。同じクラスでいるのは、燈子には、非常に、大変だった。

「あ、いいえ、侑華さん。大丈夫です…ああ、多分。そもそも、終わったことを考えても仕方がありませんので。私の事ではなく、星麗様の事です」

手に持っていた手紙を、侑華にちらりと見せる。

「王都の友人が、最近の王立高等学園の様子を、報せてくれました。少々、懸念が。」

「第二王子殿下と、ムセルゼ男爵令嬢の事、かしら」

侑華が、細いがきりりとした眉を、少し寄せる。

「はい。この半年、お二人の距離は、ますます近づいているとか。最近では、放課後、ムセルゼ男爵令嬢は、桐壺宮(きりつぼぐう)に、連日のように通って、長時間過ごしていらっしゃる、という噂が。」

桐壺宮は、第二王子の王宮での住まいだ。第二王子は、星麗の一学年上なので、去年卒業している。

「まあ…王宮に?ならば、殿下が、特別に、お呼びになっている、という事よね……。殿下はお仕事、令嬢は学業、お二人とも、お忙しいでしょうに」

第二王子は、今年から、総務省の文官として、働いている。まあ、この世界、とある別世界の現代と違い、通信技術も発達しておらず、高度な情報処理機械もなく、全てゆっくりで、情報量も少ない。つまり、のんびりはしている。王宮や各政府機関の仕事は、概ね十時半頃に始まり、二時半頃には、終わるくらいだ。とはいえ、仕事が終われば、王の執務について、学んだり、王子としての公務をしたり、社交をしたり…暇なはずがない。

「第二王子殿下が、ご卒業されれば、お二人の関係も、少しずつ終わるだろうと、陽真(ひま)奥様とも、ご相談の上、様子を見ることに、なさったけれど…悪手だったのかしら…」

現状の第二王子と薔薇子の状況は、『一時の気の迷い』とは、片づけにくい。星麗は、第二王子に『特別な感情』など、欠片も感じていない様子だ。燈子も侑華も、『第二王子が、星麗にふさわしい』、とは思っていない。なので、特別な感情から、星麗が、第二王子の婚約者で居る理由は、ない。あくまで『政治的判断』だ。星麗の祖父などは、『結婚など不要だ』、といつも言っている。実際、エリティス公爵家は、大変富裕な貴族だから、星麗が、結婚せず、一生豪遊しても、まったく困らなくはある。だが、エリティス公爵は、『家をさらに大きく盤石にしていく』為に、第二王子と星麗の婚約・結婚に、とても積極的なのだ。星麗も、陽真も、もちろん星麗専属侍女の燈子・侑華も、その方針に従っているに過ぎない。

とある別世界の中世・近世と同様、貴族の結婚は、政治的側面が大きい。高位貴族の長子など、ほぼ政略結婚だ。結婚後、愛人を作るなど、『普通』と言ってもいい。とはいえ、婚約段階から、外に漏れ聞くほど、特定の違う女性と…というのは、婚約者として、軽んじられすぎている。つまり『政治的に問題』なのだ。

「三月頃、陽真(ひま)奥様から、王妃様に『懸念』はお伝えしたそうだけど…あまり効果がなかった、ということね」

「そのようです。四月頃は、一時的に、お会いになる回数は、減ったようですけれど、最近は、頻回のようですね。夜会で、一緒に踊られた情報や、お二人で親しげに話していた、という情報もあるようです。こちらは、社交界にも流れたらしいですが…学園祭で、お二人が、合奏したことがあり、単なる挨拶だったと、王妃様自ら、情報を『訂正』したようですね。それから…」

燈子が言い淀んでいると、侑華は、「他にも何か?」と促してくる。

「その、以前から、ムセルゼ男爵令嬢は、何度か、星麗様のとりまき令嬢に、苛められている、と訴えていたようです。」

侑華は、切れ長の涼しい目をしたクールな美人だ。そんな美人が、怒った顔をすると、大変怖い。

「そもそも、星麗様は、こちらに留学中ですし、直接、星麗様をご存じの方々は、そんな方ではないと、皆さま、相手にされてなかったです。友人も、私も、気にしていなかったのですが…」

燈子は、友人の手紙に視線を落とし、「なのでご報告が遅れました」と小さく謝る。侑華は、「いいえ、続きを」と幾分優しい声で促してくれる。

「七月中旬に、シールズバール伯爵令嬢と、そのとりまき令嬢方が、『苛めの現場』を目撃されたそうです。ムセルゼ男爵令嬢が、他の令嬢方に、囲まれ、暴言を投げつけられていて、『見るに堪えなかった』ので介入されたとか。その時、男爵令嬢を苛めていた令嬢方に、問いただしたところ、『エリティス公爵令嬢に頼まれている。』と仰ったそうです。」

シールズバール伯爵令嬢は、元々、第二王子の婚約者候補の一人だった。聖魔法という、きわめて稀な属性の魔力を持つため、伯爵令嬢ながら、婚約者候補の一人になったのだ。

「バカバカしい。星麗様は、『おとりまき』など、低俗な派閥を、作られる方ではない。」

まあ、その通りだ。しいて言えば、侍女が、建前上は、付けられない学園内において、燈子は、常に一緒に居る令嬢なので、「とりまき」かもしれないが…。

「しかも、星麗様と仲の良いご令嬢は、ペルフェアドゥスの高等学園に、進学なさっていないわ」

侑華の言う通り、最も仲が良いのは、ソルティグラン侯爵令嬢日狩野(ひかりの)碧子とファルシーク公爵家皓浄珠希(こうじょうたまき)だが、碧子は、昨年、モンターゲ王国の王立高等学園を卒業している。珠希は、同学年だが、トルティモア王国の王立高等学園だ。多分、燈子達と同じように、卒業試験を終えて、のんびりしているだろう。それに、彼女達も、『おとりまき』を『手下のように使う性格』ではない。他にも、親交の比較的深い令嬢は居るが、自分より目下の令嬢を苛めたり、こんなバカな方法で、星麗を『守ろう』とする、者は居ない。

「そうですね…星麗様自身が、親しい、と感じていらっしゃる方は、多くはないと思いますが。ただ、星麗様は、誰とも分け隔てなく、接する方ですから…」

「勘違いなさっている令嬢でも、いらっしゃると?」

眉を吊り上げている侑華を見る。侑華も、心酔系だが…。実は、星麗は、私的にも公的にも、女性に人気がある。少なからず『ファン』が居るのだ。

「居ないとは、言いきれないのが、不安なところです。まあ、目撃なさったのが、シールズバール伯爵令嬢ですから」

彼女は、野心家で、策略も大好きだ。同じ婚約者候補だったころは、なにかと、星麗に、突っかかってきていた。

「聖魔法は、性格破綻者にでも、発現するのかしら」

燈子は、重い空気を少し払いたくて、にやりとしてみせた。

「魔力属性占いだと、聖魔力の発現者は、『慈愛深き人』ではなかったですか?」

侑華は、うっと詰まった。彼女は、実は占いがとても好きだ。

「もう、信じないわ」

口の中で、ぶつぶつ呟いているのが、ちょっと可愛らしい。燈子は、くすっと笑ってから、小さく息を吐いた。侑華と話して、胸のもやもやが、少し晴れてきた。

「手紙の友人も、そもそも、『とりまき令嬢』が、具体的に、誰だったのか、調べてくれています。明日にでも、他の知人にも、手紙をだして、調査をお願いします。」

「あら、もしかして柴咲(しばさき)子爵令息かしら」

侑華の瞳が、好奇心できらりと光る。この、外見からして仕事ができるクールな美人は、どうにも、占いやら、恋話が、大好きだ。愛読書も、華やかな恋愛小説である。侑華は、柴咲子爵令息斗真(とうま)と燈子が、一緒に居る時に、会ったことがある。少々『期待』しているらしいが、残念なほどに、全然違う。一言で言えば『暗躍好き』仲間だ。お互い、友人ですらない判定である。

「侑華さんが期待するようなことは、皆無です。彼は、星麗様の味方ではなく、公平な見方が出来る人なので、偏りのない情報をくれます。大変ビジネスライクな、ギブアンドテイクです。」

燈子は、右手の掌を侑華にむける。侑華は、残念だわと口の中で呟いている。

「ゴシップ誌に、載ってしまうような事が、ないといいのだけれど…」

この世界、紙も印刷技術も、ある。週に三回程度の発売で、安いわけではないのだが、新聞も、存在する。ある程度の階級以上であれば、数誌取ることが多い。ゴシップ誌も、当然のように存在する。ただ、まだ、手軽な『写真技術』はなく、かなり眉唾な情報が、多くはあるが…。世界は変われど…といったところだ。因みに、書籍も多く出版されていて、娯楽小説も、存外沢山あったりする。

「エリティス公爵家を、敵に回したい新聞社など、ないでしょうが…念のため、私から、陽真奥様に、急ぎで、一報、入れておきましょう。」

「来週には、夏休みですが…」

侑華は首を横に振った。

「いいえ、一刻も早い方が、良いわ。魔鳩を使いましょ」

魔鳩とは、とある別世界の『伝書バト』だ。魔物を飼い慣らし利用した先走りでもある。鳩よりずっと飛ぶのが早く、この世界では、特殊な魔道具を除けば、最も早い伝達手段の一つだ。

「わかりました。星麗様には…」

「明日は、楽しみにされていた、バルシュミーデ侯爵邸での音楽会…あなたも、帝都での買い物を楽しみにしていたでしょう?」

侑華は、微笑んだ。

「何れにしろ、『とりまき令嬢』の事は、調べて頂いている最中ですから。そうね…陽真様のお返事が着次第、お茶の時に、お伝えしましょう。」

「わかりました」

燈子は、ほっとして頷いた。気分が落ち着いたせいか、頭が廻り始める。

「あ、それから、侑華さんは、ムセルゼ男爵を、ご存じでしたよね?」

「ええ。でも、まあ、…男爵ご本人には、枝理戸(えりと)大森林地域の夜会で、一度ご挨拶しただけなの。深くは知らなくて。ご令嬢が居ることも、知らなかったわ。燈子さんも、ご存じだと思うけど、枝理戸(えりと)大森林と、私の父が、代官をしている甦馬戸(そまと)地区は接している。あの辺りは、魔物が多く出るけど、特に大量に出ることがあるの。そういった時、枝理戸大森林に、接している複数の代官家や領主が、協力して、討伐隊を組む。その中に、ムセルゼ男爵領もあったの。男爵領軍を指揮しているのは、男爵の従兄だから、彼には、何度かお会いしていて、ご家族とも、面識があるのだけどね」

どうしてだと言いたげな、侑華の灰色の瞳に、燈子は口を開く。

「その…これを機会に、ムセルゼ男爵令嬢について、もっと詳しく調べてみては…と思ったのです。」

燈子は、まだ、うまく言葉に出来なかったが、一連の出来事に、僅かに違和感を感じていた。

 流行の恋愛小説には、どこかの国の王子様が、身分違いの『ヒロイン』と、恋をして、『真実の愛』に目覚め、お互いに『障害を乗り越えて』結ばれる…という話があるが、それはあくまで、小説だ。そこに、『障害』として、おざなりに描かれる『悪役令嬢』にも、その侍女にも、人生はある。あるいは、『(本当は黒い)ヒロイン』に『(本当は白い)悪役令嬢』が追放されて、『真実の愛』に出会う話もある。その時おざなりに描かれる『(本当は黒い)ヒロイン』にも、人生はある。

ましてやこれは、現実だ。

 実際問題、星麗が、婚約解消されれば、燈子の人生計画は、初期で、大波乱だ。まあ…星麗は、現公爵の父とは、上手くいっていないが、現公爵は『婿』だ。まだまだ元気な前公爵の祖父にも、公爵夫人の母にも、とても愛されている。そして、エリティス公爵家は、控えめに言って絶大な力がある。婚約解消されたからと言って、『追放』だの、『修道院送り』だのあり得ない。最悪で、数か月『病気療養』程度だろう。ついでに、国王陛下も、小説のような『愚かな王』でも『病床にある王』でもなく、堅実な王だ。

第二王子も、若いから、『恋に浮かれて』が、ないとは言わないが…小説のような、馬鹿な王子ではない。

薔薇子がどんな人間かは、殆ど知らないが。『まるで小説のような今』に、どこか違和感を感じるのだ。

そう、誰かに、状況を作られているような…

「燈子さん?」

黙ってしまった燈子に、心配そうに侑華が、声をかけてくれる。

「ムセルゼ男爵令嬢は、外見や出来事、友人が居ないとか、学園祭で殿下と合奏をされたとか言った、断片的な情報はあるのですが…実際の所、私達は、ムセ、いえ『薔薇子嬢』の事を、よく知らないのです。彼女には、どんな家族が居るのか、子供時代をどう過ごしたか、どんな物の考え方をして、何を選び、そしてどう装うのか。

 新年の夜会、薔薇子嬢は、初の社交界参加(デビュタント)でしたが、エスコートされていたのは、お父様ではなく、『遠縁の』文官子爵の男性でした。あの夜会では、薔薇子嬢と星麗様は、お話する機会もありませんでしたので、遠目にちらりと、拝見したのみです。」

正確には、陽真夫人の意向で、関わらない様に、燈子と侑華が、気を使っても居たのだが。

「あの後から、少し調べたのですが…ムセルゼ次期男爵の、義理の兄と姉が、王都にいらっしゃるという事までしか、解らなくて」

「父親が来れないなら、普通、義理の兄が、エスコートしそうよね?」

燈子は頷いた。侑華も、「燈子さん、よく気が付くのね」と、うなづく。

「そうね、少し、調べてみましょう。実家の騎士で、口が堅い者に、ムセルゼ男爵領軍に知人がいないか、そこから、何か調べられないか、私も試してみるわ。」

「有難うございます」

と、侑華が、眉毛をすこし下げて申し訳なさそうにする。

「ごめんなさいね、あなたも学生なのに…何だか、嫌な役回りを、色々させてしまっている気がするわ」

燈子は、首をかしげてから、にやりとした。

「侑華さんと、この色々なストレスと、胸のむかつきが共有できて、よかったです。むかつきが、半分こされたのか、冷静になれました。それに、私、こういう『暗躍』に憧れていたので」

侑華は、クスリと笑ってくれた。

次は、土曜日か日曜日の21時にUpしたい…な?

服飾関連を描くのが楽しくて…ボリューム凄いのに、話が進みませんでした…てへ

ドイツ語、フランス語、英語が入り混じり、時代考証もなく混ざりまくり…いいよね☆ファンタジーだもん☆

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