初戦
指揮官と思われる者が馬から降りると、後続も全員降りて剣に手を掛ける
「勇者様がこの国にいると知っての所業か貴様!」
勇者。その言葉を鼻で笑う。
「勇者はもういない。殺したから」
その言葉に、騎士達は構えの姿勢に入る。
「馬鹿な事を申すでない! 勇者様が魔王軍の残党如きにやられるはずなかろう! 我らが勇者様を愚弄するな!」
「死んだんだよ。ついさっき。あっさりと。こうしてここに私がいるのが何よりの証拠。それと、私は魔王軍の残党じゃない。だって、前の魔王軍は勇者が滅ぼしたでしょ。だからこんなものがあるんだよ」
私は鞄にあった教皇から渡された褒章を投げる。
「これは……勇者様の──⁉︎」
拾い上げたそれを見て、指揮官は手を振るわせ、目を見開く。
悔しそうに力強く握りしめ、私に鋭い眼光を向ける。
「隊を成せ! かの者を勇者殺しの大罪人として、その場で処刑せよ!」
指揮官のその一声で、騎士達は剣を抜いて突っ込んでくる。
四方八方から振られる剣を、私は一本の剣でいなす。
「言ったよね。邪魔する者には容赦しないって。チャンスをあげるよ」
私は衝撃波で騎士を全員吹っ飛ばす。
「逃げたい者は逃げればいいよ。誰も責めはしない。責めるような人はもういないのだから。剣を取った人間は全員、死ぬんだもん」
足が竦む者がいる。剣を握る力を弱める者もいる。周りの顔を伺う者もいる。
「何を馬鹿な事を。行け! 今の言葉がこやつの弱さを示している! 勝てぬと分かっているから、戦力を削いでこの場を凌ぐつもりだ! 絶対に逃すな!」
私は指揮官に剣を向ける。
「逃げないんだ」
「誇り高き王国騎士団第四小隊の隊長だ! 国に背を向ける事は決してせん!」
「そっか」
私は地を蹴る。前みたいに力を入れたわけじゃないから地が凹む事はない。けど、その身体は軽やかに浮かび上がる。
「この死は君の選択だよ」
私は隊長の持つ褒章に剣を突き立て粉砕する。勇者の歴史が一つ、私の手によって消える。
隊長は後ろに大きく退きながら剣を抜き、刀身に光を浴びせる。
「スキル持ちか」
「そうだよ。隊長になるだけの実力はあるってことね。それとも、魔法では説明つかない現象だったのかな? 私、魔法には疎くて。知る機会なんて、与えてもらったことないから」
空を斬った剣は、光の斬撃を飛ばしてくる。
「いいねそれ。そういえば、あまり遠距離攻撃はしなかったな〜。ほら、そういうのは魔法使いの役割で、勇者は臨場感ある戦いをするイメージがあるでしょ」
「何を意味の分からんことを!」
私は同様に剣に光を纏わせて斬撃を飛ばす。互いの斬撃が相殺し合い、爆発が起きる。
「なっ⁉︎」
私は隊長に踏み込む。視界に全身を映せなくなるくらい近くに。至近距離で振った剣を、相手は首ギリギリでどうにか止める。
この場に派遣されただけあって、たしかに手練のようだ。軍とか隊とか動いているのを見たことなかったから、てっきりお飾りだと思ってたよ。
「た、隊長を援護しろ!」
一人の騎士のその声に、他の騎士も連携を取り始める。
誰かが私を斬ろうと剣を振る。私は隊長を力任せによろめかせ、その隙に振られた剣を斬る。
破片すら出さず、刀身が綺麗に折れる。
騎士はすかさずナイフを手に取り私の首を狙うが、ナイフが私の首に到達する前に、騎士の腕は地面に落ちていた。
「私、人は殺した事なかったんだよ。そういう依頼はなかったから。だから、君が一番初めになる?」
拾ったナイフを騎士の喉元に突き立てる。死を直前にした人間を──生物を初めて見た気がする。皆、そんな顔する前に死んでいったから。
騎士は斬られた腕を強く握りしめながら、腰を抜かして漏らしていた。
「よくやった!」
直後に隊長の声が聞こえた。
私が振り返ると、恐怖に満ちた顔をしている。
「な、なぜだ……今たしかに、首を……」
「ああ、斬ったんだ。認識できなかったから、私にはその現実反映されなかったみたいだね」
私はもう一度剣を向ける。
「逃げるか死ぬか、どっちがいい?」
一部の騎士は逃げ出した。隊長と残りの騎士は全員斬られた。魔物とモンスター、それと魔族の血が人の血で上書きされた。勇者の剣を穢せた。
私は剣についた血を振り飛ばして、鞘に収める。
こんなところで立ち止まれない。勇者の軌跡はまだまだ長いのだから。
でもその前に、もう一度毛綿が飛んでいった方を向く。砕いた魔石を風に乗せて手を合わせる。
「一人にしちゃってごめんね。どうか、安らかに」




