炎の国
気づくと城前まできていた。何度も歩いた道だから、無意識な頭に代わって身体がここまで私を連れてきたのだろう。
城はまだ燃えていなかった。城が焼けるイメージはしていなかったから、火が回らなかったのだろう。
城に続く道を守るように、騎士や魔法使いが連なっている。剣を抜き、杖を向け、私を警戒している。
逃げた騎士が事前に報告でもしていたのだろう。
「第四小隊は倒したよ。今こうして私がここにいるのが唯一の証拠。まだ疑われるなら、何か取ってくればよかったね。まあ今さらそんなこと思っても遅いから、言えるのはこれだけ。逃げるなら私は殺さない。でも──」
私も剣先を向ける。
「邪魔をするなら、手加減はしない」
「何が目的だ」
さっきの隊長よりも重装備の騎士が一歩前に出て問いかけてくる。
「勇者の軌跡を屠る。この国は勇者に救われた。勇者がいなければ存在しえない国。だから、勇者の存在もろともこの国を消す。人はどうでもいいから、君らが逃げようがどうでもいい。だから、死にたくないならさっさと逃げなよ。君らが剣を向けようが逃げようが、この国が無くなるのは決定事項なのだから」
私は地面に転がっていた石ころを手にし、バッティング練習をするかのように、バットに見立てた剣を振って、ボールに見立てた石を城に向けて飛ばす。
摘めるくらいの小石が、城を貫通して、一部を崩落させる。
騎士と魔法使いはその轟音に目を向け、焦りを露わにしている。
私に問いかけてきた重騎士は、私が小石を打った瞬間に迫ってきていた。
両手で振られる重い一撃を、私は片手に持った剣で止める。
止められた剣を力で押し込むなんてせず、すぐに次の攻撃に移行する。重々しい姿のくせに、戦い方は実にスタイリッシュだ。
相手の剣を止めるのに、私は剣を左右持ち替え続ける。
時折金属同士が擦れて火花が散る。
後方にいた魔法使いも援護を始めて、絶え間ない氷柱の攻撃に水圧攻撃、沼による足止めに石弾の打ち込みが続く。
重騎士は一切魔法を気にせず戦っており、魔法も邪魔をしていない。連携の訓練が伺える。
重騎士の剣を止めながら、魔法も同様に受け流す。中々忙しい。
他の騎士は私を取り囲み、逃げられないように壁となっている。
「ここまでしても傷一つ負わせられない相手とどうしてまだ戦うの? 逃げれば死なないのに」
「騎士は国の為に戦う者だ! 己が可愛くて逃げる者など騎士ではない! 貴様は強い。今まで相対した何よりも強い! しかしそれがどうした。貴様に背を向ければ国が滅びるのは確実だ。しかし、こうして剣を交えれば、万が一にも貴様を止めることができるかもしれん。不確実を少しでも確実にする為に、我々は剣を振るうのだ!」
「──かっこいいね」
勇者は一生知ることのないかっこよさだ。勇者の存在が、そのかっこよさを奪っていたのだから。
「もっと早く、そのかっこよさを知りたかったよ。君も勇者の被害者だ」
「なんだと⁉︎ 我々は間違いなく勇者様に救われた。決して被害者などではない! 貴様の私怨で、勇者様を悪にするな!」
スキルだろうか。重騎士の剣を受け止めた私の剣の刀身が半分に切れた。
すかさず重騎士は流れるように刀身を私の体を上下に分かれさせるように当てる。
私の身体はそのまま切れることなく、圧力に従って数メートル飛ばされる。
重騎士は悔しそうな顔を見せながら、すぐに私に向かってくる。背後の騎士達も私を斬ろうと剣を強く握って駆け寄ってくる。
私は屈んだまま折れた剣を鞘に一度戻して、斬られるタイミングで再び剣を抜く。
刀身が元に戻った私の剣が、彼らを斬っていた。
誰かが言った。化物と。
「そうだね。君らからすればたしかに私は化物だ。なんたって魔王軍なのだから」
私は剣をしまって棒立ちになる。
逃げる者と立ち竦む者以外、気づくと皆死んでいた。身体のどこかを無くして。
何かが私を見ていた。彼らの命を奪った何かがだ。
イメージが上手くできなかったから、姿形は曖昧なのだろう。ただ、化物らしく、一瞬で命を奪うイメージだけをしたから。
手を伸ばすと、私はソレに触れることはなくも、ソレはたしかに私の手に触れて消えていった。
私は残りを放置してその場を去る。炎に包まれ焼け落ちていく城を背に。今生きている者に私に仇なせる者はいないから。
国を出る頃には朝日が昇っていた。相変わらず国は真っ赤だ。死体は燃えるのに、生きている人は燃えない不思議な炎に包まれている。
いつ消えるかは分からない。私がこの国を見下ろしたのは今日が初めてだから、もしかしたら一生この国は燃え続けるのかもしれない。勇者への怒りと毛綿の弔いの炎によって。




