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魔王軍を名乗る者  作者: 輝静
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勇者の責務

 旅に出てから五つ国を訪れ、そして今日、ついに国直々に討伐依頼を出されてしまった。


「かつて倒しきれずに封印したはずのドラゴンが、溜まりゆく魔力に侵され、より凶暴性と攻撃力を増してしまい、封印を自ら破ってしまったと報告が入ってしまいまして。どうかご助力願えないだろうか、勇者様」


 魔王軍がいた時は、先に魔王軍が配下にする為にドラゴンとかそういう強力な魔物は回収していた。けど今はその魔王軍がいない。

 魔王軍の尻拭いは、ある意味勇者の役割ということなのか。望んでもいない殺しを、また……。


「依頼、ですよね。報酬はいかほどでしょうか」


 そう口にすると、陛下は目を逸らし、罰が悪そうに私を認識しないよう話し出す。


「聞くところによりますと、勇者様はスタンピードを始末した際、報酬は受け取らなかったと」


 その言葉の意味をすぐに理解できた。だから、今回も無償でやれとのこと。


「あれは、旅の途中のことで依頼されたわけではなかったので」

「では、ドラゴンの件も依頼ではないということで取り下げましょう。代わりに、勇者様の来訪を歓迎し、そこの使用人に我が国を案内させましょう。その道中でもしかしたらトラブルがあるかもしれませんが、それは別に国から依頼したことではありませんので」


 私の拳に力が籠る。たしかに魔王討伐の報酬はまだ残っている。でも、正直思ったほど多いものではなかった。道中旅資金は貰っていたから、それを差し引いての額なのだろう。

 魔石は高い。基本は人が蓄魔石に時間をかけて魔力だけを閉じ込めるか、魔物を倒さないと手に入らないのに、全ての魔物が持っているわけじゃないから。だから一番安くても夕方入場のテーマパークチケットが買える。高い物だと家だって買える。それを毎日三食分。一日分でゲーム機が買えるほど。

 私は魔力を保有していないから、買うか回収するかしか入手方法がない。


 でも、魔石の無断回収だって本来は違法行為。スタンピードの時だって、発覚するのが嫌で報酬捨てて逃げたようなもの。


 無闇やたらに、魔石が手に入るかも分からないのに魔物を殺したくない。でも、今後もこうしてボランティアで勇者をやってれば、いくら私が節約しても、毛綿の寿命が来る前に確実に魔石が尽きる。


「勇者として、そのような姑息な真似は見過ごせません」

「では、勇者様はこのまま放置すると。民が犠牲になる姿を。勇者としての責務を」

「私がいなければあなた方で対処しなければいけなかったはずです。私がいなければどうするおつもりなのでしょうか」

「勇者様の言う通り、貴方様がいなければ騎士や魔法使いが軍を成して討伐に赴くでしょう。多くの犠牲を払って。ですが、勇者様なら誰一人として犠牲を出さずに済みます。勇者様はそれでも、死地に迎えと国に仰るのでしょうか」

「報酬を出して下されば、私一人で赴きます。国の事なら賢明なご判断を期待しています」

「そもそも魔王討伐後の勇者に別件で報酬を出すという前例はないのです。勇者は皆、いなくなってしまわれたようですから。それに、貴方様がスタンピードを無償で収めたとの話はとうに知れ渡っています。もしここで報酬を出してしまった場合、他国から我が国が報酬を出さなければ、勇者様に無償で依頼をお願いできたのにと責められます。外交問題に発展する可能性もございます。それでも勇者様は出せと申すのですか? 国の終焉と報酬を」


 結局私は、ドラゴンの前に立つことになった。強固な意思で見捨てる選択肢だってあった。そもそも国の問題なのだから国が解決するのが当然だと。


 でも、部屋を出た後、話を聞いていたと思われる騎士に呼び止められた。

 まだ若かった。子供が生まれたばかりと泣いてきた。

 懐から小さな革袋を出して、私の手に置いて握りしめさせてきた。

 どうか、どうかお願いしますと。

 革袋の中身を見て、私はそれを騎士に返した。

 毛綿の一食分にすらならないその中身を取る気にはなれなかった。


 だから私は毛綿を安全な宿に置いた後、ドラゴンに剣を向ける。

 私は攻撃を受けても死なない。どんな攻撃を受けても。私は私が死ぬイメージができないから。

 でも毛綿は、一撃でも喰らえばあっさり死ぬ。

 安全なところがあるのなら、そこにいてもらう方が安心だ。


 毛綿を不安にさせない為にも早く帰らないとと、無心でドラゴンの攻撃を斬る。

 一撃で斬れればいいけれど、そういうわけにはいかない。

 固いイメージが先行して、剣の威力がそこまで乗らない。

 視界外の尾の攻撃に吹っ飛ばされ、木を何本か折った後、巨石に当たって地面にずり落ちる。汚れた服を叩きながら、無傷で立ち上がる。


 足に力を入れる。地面が割れ、深くめり込んだ足跡が付く。思いっきり蹴飛ばすと、ドラゴン目掛けて一直線に身体が宙に放たれる。

 剣を強く握ると刀身が光を帯びる。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 思いっきり声を出して剣を振る。ドラゴンの放つ魔法も、叩き落とされる尾も、差し伸ばされる手も全て斬り、両手で握っていた剣が片手になり、二百度ほど円を描いた頃には、私の身体はドラゴンと背中合わせになる場に着地していた。

 ゆっくりとドラゴンの方を振り返ると、静止したドラゴンはまるで今斬られたかのように血が流れ始め、胴体が上と下で少しずつずれ、上側が滑り落ちて轟音と土埃をあげる。


 正座をし、手を合わせる。


「今の世を見せられずごめんなさい」


 私は魔石がないことを確認した後凍結保存し、報告を済ませて宿に戻る。


「ただいま、けーちゃん」


 私に向かって跳ねてくるけーちゃんを、両手で包み込んで抱きしめる。


「ご飯にしようね」


 毛綿には魔石を、私は山菜を並べ、夕食をいただく。

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